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第二十話☆ 捜査三課の井戸端会議

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「相模の車が見つかったのは、ここだ。そして、ダブルパーカーのゲソ痕が見つかったのは、ここだ」

 地図に赤い丸印を付けて、俺は藤岡と他数名の同僚達とデスク会議をしていた。ちっぽけな事件に本格的な捜査会議なんて出来る訳がない。仲間うちでやる世間話程度だ。参加者は田代、47歳。小久保、46歳。向井、34歳。藤岡、25歳の捜査三課の四人だけだ。

「住吉署なら、隣の市だろ。バスやタクシーを使えば、相模の自宅から簡単に移動できる距離だ。案外、自殺したフリして、この辺に住んでいるんじゃないのか? 知り合いの誰かに名前を使わせてもらえば、アパートぐらい住めるだろう」
「でも、それだと……この相模の車はどう説明するんだよ? 他県の駐車場に乗り捨てて、わざわざ、ここの町に戻って来たのか? それに何の意味があるんだよ」
「そんなのは本人に聞くしかないだろう……車なんて金を払えば、誰かが指定した所まで乗って行ってくれるんだ。それこそ、自殺しようと思って自分で運転して行って、やっぱりやめて、こっちに引き返したって線もある」

 基本的に考えられるのは、ダブルパーカー=相模陽平、ダブルパーカー=正体不明の二択しかない。そして、野良猫殺し周辺の防犯カメラを調べた結果……相模陽平に似た人物が、野良猫殺しの通報があった前日に、歩道を歩いている姿が映っていた。
 デザインが描かれている白の半袖シャツにデニムのジーンズ、俵型のオレンジと黒のバッグ……てっきり黒のダブルパーカーが相模陽平の私服だと思っていたが、違ったようだ。周辺の店に相模陽平らしい人物の来店がなかったか調べた結果、三つの店をハシゴした事が判明した。

「鳥の餌に輪ゴムに金属の棒? 何に使うんだ?」
「これじゃないか? そりゃ!」
「痛! おい、傷害の現行犯で捕まえるぞ!」
「「「あっはははは!」」」

 向井むかいが金属の棒の先端に輪ゴムをかけると、輪ゴムを引っ張って、小久保の胸に輪ゴムを飛ばして直撃させた。小久保には悪いが思わず笑ってしまった。けれども、向井の考え方は悪くはないと思う。

「はっははは……小久保、許してやれ。過ちは誰でも一度は犯すものだ。それに案外いい線かもしれない。野良猫を殺しているんだ。鳥の餌でハトを集めて、向井のように輪ゴムを打つけるつもりかもしれん」
「空き巣の次は野良猫や野鳥を殺す練習ですか……だとしたら、強盗殺人の予行練習みたいなものですか」

 小久保の予想は最悪のものだ。大抵の人間は金に困る前に誰かを頼る。相模の場合は両親を頼るはずだ。けれども、自殺したフリまでした人間が、猫とはいえ殺したのは事実だ。坂道を転げ落ちるように、最悪の結果を引き起こさないとは限らない。だからこそ、その前に止める人間が必要になる。それが俺達、警察だ。

「そうは思いたくはないが、そうならないように早く捕まえる必要があるかもしれない。相模は書店で10冊の単行本を購入したそうだ。三日もあれば全部読み切れる量だ。そして、重要なのは購入したのが、全て第一巻だという事だ。続きが気になるなら、必ず相模はその書店か、どこかの書店に現れるはずだ。そこを押える」

 放置された相模の自家用車の財布の中には、車の免許証が入っていた。おそらく車は使用しない。防犯カメラに映っていた相模は徒歩で移動していた。移動手段は徒歩かバスと思っていい。寝る場所もない人間が大量の本を購入するはずもない。相模はきっと、あの近くに住んでいるはずだ。
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