上 下
46 / 62
警察ルート☆

第四十五話☆ 天狗山

しおりを挟む
 ローラー作戦三日目終了、バス停付近の建物の捜索は完全に失敗した。防犯カメラが少なかった訳ではない。どのカメラにも相模陽平と松島麻未の二人の姿が映っていなかったのだ。有力な目撃情報だと思われていた情報の信憑性が疑われ始めていた。

「やっぱり、山も探した方がいいんですよ。こっちにいないなら、もう探す場所は山しかありませんよ!」
「……」

 午後9時、捜索終了だと駐車場に止めていた警察車両に警察官達は乗っていく。皆んな、朝から夜の捜索で疲れた顔を見せている。今では、ここから車に乗って別の場所に移動したんじゃないかとか、船を所有しているとか、そんな馬鹿げた案が飛び出しているぐらいだ。そこに山登りを提案しても賛成を得るのは難しいのは分かっている。
 
「反対なのは分かっています。俺一人でも、あのぐらいの山なら一日あれば探せますから任せてください」

 現場の責任者である田代さんに俺は直談判した。駄目だと言われても、有給休暇を消費してでも探すつもりだった。けれども、その必要はないようだ。田代さんの口から信じられない言葉が返ってきた。

「……それは駄目だ。山を探すならば全員で探す。山を舐めるな」
「えっ? いいんですか?」
「ああ、山の所有者とは連絡が取れている。好きに探してもいいそうだ」
「だったら、連絡が取れた時に山を探しましょうよぉ~」

 山は国有地ではなかったので、所有者の許可を得るのに時間がかかったそうだ。それでも、許可を取れたのは昨日の事だった。今日、探せていたはずなのに、何故やらなかったのか? それは山にいないと誰もが思っているからだろう。
 常識的に考えれば、この暑さの中に飲み水も無いような山の中で暮せるはずがない。その証拠に相模陽平はコンビニで弁当を買って食べていたぐらいだ。食糧が山に豊富にあるならば、食糧を買う必要はない。けれども、俺の刑事の勘が言っている。

 ここも探した方がいいんじゃないかと……もちろん見つからなかった時は責任を取るつもりはない。
 
 ・
 ・
 ・

 今日、捜索する山は天狗山と呼ばれる山だった。山の中を道路は通っていない。反対側の住吉市に行くには、海岸線を埋め立てて作られた道路を通るしかない。山登りなんて小学校のピクニック以来だ。

「自動販売機は無いから、喉が渇いたら我慢するしかない。飲み水は今のうちに自動販売機で買って来いよ!」
「……4リットルあれば大丈夫ですよね?」

 ペットボトルのお茶を二本持って来ている。松島麻未が山中に監禁されていた場合にも、飲み水を分け与えられる十分な量だと思う。とりあえず浜松警察署の中でも山登りが趣味の人が集まったようなので、登山フル装備の人に聞いておけば問題ない。

「飲み過ぎなければ大丈夫だと思いますよ」
「そうですか……猪とかいないですよね?」
「もちろんいますよ。猪も毒蛇もいます。毒蛇に噛まれた場合はすぐに蛇を捕まえてくださいね。蛇の種類が分かれば、血清を用意するのに参考になりますから」
「あっははは、頑張ります」

 拳銃の携帯は許可されていない。猪が襲い掛かって来た場合は素手での格闘戦になる。捜索隊の人数も二十五人と昨日の半分しかいない。山登りは体力のある若い連中に任せて、40代、50代は署でデスクワークをするようだ。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

あやかしのうた

akikawa
ホラー
あやかしと人間の孤独な愛の少し不思議な物語を描いた短編集(2編)。 第1部 虚妄の家 「冷たい水底であなたの名を呼んでいた。会いたくて、哀しくて・・・」 第2部 神婚 「一族の総領以外、この儀式を誰も覗き見てはならぬ。」 好奇心おう盛な幼き弟は、その晩こっそりと神の部屋に忍び込み、美しき兄と神との秘密の儀式を覗き見たーーー。 虚空に揺れし君の袖。 汝、何故に泣く? 夢さがなく我愁うれう。 夢通わせた君憎し。   想いとどめし乙女が心の露(なみだ)。 哀しき愛の唄。

処理中です...