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第十六話☆ ダブルパーカー再び

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「田代さん、ですか?」
「んっ? ああっ、そうだ。何か用か?」

 見慣れない女が書類を持って、デスクにやって来た。スーツを着ているので違う課の刑事なのは推測できる。気になるのは若い女性刑事が47歳のおっさん刑事にどんな用があるかだ。

「初めてまして、住吉署の生活安全課の田所美樹です。実は海岸で野良猫の変死体が見つかったんですが、採取されたゲソ痕の中に、こっちらの空き巣事件で採取されたゲソ痕と一致するものがあったんですよ」
「ほぉ~、それは有り難い。ちょっといいか?」
「はい」

 椅子に座っている姿勢を正すと、別の警察署からわざわざやって来てくれた、田所美樹の手から未解決事件の手掛かりを喜んで受け取った。勾留中か、身元が判明しているなら、空き巣の方でも捕まえられる。ボーナス逮捕だ。

「あっ~、それで猫殺しの犯人は捕まえている?」

 とりあえず書類を見ながら、現状がどうなっているか聞いてみた。犯人が捕まっているなら車を飛ばして住吉署で会えるが、そうじゃないなら徒歩数日になってしまう。悪ければ数年かかる。

「残念ながら、まだです。周囲の防犯カメラの映像を調べれば足取りが分かると思うんですけど……」
「なるほどな。『そんな時間はないから、三課に回して来い』と上司に言われて持って来たか?」

 言いにくそうなので代わりに言ってやった。通りで若い女性警察官を配達係に寄越した訳だ。怒れば住吉署の女性警察官を敵に回してしまう。こっちは喜んで厄介ごとを受け入れないといけない訳だ。

「いえ、そういう訳じゃないです。この空き巣容疑者が一ヶ月前に死亡しているのに、猫が殺されたのは四日前なんですよ。だから、空き巣の容疑者が別にいるんじゃないかと思いまして」
「死亡した容疑者? ちょっと待てよ……」

 言い訳はしたくはないが、複数の事件を同時に捜査しているので、何処どこで起きた事件とか書類に書かれていても、直ぐには思い出せなかった。しかも、容疑者死亡なら解決済みだ。未解決ならまだしも、余程苦労してない限り、解決済みの事件を覚えていられるほどの記憶力はない。

「あっ~あ、こいつか! ダブルパーカー野朗じゃないか!」

 パソコンのマウスを動かして、捜査資料を画面に映し出した。そこには藤岡がしつこく調べていた黒のパーカー野朗がいた。

「ダブルパーカーですか?」
「ああ、黒のパーカーを重ね着しているから、うちではダブルパーカーって呼んでいるんだ。容疑者の相模が本当に自殺しているなら、別の奴が犯人なるじゃないか。くそがぁ! 面倒臭い時に自殺するんじゃねぇよ!」

 空き巣に猫殺しと何がやりたいか知らないが、別の警察署の管轄で悪さされると面倒だ。こっちは縄張り意識が高い警察だぞ。

 

 
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