上 下
10 / 13

十匹目

しおりを挟む
 チャリン……今日の貯金豚さんは悲しい音がする。
 家に帰ると小父さんに貰った十円玉を貯金箱に入れた。
 同じ十円玉でも、お母さんのお手伝いをして貰った十円玉を入れた時の方が凄く嬉しい。

「もう団地は駄目だ。違う場所を探そう!」

 団地の小母さんも小父さんも怖いので、違う場所を探そうと思う。
 猫と言ったら、魚をくわえた泥棒猫だ。裸足でお姉さんも追いかけていく。

「近所に魚屋さんはないから、海に行ってみようかな?」

 お母さんにはあまり遠くには行かないように言われている。
 朝早く起きて頑張って歩けば、夕方までには帰って来れると思う。
 よし、そうと決まったら早く寝るぞ。明日は新聞よりも早く起きてやる!

「ケンちゃん、晩ご飯だよ! 早く起きなよ!」
「う……うん、あと五分……」

 さっき寝たばかりなのにもう起こされる。
 どうしてみんな、僕の邪魔ばかりするんだろう。
 僕は野良猫を見つけたいだけなのに……。

「寝るなら、ご飯食べた後に寝ないと駄目だよ! 早く起きなよ!」
「うわぁー! う、うん、分かったぁ……」

 布団をれんちゃんに乱暴に取られてしまった。
 れんちゃんは僕よりも三つも年上だから力持ちだ。
 無理矢理起こされると晩ご飯に連れて行かれてしまった。

 ♢

「ご、ごちそうさまぁー!」

 朝ご飯を急いで食べると、炊飯器の余ったご飯でおにぎりを作った。
 これで昼ご飯に家に帰らなくていい。今日は遠くの海までの探検だ。

 ペットボトルにお茶を入れて、準備オッケーだ。
 リュックには家の電話番号と小父さんから貰った十円もある。
 いざという時はお母さんに公衆電話で救助要請も出来る。

「うん、完璧だ」

 プロの探検家みたいで感動してしまう。これで間違いなく、生きて家に帰れると思う。

 家を出発するとバス停がある広い道路を目指して進んでいく。
 周りの大人達が僕を監視するように見ている気がする。
 いつもの近所の道なのに、いつの間にか敵地に変わってしまったみたいだ。

「ふぅー……危なかった」

 何とか危険な近所を脱出するのに成功して、ホッと一安心した。
 これで誰にも邪魔されずに海を目指す事が出来る。

 大きな道路に到着したので、バス停の名前を確認しながら海に向かって進んでいく。
 バス停を目印に進んでいけば、目的地の海に迷わすに到着できてしまう。
 バス代はないけど、勇気とやる気があれば何でも出来る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ホントのキモチ!

望月くらげ
児童書・童話
中学二年生の凜の学校には人気者の双子、樹と蒼がいる。 樹は女子に、蒼は男子に大人気。凜も樹に片思いをしていた。 けれど、大人しい凜は樹に挨拶すら自分からはできずにいた。 放課後の教室で一人きりでいる樹と出会った凜は勢いから告白してしまう。 樹からの返事は「俺も好きだった」というものだった。 けれど、凜が樹だと思って告白したのは、蒼だった……! 今さら間違いだったと言えず蒼と付き合うことになるが――。 ホントのキモチを伝えることができないふたり(さんにん?)の ドキドキもだもだ学園ラブストーリー。

ちいさな哲学者

雨宮大智
児童書・童話
ユリはシングルマザー。十才の娘「マイ」と共に、ふたりの世界を組み上げていく。ある時はブランコに乗って。またある時は車の助手席で。ユリには「ちいさな哲学者」のマイが話す言葉が、この世界を生み出してゆくような気さえしてくるのだった⎯⎯。 【旧筆名、多梨枝伸時代の作品】

探検隊と古代人ココ

透けてるブランディシュカ
児童書・童話
探検隊と古代人の話。(※重複投稿しています)透坂雨音

マダム・シレーヌの文房具

猫宮乾
児童書・童話
マダム・シレーヌの文房具という巨大な文房具を使って、突如現実から招かれるマホロバの街で戦っているぼくたち。痛みはないけど、意識を失うか、最後の一人になるまで勝つかしないと、現実には戻れない。ぼくの武器は最弱とからかわれる定規だ。いつも強いコンパスなどに殺されている。ある日、現実世界に戻ってから、「大丈夫か?」と男の子に声をかけられた。※不定期更新です。

ミズルチと〈竜骨の化石〉

珠邑ミト
児童書・童話
カイトは家族とバラバラに暮らしている〈音読みの一族〉という〈族《うから》〉の少年。彼の一族は、数多ある〈族〉から魂の〈音〉を「読み」、なんの〈族〉か「読みわける」。彼は飛びぬけて「読め」る少年だ。十歳のある日、その力でイトミミズの姿をしている〈族〉を見つけ保護する。ばあちゃんによると、その子は〈出世ミミズ族〉という〈族《うから》〉で、四年かけてミミズから蛇、竜、人と進化し〈竜の一族〉になるという。カイトはこの子にミズルチと名づけ育てることになり……。  一方、世間では怨墨《えんぼく》と呼ばれる、人の負の感情から生まれる墨の化物が活発化していた。これは人に憑りつき操る。これを浄化する墨狩《すみが》りという存在がある。  ミズルチを保護してから三年半後、ミズルチは竜になり、カイトとミズルチは怨墨に知人が憑りつかれたところに遭遇する。これを墨狩りだったばあちゃんと、担任の湯葉《ゆば》先生が狩るのを見て怨墨を知ることに。 カイトとミズルチのルーツをたどる冒険がはじまる。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

【完結】僕のしたこと

もえこ
児童書・童話
主人公「僕」の毎日の記録。 僕がしたことや感じたことは数えきれないくらいある。 僕にとっては何気ない毎日。 そして「僕」本人はまだ子供で、なかなか気付きにくいけど、 自分や誰かが幸せな時、その裏側で、誰かが悲しんでいる…かもしれない。 そんなどこにでもありそうな日常を、子供目線で。

イチの道楽

山碕田鶴
児童書・童話
山の奥深くに住む若者イチ。「この世を知りたい」という道楽的好奇心が、人と繋がり世界を広げていく、わらしべ長者的なお話です。

処理中です...