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第二十六話★ 経験した事の無い者のルール

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 近場を狙うか、遠くに行くか……。

 山を降り、町にやって来た。夏休みという事で、昼前という時間帯でも多くの子供達を見かける。色落ちしていない真っ黒な髪に白く綺麗な肌、露出した太ももから流れ落ちる汗が、どんな味なのかと想像するだけで興奮してしまう。
 高校生は問題ない。ある程度発育したその身体は十分に女だ。けれども、中学生は子供と大人の中間だ。幼稚園児とは言わないが、性についての知識が十分ではない。自分が何をされているのか分かるだけだ。感じるのは肉体的な痛みや気持ち良さだけだ。

 赤ん坊に包丁を向けても恐怖というものは感じていないはずだ。包丁が何なのか、その包丁で身体を刺されたらどうなるか、死んだらどうなるか、きっとそれを知らない。
 大人ならば、包丁で刺されたら痛いという事は分かる。心臓や首を刺されたら死んでしまう。では、胃や小腸、大腸を刺されたらどうなるかは分かるだろうか。
 いや、そもそも刺された経験も無ければ、誰かを刺した経験も無い。そんな大人達が大半だ。だからこそ、感情的になって包丁で刺したり、鈍器で殴ったり、首をロープで締めたり、そんな事を簡単に出来てしまう。

 死ぬまでに殴られた経験が一度もない事は幸せなのだろうか? 死ぬまでに怒られた経験が一度もない事は幸せなのだろうか? 一度も失敗した事がない人は幸せなのだろうか?

 誰かが目の前で殴られている。殴られた経験が無い人にはその痛みが分からない。何処かの国の子供が飢えに苦しみ、助けを求めている。けれども、どれだけの大人と言われる日本の人間が、その飢えや苦しみを助けを求める声を理解しているだろうか。残念ながら、理解をしていないようには見えない。

「経験した事がない人間が、経験した事がない事に口を出すのが間違いなんだ」

 国の頭、政治家達は東京、早稲田、慶應、京都、中央大学と政治家達の出身大学を見れば、東京の大学を卒業した人間が多い。誰もが思う事だ。頭の良い人間ならば上手い解決策を出してくれるはずだと。
 けれども、現実を見れば分かるはずだ。そうではないと分かるはずだ。頭の良い人間が日本人の中で3~5%……いや10%だとしよう。一人の人間が九人の人間の行動を決めているようなものだ。そして、社会を見れば分かる事だ。大抵トップは頭の良い馬鹿が多い。

 国会議員、県議会議員、市議会議員、その全てを選び直さないと、この国は闇から抜け出せない。方法はある。主張は何度もした。けれども、彼らにとって自分の利益になる提案が善で、利益を害する提案が悪なのだ。

 『裁判員制度』——国民をランダムで選んで、司法に対する理解を深め信頼を向上させようと導入されたものだ。国民の声を聞くと言うのはならば、一部の国民の声を聞くべきではない。

 数人の客しか入れない小さなスナックのママ、スーパーのレジを担当するパートの主婦、働き口を求めてハローワークに通い続ける50代の父親、自営業の八百屋の店主、年金暮らしのテレビを見るだけの70代の老夫婦、それらを含めて国民の声だ。
 なにも国会議員の全てをランダムに選んだ国民に変えろと、過激な事を言いたい訳ではない。出来れば議席の半分、少なくても四分の一、そうでなければ、彼らは危機感も感じなければ、真剣に討論しようとは思わないはずだ。

「では、国民の声を聞く為にランダムに被害者を選ぼうか」

 紙を用意して、あみだくじを書いた。子供男、子供女、大人男、大人女、老人男、老人女、選ばれるのは六人の誰かだ。上の一つを決めると下の一人が選ばれる。あみだくじの線をジグサクに辿って行く。辿って行く……選ばれたのは、『大人女』だった。

 

 
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