【完結】王洞 〜名も無き国の名前を捨てた王様〜

もう書かないって言ったよね?

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第二十二話★ 王とは何だ

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 去って行く男の後ろ姿をただ見ている事しか出来なかった。ノコギリの一撃では致命傷を与える事は出来ない。地面に落ちている岩を拾い上げて、後頭部に叩きつければ可能性はある。けれども、殺人鬼になるのが目的ではない。

「私の目的は……何だっただろうか? 私は何がしたくて、この洞窟で暮らしているんだ?」

 空腹を誤魔化す為に、細々とした畑の大根一本だけを日々囓るだけの人生が楽しいのか。いやいや、そんな日々を望む人間がいるはずがない。私はゴミを漁り、日銭を稼ぐ、段ボールの家に住むホームレス達とは違う。国と城を持つ王だ。

 では、王とは何だ? 贅沢三昧すれば王になれるのか? 極貧な王は存在してはいけないのか? 王とはその国の最高支配者で、最も優れている人間の事だ。そして、この国には比べる人間はいない。だからこそ、私は王になれた。

 では、さっきの男と私、どちらが王に見えただろうか? 休日に野鳥の写真を撮る為に、あっちこっちを楽しそうに、鳥達のように自由に飛び回るあの男と、倒木の枝をノコギリで切り続けるだけの私……どう考えても、私は木こりにしか見えない。

「そうだ。王とは自由な存在だ。自由でなくてはならない。自由とは好きな事をやり、好きなように生きる事だ。そして、誰にも屈しない存在でなくてはならない。それは人以外にも、飢えにも、病いにもだ」

 今の私は飢えに屈しようとしている。町に行けば食糧は豊富にある。金さえあれば飢えを凌ぐ事は出来る。けれども、その先に待っているのは金に屈する私だ。金は使えば減る。増やせる方法がなければ、本当に一時凌ぎにしかならない。一年後に待っているのは、首を吊らなければならないという現実だ。

 生きるのが、死ぬのが怖い。殺すのが、殺されるのが怖い。奪うのが、奪われるのが怖い。愛すのが、愛されるのが怖い……人間は怖がりだ。
 生きるのが怖いから死にたがる。死ぬのが怖いから生きようとする。愛されたくないから自分を醜く偽る。愛されたいから美しく偽ろうとする。それが人間であり、どちらか片方を選ばなければならない。

 死ぬのが怖いなら、必死に生きなければならない。殺さなければ生きられないなら、殺すしかない。奪わなければ生きられないなら、奪うしかない。そして、その決断を下せるのは王のみだ。一度でも下した決断を王だけは後悔してはいけない。

「私は名前を捨てた存在だ。死んでいる人間が二度死ぬ事は出来ない。この国に足りないものがあるなら用意すればいい。それだけの話だ」

 私は倒木の枝を切る作業を中断して、洞窟に戻ると、2センチ程に伸びた髭を剃り始めた。明日は北側の町に降りて、買い物をする。泥臭い服を着る王はいない。私がなりたかった王は飢えに苦しまない。
 髭を剃り終えると、服を脱いで身体を石鹸で泡立てた汚れたタオルで磨いていく。二ヶ月以上の洞窟暮らしで、無駄な脂肪がなくなった気がする。体重は10キロ以上は軽くなったはずだ。雨水を頭から被って、石鹸を洗い流した。あとは明日の準備をして、夕食を食べるだけだ。

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