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第十二話★ スリングショット製作

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 真っ暗な森の中で立ったまま一晩を過ごし、洞窟に帰って来れたのは午後2時を少し過ぎた頃だった。
 町での経験が私を少しだけ強くしていればいいが、ゲームと違って、そんなものは見れない。自分で実感するしかない。そして、実感というものほど、不確かで曖昧なものはない。実感ではなく、確かな結果を出さなくては殺した意味がない。

 31時間以上寝ていない。身体は疲れているが、精神的にはハイになっている状態だ。まだまだ眠らなくて問題なさそうだ。何事も初めての経験というものは、善悪に関係なく興奮と全能感を与えるようだ。

 昨日の夕方、海岸で……暴れる野良猫の胴体を左足で踏んで押さえつけて、その頭部を右足で踏み潰した。その瞬間、野良猫の鼻と口から血が噴き出した。なかなか血は飛び出ないようだ。鼻血のようにちょっとだけ垂れ流れる程度だった。

 血液というのは所詮は昆虫を潰した時に流れる液体と同じだ。赤いか、赤くないかの違いでしかない。
 もしも、宇宙人の身体から流れる血が緑色ならば、人間は平気で宇宙人を殺せるだろう。そして、赤色ならば……いや、その理屈で考えれば獰猛な肉食動物とも友人になれる。

 血の色は殺しやすいか、殺しにくいには関係ない。

「優先順位は鳥籠よりはスリングショットだろう」

 今の時間に無理やり寝ようとしても、起きるのは夜中になる。それに侵入者が来るのは空が明るいうちと決まっている。無用心にテントの中で熟睡する事は出来ない。洞窟の中に入ると、工具箱から金属製のハンマーを取り出して外に出た。

 買って来た材料を使って、まずは飛び道具を作る事に決めた。

 鳥を捕まえる鳥籠の罠は、蓋の無いプラスチックBOXに蝶番で四角い板の蓋を取り付けて、蓋を糸を使って、遠距離から手動で開け閉め出来れば完成だ。
 鳥籠に鳥の餌を入れて、やって来た鳥を蓋を閉じて、鳥籠の中に閉じ込められれば、一時的な捕獲成功と言える。あとは蓋から逃げられる前に走って、蓋かBOXを押さえつければ問題ないはずだ。

 まずはホームセンターで購入してきた、直径2センチ、長さ25センチ程度の金属棒を俵型のバッグから二本取り出した。
 工事現場で見た事があるような金属棒の先端を、ハンマーで叩いて丸めて、幅広の輪ゴムを通せる穴を作れば、ほぼ作業は終わりと言ってもいい。

「……わざわざ丸くする必要はないな。輪ゴムが挟めればいいんだから」

 ハンマーで軽く金属棒を叩いた。簡単には丸に曲げられない硬さだった。だったら、四本の棒を使って、棒と棒の間に輪ゴムを挟んで、ビニールテープか紐で棒と棒を縛れば問題ないはずだ。とりあえず、やってみる事にした。上手くいかなければ、テープや紐を解いて簡単にバラす事も出来る。

 まずは二本の棒の先端から5センチの位置に分厚い肌色の輪ゴムを挟むと、黒色のビニールテープで上下をグルグル巻きにして固定した。同じように輪ゴムの反対側も金属の棒と棒で挟んだ。

 このまま二つの棒をビニールテープでくっ付けても意味はない。輪ゴムの付いた四本の金属棒が一本になるだけだ。通常のスリングショットならば、形はYになる。けれども、この手製のスリングショットはXでいい。弾丸が前に飛べば問題ない。

 スリングショットの中心を紐で十字に縛り付けて動かないようにした。これで完成だ。

「まずは記念すべき一投目……」

 地面から小石を拾うと、輪ゴムの中心で挟んで引っ張る。そして、輪ゴムから手を離して、小石を発射した。全然飛ばなかった。


 
 




 
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