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第四十一話☆ 八月末までの戦い

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「あの野郎ぉ~! 空き巣、動物虐待、買春、脅迫、誘拐と順調に罪を重ねやがって! 次は殺人でもするつもりかぁ~!」

 田代の怒号が捜査三課に響いた。
 何かやるとは思っていた相手がついに若い女を脅迫して姿を消したのだ。早めに相模陽平を見つけていれば、防げていた犯罪だったと相模と自分自身に腹が立っているようです。

「田代さん、起きてしまった事はどうしようもないじゃないですか。それに誘拐されて、まだ五日目です。誘拐された女性が生きている可能性が高いんです。今は怒るよりも見つけて保護する方が先なんじゃないですか?」
「うるせい! 藤岡の癖に俺に説教してんじゃねぇよ!」
「痛っ⁉︎ これ、暴行ですからね!」
「うるせい! 怒っている暇があったら、相模の行き先を探せ! 馬鹿野郎ぉ~!」
「なっ⁉︎」

 藤岡は警察官として、まともな事を言ったつもりなのに、右足の脹脛を蹴られました。理不尽な先輩同僚の暴力と罵声にただ怒りを抑えるしかありません。そんな藤岡の怒りなんてどうでもいいと言った感じに、捜査三課の警察官が意見を交わしていきます。

「七月の猫殺しもそうだが、今回も海辺か……つまりは七月から海水浴場に来ていた女性を狙っていたんだろうな。だとしたら、被害者は別にもいるんじゃないのか? それなのに被害届けが出ているのは、これ一件だ。すぐに帰って来るんじゃないのか?」

 相模の犯行はどれもが軽犯罪で、今回は金の力で女を抱こうという、いかにも小者がやりそうな事です。警察官の中には楽観視している者も何人かいるようです。

「脅迫しての買春か、もしくは裸の映像を撮られたか……これなら女性が被害届けを出そうとは思わないんじゃないのか? 空き巣は六月、猫殺しは七月、今回の脅迫誘拐は八月だ。相模は月一ペースで何かやっている。それに五月に起きた女子高生の失踪事件も、俺は相模が怪しいと思っている」

 逆に田代は相模陽平が日常的に犯罪を犯すタイプの人間だと主張しています。
 被害届けが出ていない、警察が分かっていないだけで、多くの軽犯罪や重大犯罪をやっている可能性もあると主張します。

「相模の大学生時代のバイト代、就職後の給料、これらを合わせても、23歳の男が350万の大金を銀行に預金できると思うか? 奴は何かしらの犯罪行為で金を作る知恵に長けている。そうじゃなければ、郵便ポストに財布を入れるなんて思いつくはずはない。奴を小者と思わない方がいい!」
「……だが、全部推測だろ? 女子高生の失踪、空き巣、野良猫殺しは相模がやったという証拠はないぞ。相模の実家から採取した指紋で相模が生きている事は判明した。確実にやったと証拠があるのは、金を出して、海水浴場で出会った女とやったという事だけだ。財布を郵便ポストに入れて、女と出て行った。田代、これが犯罪か?」

 熱のこもった声で田代は相模陽平の大規模捜査を主張します。けれども、その考えには捜査三課の課長、宗方純一郎むなかたじゅんいちろう、48歳は納得できないようです。証拠もない。犯罪をやった訳でもない。そんな男を探す為に100人規模の警察官を動かせるはずがありません。暴走する部下を止めるのは上司の仕事です。
 
「課長! 被害者の死体が見つからないと捜査しないつもりですか! 今の段階で動けるのは俺達だけなんです。俺達が今動かないと死体が出た後は捜査一課の仕事になるんですよ! それでいいんですか!」
「落ち着け、田代」
「ですが!」
「俺は捜査しないとは言っていないぞ。田代、向井、藤岡の三人は海水浴場周辺で起きている盗撮、置き引き、その他もろもろのパトロールと捜査をして来い。期限は八月末までだ。何も見つからなかったら、相模が九月に何かやるのを大人しく待つしかないぞ」

 興奮する部下達の声を宗方純一郎は終始落ち着いて聞いていました。ここで何もしなければ、三課に所属する捜査員達が、他の捜査にも集中できずに、支障を来すのは目に見えています。だとしたら、捜査員の三人程度は小さな被害です。相模陽平が現れた海水浴場の捜査に行かせました。

 

 

 

 
 

 
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