【完結】王洞 〜名も無き国の名前を捨てた王様〜

もう書かないって言ったよね?

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第二十三話★ 弱者と強者

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 山を降りるには三時間ぐらいはかかる。だから、考えてみた。
 同じ服は着ない。同じ靴は履かない。同じバッグは使わない……犯罪者が捕まらないように何を気をつけているかは分からない。警察官を育てる学校はあるが、犯罪者を育てる学校はない。いわゆる、独学で学ばなければならないという事だ。
 けれども、犯罪者にとっての望む結果とは何だろうか。地位や名誉、称賛を望んでいるとは思えない。殺人やレイプによる異常な快楽を欲しているという短絡的なものでもないはずだ。

「私が欲しいのは食糧だ。食糧を買う為の手段が犯罪でしかない。誰かを殺したり、犯したりする必要はどこにもない」

 賽銭泥棒、車上荒らし、ひったくり……金を手に入れる方法は多数ある。金を手に入れる為に殺すのか、ただ殺したいから殺すのか。そこは重要だと思う。
 森の国でのルールでは人は死んだら自然に帰る。そして、命は回る。けれども、日本の国では、死んだら回るのは命ではない。回るのは金だ。そういう意味では、金を奪い、奪った金を使う行為は、日本のルールに従っている事になる。反抗しているようで実は従っているのだ。

「いやいや、これは違う。これは戦争による略奪行為だ。それに日本という国は既に私から多くのものを奪った。奪われたものを取り返しているだけだ」

 一度決めた事を迷ってはいけない。ガラスを割った、家に入った携帯電話で彼女の部屋を撮影した。猫も殺した、蛇も殺した、鳥も殺した。罪はもう犯している。罪無き生き物を殺した。今更、罪悪感を感じる心が私の中にあると思う方がおかしな事だ。

 私はきっとコウモリやカメレオンと一緒だ。善人の前では善人になり、悪人の前では悪人になるのだ。そして、誰も人がいない時の私が本当の私だ。コウモリでもカメレオンでもない私は何だっただろうか?

「思い出せない。ただ漠然に生きていただけのように、何か目標を持って生きるべきだと……」

 私がやった事はラジオを聞き、本を読み、畑を耕し、生き物を殺して食べただけだ。協力者を求めて、日本の独立国を目指そうとも思った。協力者がいれば、それも可能だと思った。でも、現実は私一人が生きる事も出来ない痩せ細った王国だった。

 山という広大な土地があっても、無能な王では生きる事が許されない現実があった。自然は弱者には残酷な世界だ。これが弱肉強食の世界だ。こんな世界ならば日本の方がマシだ。日本ならば、弱者でも生きる事は出来る。無能でも生きる事が出来る。
 自然は弱者の命を吸い尽くし、強者に命を与える場所だ。自然は弱者と強者をふるい分ける場所だ。私は弱者に選ばれた。だが、それは今の私が弱者であって、頑張り次第で強者になれない訳ではない。

「弱者が強者になる為に必要ものを手に入れよう」

 私が帰るのは日本ではない。自然だ。私の王国の領土を広げよう。新たな領土のルールでは、金持ちが強者になる訳ではない。さあ、自然のルールで弱者と強者を再びふるい分けよう。命を奪われる者と命を得る者を……。



 
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