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第二十九話★ 灯台下暗し

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 スーパーにある電子レンジで弁当二つを温めると、近くの公園で食べる事にした。昼時という事でさっきまで公園で遊んでいた子供達は家に帰ったようだ。
 それにしても、馬鹿な警察官のお陰で良い情報が手に入った。おそらく私が生きている事とこの周辺に潜伏していると警察は睨んでいると思っていい。そうでないと黒パーカーを着た男=相模陽平という発想にはならない。

「野良猫を殺した時か、買い物に出かけた時か……」

 どちらも同じ日にやった事だ。そして、山を降りたのは一回だけだ。しかも、降りたのは南側の町だ。だからこそ、北側の町で私を探すのは少しおかしい。
 実は誰かが山の中で私が生活しているのを見ていたとしてもおかしい。不審な男がいると通報があったのならば、山の中を探しているはずだ。

「いや、待てよ。そもそも生きていると考える方がおかしい」

 空き巣事件を起こしたのは今から、二ヶ月と二週間前の事だ。海で死体が見つからないから、陸を探しているとしても、探すならば自動車が放置されていた他県の海岸周辺の町になる。ここにいると思うはずがない。だとしたら、野良猫殺しを誰かが見ていて、それを私がやったと確信があるからだ。つまりは防犯カメラに私の顔が映っていたという訳になる。

「運がない。あの程度の事で生きていると知られるなんて……」

 今更悔やんでももう遅い。普通に海岸をウロウロしていれば、防犯カメラに映っていたとしても何も問題なかったはずだ。警察に知られている私の罪に、空き巣以外に猫殺しが加わってしまった、そう覚悟するしかない。

 それにしても、何故私が空き巣事件の犯人だと睨んでいるのだろうか? あの時はフードを被っていた。指紋も残っていない。身に付けていた服も靴も全て新品を使用した。顔は絶対に見られていないと自信がある。
 だとしたら、野良猫殺し単体で捜査をしていて、私が容疑者として浮上した事になる。けれども、その場合は野良猫殺しの犯人=私にはなるが、私=黒パーカーの男にはならない。つまりは両方の事件に関係するものが、証拠として現場に残っていたという事になる。

 顔は違う。隠していたから分かるはずがない。服装は違っていた。空き巣事件の時に毛髪が落ちていたとは思えない。何だ? 何を間違った? あの時と同じ物……。

「靴か」

 ソッと足元を見て気づいた。灯台下暗しとはこういう事なんだろう。空き巣事件の時と野良猫殺しの時と一緒なのは、靴だけだった。猫の身体に残っていた靴跡と、空き巣事件の現場に残っていた靴跡が一致したと思うしかない。だとしたら、急いでやる事は靴を替える事だ。今履いている靴は、その辺にあるゴミ捨て場の燃やせるゴミ袋に入れれば問題ない。
 そうする事でこの近くで犯罪が起こっても、私の犯行だと確定する事は出来なくなる。けれども、新しい犯行現場に残っている足跡が新しい手掛かりになってしまう。犯罪を犯す回数だけ靴を履き替える事は出来ない。そんなに靴を大量に購入する人間が、捜査線上に浮かび上がらない訳はないのだ。

「犯行現場の住人から靴を貰うのもやめた方がいいな。靴跡を追っていけば、数珠繋ぎに過去の犯行が分かるだけだ」

 つまりは量より質だ。目的外の意味のない小さな犯罪を繰り返しても、望む結果は訪れない。

「くそぉ!」

 レイプ? ひったくり? 空き巣? 巫山戯る! 女を犯して、大金が手に入る訳がない。婆さんの財布の中には数万円しかない。家に大金を現金で置いている家がどこにある。
 一人で金持ちの家や銀行から金を奪い取る力が私にある訳ない。自分よりも弱い弱者を襲っても、森と同じ結果になるだけだ。少しだけ腹が膨れるだけだ。それに何の意味がある。考えろ、考えろ、考えろ! 死ぬ気で考えろ!
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