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警察ルート☆
第五十話☆ 崖に追い詰められた者
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「はぁはぁ……ぷはぁっ♪」
2リットルのお茶を飲みながら、俺は相模陽平が向かった東を目指している。刑事の勘と刑事の知識とサスペンスの帝王・船越英一郎が、俺に犯人は東の崖にいると訴えているのだ。
おそらく相模は単独で移動している。松島麻未を人質に取りながら、警察官を倒している可能性はかなり低い。躊躇なく警察官の喉を裂いて殺す人間が、10日以上も貴重な食糧を分け与えて、松島麻未と住むとは考えにくい。早くて三日、遅くても一週間前後には殺害している。奴が最低でも、松島麻未に水ぐらいは飲ませていたはずだ。
「説得するか、突き落とすか、間に合うか、間に合わないか……」
東側といっても範囲は広い。相模が崖に辿り着く前に、見つけて捕まえるしかない。余罪も含めて殴れば、汚い埃が色々と出て来る奴だ。絶対に捕まえてやる。他の警察官もきっと同じ事を考えている。そうじゃなきゃ、あんな奴にやられるはずがない。こっちが殺せないと分かっているからって、あのクソ野郎!
東に向かって進んでいるのに、洞窟に向かって来る警察官と出会わない。まだ、ここまで登っていないだけか、それとも、山の斜面に倒れているのか……とにかく、今は負傷した警察官の捜索は出来ない。それは応援に来た警察官達に任せるしかない。
「はぁはぁ……はぁはぁ……これは?」
立ち止まって乱れた呼吸を整える。下を向いて地面を見ると、複数の足跡が残っていた。残っているのは当たり前だ。警察官が歩き回っている。けれども、東の方向に爪先が向いているのはおかしい。通り難いから回り道をした可能性はもちろんある。でも、ずっと東に向かって進んでいる足跡があるのはおかしい。
「これが相模の足跡なのは分からない。でも、手掛かりがない状況で別の手掛かりを探す時間はない。追うしかないか」
制限時間は残り少ない。夜になってしまうと足跡を探すのも難しくなる。相模を捕まえた場合は、携帯電話で田代さんに連絡すれば迎えに来てくれる。でも、今は刑事の勘を話して、包囲網を乱すのは控えた方がいい。俺の勘が間違っていた場合は逃げられてしまう。
「まだ見えない。どこまで続くんだ?」
1時間43分……もうすぐ2時間以上、足跡や人が通ったような跡を追い続けている。相模の後ろ姿が見えれば追いかけっこは終了だ。けれども、よく考えれば、真っ直ぐ進むだけの相模と、足跡を見失わないように追い続ける俺とは一歩歩く時間が違う。逃げる方が有利な状況が続いている。差は開くばかりだ。
「泣き言や文句を言う暇はないぞ! とにかく進まないと駄目だ。犯人を追わない警察官がどこにいる!」
額から流れる汗を服の袖で拭くと、制服のボタンを外した。これで少しは涼しくなった。本当は制服を脱ぎ捨てたいけど、そこは我慢だ。制服が見つかるまで帰れなくなる。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
ひたすらに足跡を追い続けた。もう山が終わり、壁になりそうだ。風が吹き、海の音が聞こえる。波の音に船の音、それに……かすかに海水浴を楽しむ人達の声が聞こえた。もう手遅れかもしれない。だが、山を抜けた先にあった平らな草地に、相模陽平がこっちを向いて立っていた。
「なっ⁉︎」
「……ああっ、あの時の警察官か。スーパーでは惜しかったね。黒いパーカーなんて、いつまでも着る訳がない。今度は間違えなかったようだけど、かなり遅かった。私がここに着いたのは30分以上も前だ」
スーパーに、黒パーカー……つまりはあの時に相模もスーパーの近くにいたという訳か。くっ……その時に俺が見つけて捕まえていたら、松島麻未も警察官も被害に遭わなかったのか。くっ、今は後悔するよりもコイツを捕まえるのが先だ。
「相模陽平だな。松島麻未の脅迫誘拐、警察官への殺人・暴行容疑、藤代明音宅への不法侵入、野良猫への動物愛護法違反で逮捕する」
「ふっふふ……それだけでいいのか?」
「貴様ぁ~!」
他にもあるだろうと相模が笑っている。挑発しているのは分かっている。この場にいるのは俺だけだ。飛び掛かって崖下に突き落とされても、相模に飛び降りられても終わりだ。冷静に、冷静に対応するしかない。
「他にも……大塚南の事か?」
「ほぉ…日本の警察は予想以上に優秀だな。その名前が出て来るとは思わなかった。私を変えてくれた愛する人だ」
試しに、田代さんが言っていた女子高校生の名前を話したら、ビンゴだった。おそらく生きてはいない。もしかすると、人身売買の可能性もある。その場合は生きている可能性もある。
「どこにいる? 殺したのか?」
「……くだらない質問だ。生や死は捉え方次第でどうとでもなる。南は私の身体の一部となって生き続けている。それに今も私と愛し合い子供達を育て続けている」
「——殺したのかと聞いているんだぁ~‼︎」
コイツの命はどうでもいい。肝心なのは連れ去られた女性が生きているか、死んでいるかだ。コイツの精神論に興味はない。
「……そこを調べるのが警察の仕事だろう? せいぜい悩み考えろ。私のようにな……」
「はぁっ? あっ! 待って!」
止める間もなかった。相模陽平は回れ右をすると、その先に道があるように真っ直ぐに崖に向かって歩いて行った。そして、地上に向かって落下していった。
2リットルのお茶を飲みながら、俺は相模陽平が向かった東を目指している。刑事の勘と刑事の知識とサスペンスの帝王・船越英一郎が、俺に犯人は東の崖にいると訴えているのだ。
おそらく相模は単独で移動している。松島麻未を人質に取りながら、警察官を倒している可能性はかなり低い。躊躇なく警察官の喉を裂いて殺す人間が、10日以上も貴重な食糧を分け与えて、松島麻未と住むとは考えにくい。早くて三日、遅くても一週間前後には殺害している。奴が最低でも、松島麻未に水ぐらいは飲ませていたはずだ。
「説得するか、突き落とすか、間に合うか、間に合わないか……」
東側といっても範囲は広い。相模が崖に辿り着く前に、見つけて捕まえるしかない。余罪も含めて殴れば、汚い埃が色々と出て来る奴だ。絶対に捕まえてやる。他の警察官もきっと同じ事を考えている。そうじゃなきゃ、あんな奴にやられるはずがない。こっちが殺せないと分かっているからって、あのクソ野郎!
東に向かって進んでいるのに、洞窟に向かって来る警察官と出会わない。まだ、ここまで登っていないだけか、それとも、山の斜面に倒れているのか……とにかく、今は負傷した警察官の捜索は出来ない。それは応援に来た警察官達に任せるしかない。
「はぁはぁ……はぁはぁ……これは?」
立ち止まって乱れた呼吸を整える。下を向いて地面を見ると、複数の足跡が残っていた。残っているのは当たり前だ。警察官が歩き回っている。けれども、東の方向に爪先が向いているのはおかしい。通り難いから回り道をした可能性はもちろんある。でも、ずっと東に向かって進んでいる足跡があるのはおかしい。
「これが相模の足跡なのは分からない。でも、手掛かりがない状況で別の手掛かりを探す時間はない。追うしかないか」
制限時間は残り少ない。夜になってしまうと足跡を探すのも難しくなる。相模を捕まえた場合は、携帯電話で田代さんに連絡すれば迎えに来てくれる。でも、今は刑事の勘を話して、包囲網を乱すのは控えた方がいい。俺の勘が間違っていた場合は逃げられてしまう。
「まだ見えない。どこまで続くんだ?」
1時間43分……もうすぐ2時間以上、足跡や人が通ったような跡を追い続けている。相模の後ろ姿が見えれば追いかけっこは終了だ。けれども、よく考えれば、真っ直ぐ進むだけの相模と、足跡を見失わないように追い続ける俺とは一歩歩く時間が違う。逃げる方が有利な状況が続いている。差は開くばかりだ。
「泣き言や文句を言う暇はないぞ! とにかく進まないと駄目だ。犯人を追わない警察官がどこにいる!」
額から流れる汗を服の袖で拭くと、制服のボタンを外した。これで少しは涼しくなった。本当は制服を脱ぎ捨てたいけど、そこは我慢だ。制服が見つかるまで帰れなくなる。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
ひたすらに足跡を追い続けた。もう山が終わり、壁になりそうだ。風が吹き、海の音が聞こえる。波の音に船の音、それに……かすかに海水浴を楽しむ人達の声が聞こえた。もう手遅れかもしれない。だが、山を抜けた先にあった平らな草地に、相模陽平がこっちを向いて立っていた。
「なっ⁉︎」
「……ああっ、あの時の警察官か。スーパーでは惜しかったね。黒いパーカーなんて、いつまでも着る訳がない。今度は間違えなかったようだけど、かなり遅かった。私がここに着いたのは30分以上も前だ」
スーパーに、黒パーカー……つまりはあの時に相模もスーパーの近くにいたという訳か。くっ……その時に俺が見つけて捕まえていたら、松島麻未も警察官も被害に遭わなかったのか。くっ、今は後悔するよりもコイツを捕まえるのが先だ。
「相模陽平だな。松島麻未の脅迫誘拐、警察官への殺人・暴行容疑、藤代明音宅への不法侵入、野良猫への動物愛護法違反で逮捕する」
「ふっふふ……それだけでいいのか?」
「貴様ぁ~!」
他にもあるだろうと相模が笑っている。挑発しているのは分かっている。この場にいるのは俺だけだ。飛び掛かって崖下に突き落とされても、相模に飛び降りられても終わりだ。冷静に、冷静に対応するしかない。
「他にも……大塚南の事か?」
「ほぉ…日本の警察は予想以上に優秀だな。その名前が出て来るとは思わなかった。私を変えてくれた愛する人だ」
試しに、田代さんが言っていた女子高校生の名前を話したら、ビンゴだった。おそらく生きてはいない。もしかすると、人身売買の可能性もある。その場合は生きている可能性もある。
「どこにいる? 殺したのか?」
「……くだらない質問だ。生や死は捉え方次第でどうとでもなる。南は私の身体の一部となって生き続けている。それに今も私と愛し合い子供達を育て続けている」
「——殺したのかと聞いているんだぁ~‼︎」
コイツの命はどうでもいい。肝心なのは連れ去られた女性が生きているか、死んでいるかだ。コイツの精神論に興味はない。
「……そこを調べるのが警察の仕事だろう? せいぜい悩み考えろ。私のようにな……」
「はぁっ? あっ! 待って!」
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