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王様ルート★
第四十七話★ 黒パーカーの女
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五月初旬……ゴールデンウィークが終わった後に会社で歓送迎会が開かれた。事実上のゴールデンウィークの延長だった。飲んで騒いだ後に二日休むというものだった。
車で来ていたので、最初は酒を飲むつもりはなかった。けれども、何度も断り続けるのが正直面倒になってきた。ちょっとだけのつもりで飲み始めると、ちょっとではなくなってしまった。
「少し休んでから帰りますから、大丈夫です。お疲れ様でした」
元々、酒には強かったので、酒には興味がなかった。飲んでも飲んでも酔わない酒は苦い水と一緒だ。足をフラフラさせてタクシーに乗り込む同僚や上司を見送ると、ホテルの駐車場に駐めていた自分の車に乗り込んだ。
「30分でいいか」
酔いを覚ます時間ではない。これだけ遅れてホテルを出発すれば、同僚や上司のタクシーに追いつくはずはない。タクシーを止めて路上で誰かが吐いたり、小便を何度もしていなければ問題ない。予定通りに30分後に車を発進させた。
早く家に帰っても誰かが待っている訳ではない。それでも、ホテルの駐車場で朝まで無駄に過ごすよりは家に帰って、くだらない動画を見ながら寝た方がマシだ。
「料理はそこそこ美味しかったけど、場所が問題だな。こんな田舎のホテルをわざわざ選ばなくてもいいのに……」
自然に囲まれたホテルで憩いのひと時を……確かそんなキャッチコピーがホテルのどこかに貼られていた気がする。けれども、実際は上司の知人が経営しているホテルだ。憩いどころか、ほとんど接待と一緒で憩いの場所にはならなかった。
ゴールデンウィークの夜という時間帯も影響しているのか知らないけど、今のところは5分に一台しか対向車とすれ違っていない。酔っ払い運転、居眠り運転、目隠し運転でも3分は事故を起こさない自信がある。
「1……2……3……4……5…⁉︎」
冗談半分で一回だけ、5秒数えてから目を開けてみた。次の瞬間には道路に突っ立っている女の姿が見えた。
「馬鹿野朗っ⁉︎ くぅぅっ‼︎」
「……っ⁉︎」
速度はそこまで出していなかった。急ブレーキをかける必要はなかったが、心臓が早鐘を打って飛び出しそうだ。道路の真ん中に突っ立って、車のヘッドライトに照らされている若い女とは5メートルほどの距離が空いていた。
「はぁはぁ……巫山戯んなよ! 自殺したいなら首でも吊れよ。おい! あっ、つぅ~!」
車から降りて、今すぐに危ないだろうと注意しようと思った。自殺でも悪戯でもやっていい事と悪い事がある。けれども、今は状態というか、状況が酷く悪い事を思い出した。口から酒の臭いをさせるドライバーが、どの口で常識を語ろうと言うのだろうか? 飲酒運転をしている時点で白黒はとっくについている。
「すみません。車が来ないから車道を歩いていました。大丈夫ですか?」
来るな、来るな、という思いで女を睨みつけるものの、ヘッドライトに照らされた女はこっちに平然と向かって歩いて来る。
真っ黒なパーカーを着て、夜の車道を歩く女がどこにいる。自殺願望がないとしても、相当に捻くれた性格をしている女にしか見えない。このまま車をバックさせてから、他の車が通るのを待つしかない。二台並んで通れば女も飛び出そうとは思わないだろう。
「すみません。大丈夫ですか? 顔が赤いようですけど、もしかして、お酒とか飲んでましたか?」
「大丈夫だから、早く車の前から退いてくれ。他の車にも迷惑になるのが分からないのか!」
「えっ~? 何ですか? 聞こえません。ウインドウを下げてくれませんか」
こっちは手の平を横に振って、車の前から退けと女に指示する。逆に女の方は手の平を下に振って、ウインドウを下げろと指示する。声が聞こえていないはずはない。女の声が私にハッキリと聞こえるのに、同じぐらいの声量で話している私の声が、女に聞こえないはずはない。
クラクションを鳴らすのはマズい。警察を呼ぶのもマズい。そんなどうしようかと戸惑っている私の姿がおかしいのだろう。女は笑いながらポケットからスマホを取り出して、車のナンバーや私の顔を撮り始めた。
普通はこんな事を馬鹿な子供にされたら、車から降りて怒鳴るぐらいはする。でも、車から降りたら飲酒運転をしているのがバレてしまう。この八方塞がりの状況にどうする事も出来ない。
「ねぇ~、お兄さん。通行料を払ったら通れますよ。でも、通行料を払わないと警察に酔っ払い運転に轢き殺されそうになったって通報します。一万円で通れますけど、どうします?」
「ああっ~、くぅっ~、くそっ!」
飲酒運転してそうな車の前に飛び出して、口止め料を貰う手口か……地元の不良達の小遣い稼ぎなんだろう。金を払ったら飲酒運転を認めているようなものだ。けれども、逃げた場合はどうなるか分からない。
女が自分で転んで怪我すれば、打つかられたと嘘を吐く事が出来る。捜査すれば、酒を飲んでいた事ぐらいは簡単に判明する。警察に捕まるよりは、通行料という口止め料の一万円を払った方がマシなのか。
車で来ていたので、最初は酒を飲むつもりはなかった。けれども、何度も断り続けるのが正直面倒になってきた。ちょっとだけのつもりで飲み始めると、ちょっとではなくなってしまった。
「少し休んでから帰りますから、大丈夫です。お疲れ様でした」
元々、酒には強かったので、酒には興味がなかった。飲んでも飲んでも酔わない酒は苦い水と一緒だ。足をフラフラさせてタクシーに乗り込む同僚や上司を見送ると、ホテルの駐車場に駐めていた自分の車に乗り込んだ。
「30分でいいか」
酔いを覚ます時間ではない。これだけ遅れてホテルを出発すれば、同僚や上司のタクシーに追いつくはずはない。タクシーを止めて路上で誰かが吐いたり、小便を何度もしていなければ問題ない。予定通りに30分後に車を発進させた。
早く家に帰っても誰かが待っている訳ではない。それでも、ホテルの駐車場で朝まで無駄に過ごすよりは家に帰って、くだらない動画を見ながら寝た方がマシだ。
「料理はそこそこ美味しかったけど、場所が問題だな。こんな田舎のホテルをわざわざ選ばなくてもいいのに……」
自然に囲まれたホテルで憩いのひと時を……確かそんなキャッチコピーがホテルのどこかに貼られていた気がする。けれども、実際は上司の知人が経営しているホテルだ。憩いどころか、ほとんど接待と一緒で憩いの場所にはならなかった。
ゴールデンウィークの夜という時間帯も影響しているのか知らないけど、今のところは5分に一台しか対向車とすれ違っていない。酔っ払い運転、居眠り運転、目隠し運転でも3分は事故を起こさない自信がある。
「1……2……3……4……5…⁉︎」
冗談半分で一回だけ、5秒数えてから目を開けてみた。次の瞬間には道路に突っ立っている女の姿が見えた。
「馬鹿野朗っ⁉︎ くぅぅっ‼︎」
「……っ⁉︎」
速度はそこまで出していなかった。急ブレーキをかける必要はなかったが、心臓が早鐘を打って飛び出しそうだ。道路の真ん中に突っ立って、車のヘッドライトに照らされている若い女とは5メートルほどの距離が空いていた。
「はぁはぁ……巫山戯んなよ! 自殺したいなら首でも吊れよ。おい! あっ、つぅ~!」
車から降りて、今すぐに危ないだろうと注意しようと思った。自殺でも悪戯でもやっていい事と悪い事がある。けれども、今は状態というか、状況が酷く悪い事を思い出した。口から酒の臭いをさせるドライバーが、どの口で常識を語ろうと言うのだろうか? 飲酒運転をしている時点で白黒はとっくについている。
「すみません。車が来ないから車道を歩いていました。大丈夫ですか?」
来るな、来るな、という思いで女を睨みつけるものの、ヘッドライトに照らされた女はこっちに平然と向かって歩いて来る。
真っ黒なパーカーを着て、夜の車道を歩く女がどこにいる。自殺願望がないとしても、相当に捻くれた性格をしている女にしか見えない。このまま車をバックさせてから、他の車が通るのを待つしかない。二台並んで通れば女も飛び出そうとは思わないだろう。
「すみません。大丈夫ですか? 顔が赤いようですけど、もしかして、お酒とか飲んでましたか?」
「大丈夫だから、早く車の前から退いてくれ。他の車にも迷惑になるのが分からないのか!」
「えっ~? 何ですか? 聞こえません。ウインドウを下げてくれませんか」
こっちは手の平を横に振って、車の前から退けと女に指示する。逆に女の方は手の平を下に振って、ウインドウを下げろと指示する。声が聞こえていないはずはない。女の声が私にハッキリと聞こえるのに、同じぐらいの声量で話している私の声が、女に聞こえないはずはない。
クラクションを鳴らすのはマズい。警察を呼ぶのもマズい。そんなどうしようかと戸惑っている私の姿がおかしいのだろう。女は笑いながらポケットからスマホを取り出して、車のナンバーや私の顔を撮り始めた。
普通はこんな事を馬鹿な子供にされたら、車から降りて怒鳴るぐらいはする。でも、車から降りたら飲酒運転をしているのがバレてしまう。この八方塞がりの状況にどうする事も出来ない。
「ねぇ~、お兄さん。通行料を払ったら通れますよ。でも、通行料を払わないと警察に酔っ払い運転に轢き殺されそうになったって通報します。一万円で通れますけど、どうします?」
「ああっ~、くぅっ~、くそっ!」
飲酒運転してそうな車の前に飛び出して、口止め料を貰う手口か……地元の不良達の小遣い稼ぎなんだろう。金を払ったら飲酒運転を認めているようなものだ。けれども、逃げた場合はどうなるか分からない。
女が自分で転んで怪我すれば、打つかられたと嘘を吐く事が出来る。捜査すれば、酒を飲んでいた事ぐらいは簡単に判明する。警察に捕まるよりは、通行料という口止め料の一万円を払った方がマシなのか。
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