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第四十四話☆ 有力な目撃情報

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「相模陽平が松島麻未と一緒に海水浴場行きのバスに乗って、ここで降りた。この辺にあるのは集合マンションだけで、工場勤務の労働者も多い。身元を偽って、手取りで現金収入を得ている可能性もある。もちろん、共犯者の部屋に松島麻未を監禁して、工場労働者に性的なサービスをさせている可能性もある。不特定多数の男が出入りする怪しい建物を見逃すんじゃないぞ!」

 相模と松島を目撃したという有力情報が手に入った事で捜査は大きく進展した。地域の警察官の協力を得て、50人規模ながらも、警察官を多数動員して、相模と松島が降りたバス停付近の捜索が始まった。
 
「やっぱり共犯者がいたんですね。だって、周辺のスーパーやコンビニに相模の姿が一度も映っていないのは変でしたからね」

 ついに犯人確保の瞬間がやって来た。まあ、人質を取られて立て籠り事件に発展する可能性も無きにしも非ずだ。その場合は長期戦で相模を疲弊させれば問題ない。こっちの苦労も少しは分かるはずだ。

「藤岡、まだ決定じゃない。宅配や出前なら、人に会う必要はないからな。単独犯の可能性もまだある」
「それならそれで明らかに出前が多い家が怪しいじゃないですか。もう捕まえたのも同然ですよ!」
「お前は単純だな……とりあえずこの付近に防犯カメラがあれば、映像の回収、今日はそれだけでいいんだよ」

 相模が隠れている場所はバス停付近で間違いない。嫌がる女を引き摺って、わざわざ隠れ住んでいる家より遠いバス停には降りたりしない。その証拠にバス停を降りた後の二人の目撃情報は見つかっていない。次のバス停か、前のバス停の間の建物に隠れ住んでいるはずだ。
 
「向井さん、そんな悠長なぁ~。相模に逃げられたらどうするんですか? 一気に俺らで勝負を決めましょう!」

 連日のように浜松警察署には山下美聡が捜査状況を聞きに来ていた。これ以上、『手掛かりはありません』と答える事は出来ない。例え死体だろうと、松島麻未を連れて帰るのが、警察官の義務だと俺は思う。

「そうは言っても、建物の中を令状も無しで、一部屋一部屋見て回れないんだぞ。まずは潜伏範囲を狭めていくのが、ローラー作戦の基本だ。犯罪者を捕まえる為に、ルール無用で家に押し入る事は許されない」
「ルールを守って、人命が守れないなら警察なんて意味ないですよ! 連れ去られて一週間ですよ。向井さんの娘が誘拐されても、ルールを守るんですか!」
「それとこれとは話が違う。これは仕事で、娘が誘拐された時は父親の仕事をする。多少強引でも、その時は怪しい場所は調べる。でも、今の俺は警察官だ。そして、お前も警察官だ。犯罪者じゃないんだ。ルールは守れ」
「ああっ~! 分かりました!」

 これ以上は何を言っても無駄だ。感情的になる警察官は捜索隊から外されてしまう。
 反則行為が可能な犯罪者に対して、警察は常に後手後手の対応しか出来ていない。自殺したはずの相模が山向こうの住吉市で見つかってから、もう一ヶ月以上も経過している。
 それなのに警察は積極的に捕まえようとせずに、事件を起こすのを待っていたぐらいだ。あの時、キチンと住吉署と浜松署が連携して動いていれば、失踪事件は起きていなかった。明らかに俺達警察官の失敗だ。そして、それを上の人達は公表するつもりがない。
 いつもそうだ。本当ならば山の中も調べた方がいい。相模は鳥の餌を買っていた。家で飼っている可能性と野鳥を飼っていた可能性がある。公園や海辺でハトや海鳥に餌をやっている目撃情報がないなら、残りは山の中しかない。

 鳥の餌、プラスチックの箱、金属の棒、輪ゴムだ。この四つを使えば鳥を捕まえられる罠が作れる。
 箱を逆さにして、棒二本で箱の角の二ヶ所を押さえて、片側を斜めに浮かび上がらせた状態にする。金属の棒に輪ゴムを通して、その輪ゴムを輪ゴムで繋いでいけば、遠くから引っ張る事が出来る。あとは餌に寄って来た鳥を、輪ゴムを引っ張る事で箱に閉じ込めて捕獲できる。

 目的は不明だけど、鳥を飼っているならば、罠を作る為の材料は必要ない。鳥籠を買わなかったのならば、既に家にあるからか、飼うつもりがないからだ。つまりは捕まえた鳥を殺していると見ていい。
 水や食糧がないからという理由で、山の中に潜伏している可能性は排除されたけど、やっぱり探した方がいいんじゃないのか?

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