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第七話★ 誰もが死体は平気で食べられる

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 畑には五月上旬に七種類の種を蒔いた。キュウリ、枝豆、ナス、トウモロコシ、カブ、大根、サツマイモの七種類になる。
 収穫を期待しているのは、枝豆、大根、サツマイモの三種類になるが、長いものだと収穫時期は三ヶ月ぐらい先になる。まずは手持ちの食糧で生き延びるしかない。

「もう少し長い添え木が必要になりそうだ」

 畑の周囲に設置した罠に作動した形跡はなかった。キュウリの蔓が伸びていたので、地面に刺している添え木を長いものに変えれば、今日の畑仕事は終わりになる。カブと大根の収穫はあと二週間は待った方が良さそうだ。

 退屈は人を殺してしまう。なので、最近は森の中を探索する毎日だ。キノコや食べられる草を見つけては、実際に調理して試食している。

 最初は食べるのに抵抗はあるが、目標を持って行動しなければ生き残る事は出来ない。

 今のところは一週間のうち、二日間を森の食材を食べて生活する事を目標にしている。やがては持って来た食糧は底を突き、完全に一週間全てが自給自足になるのだ。早めに身体を慣らさないと、いざという時に何も出来ずに飢えて死んでしまう。

「……何かいる」

 地面に落ちている枯れ枝の中に細長い何かが動いていた。迷彩柄のその細長い胴体を見れば、それが何なのか直ぐに分かった。蛇だ。

「小さいけど……小さい方が毒が強いとか聞いた事がある……確か頭の形が三角形の蛇は毒を持っているとか言っていたような……」

 不確かな知識は邪魔にしかない。毒があろうとなかろうと、これが蛇である事は間違いない。
 ジッと動かない丸頭の蛇は、全長80センチ、胴回りの直径は太い所で4センチはありそうだ。食べるには物足りないかもしれないけど、鶏肉に似た味をしているらしい。

 茶色や緑色といった感じの皮なので、赤やオレンジといった如何にも毒を持っている蛇には見えない。その辺に落ちている岩を持ち上げて、頭に叩き落とせば殺せるはずだ。

「……動くなよ」

 単行本サイズの岩を拾うと持ち上げた。心臓がドキドキする。蛇を殺すのに緊張している自分がいる。ゴキブリを殺すのに躊躇した事はない。それと同じで蛇を殺しても、誰も咎めたりしない。

 蛇の頭上を狙ったまま、私は蛇と同じように動けなくなった。別に頭部でなく、胴体に岩が直撃してもいいはずだ。足で踏んづけて、持っているナイフを頭に突き刺すという方法もある。殺す方法はいくらでも思いつく。

 毒殺、刺殺、殴打、突き落とす、焼殺、絞殺、轢き殺す……嫌いな人の殺し方は一つや二つでは済まない。そして、多くの人が人を殺したいと思った事はあっても、実際に殺した人はそうはいない。

 日常生活でも多くの生き物の命を食事として奪っている。命を食べるという行為を当たり前と自覚していた。
 私も、『美味い美味い』と平気な顔で肉を食べ、魚を食べていた。死体を食べる事は出来ても、殺して食べる事には躊躇する。おかしな理論だ。

 人を殺す理由をあれこれ用意しないと、人を殺せないように、蛇を殺す理由がいるのだろうか?

 ゴキブリは気持ち悪いと簡単に叩き潰して殺せる。気持ち悪いという理由で殺せるのだ。それなのに……何故、食べたいという理由では殺せないのだろうか? 食べたいという欲求は、それほどに醜く恥ずべき事だろうか?

 結論は出なかった。いや、心が弱いから結論を出そうとしなかったのだ。もしも、食糧が突き、飲まず食わずの状態で蛇を見つけたら、私は躊躇なく殺したはずだ。

「ああっっ~‼︎」

 私は大きく叫ぶと岩を蛇の胴体に叩き落とした。直撃した岩で蛇の皮が傷つき、赤い血が見えた。けれども、死んではいなかった。スルスルと地面を這って逃げて行った。
 
 
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