【完結】王洞 〜名も無き国の名前を捨てた王様〜

もう書かないって言ったよね?

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第六話☆ 顔見知りの男の犯行

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「どうですか? 何か手掛かりはありましたか?」

 藤岡を連れて家の二階に上がると、鑑識の冨澤とみざわさんがいた。顔見知りの鑑識で俺よりも年長のベテランだ。空き巣事件以外にも殺人現場にも鑑識作業で出向いているので、新入り藤岡に聞くよりは百倍マシな情報が手に入る。

「ああ、田代か……いつもと同じだ。割って、入って、荒らすだ」

 一通り作業が終わったのか。冨澤さんは別の鑑識と話して、作業漏れがないかチェックしていた。手早く聞かないと仕事の邪魔になると叱られてしまう。

「そうですか。犯人の手掛かりになるようなものは見つかりませんでしたか?」

 指紋が残っていれば、この周辺に住んでいる窃盗の前科者を当たる事になる。他にも髪の毛や体液なども重要な手掛かりになる。
 特に若い女の部屋に入れば、変態男は発情するものだ。パンティーを頭から被って、ベッドの上で布団に包まって馬鹿な事をする奴もいる。

「いいや、手掛かりなしだ。指紋も髪の毛も体液も残っていない。ガラスは散らばらないようにガムテープで割っている。それに家の中には砂粒一つ落ちていない。靴を脱いだんだろうな。綺麗好きの犯人か、顔見知りだろうな」
「やっぱり顔見知りの犯行ですか……」

 だとしたら、思い浮かぶのは近所の住人や家族の友人になる。結婚式に家族の友人は多数参列していただろうから、近所の住人をまずは調べた方がいいかもしれないな。

「その可能性が高いというだけだ。それに顔見知りと言っても、この家にはあまり詳しくないようだ。家のあっちこっちを歩いた後に、目的地のお嬢さんの部屋に入っている」
「娘の藤代明音の部屋ですか。何か盗まれた物はあるんですか?」

 冨澤さんが指差す部屋がおそらく藤代明音の部屋なのだろう。二階は部屋が2部屋ある。もう片方は父親か母親が使っている部屋なのだろう。

「それはお前達、刑事の仕事だろう。住人に聞いて確認するんだな。俺が言える事は、この部屋のあっちこっちを見て回ったという事だけだ。この部屋だけはタンスの引き出しの服の畳み方が違っていた。一度、服を広げて畳み直したんだろうが、女物の下着の畳み方は知らなかったようだな。それっぽく畳み直して戻していた」

 53歳の鑑識の男が、女性物のパンティーの畳み方の違いが分かる方が気になるところだが、とりあえず聞かない方がいい。仕事上、色々と学ぶ事があったのだろう。

「犯人は男ですか……だとしたら、大学の同級生や仕事の同僚も容疑者に加えた方がよさそうですね」
「そういう事は俺に聞かずに刑事同士でやるんだな。俺達鑑識は証拠を集めるのが仕事なんだ。後ろの若造にも仕事をさせるんだな」
「……」

 冨澤さんに言われて背後を振り返ると、藤岡が『早く聞き込み調査に行きましょう』と目で訴えている。確かにこれ以上は現場に手掛かりはなさそうだ。
 とりあえず藤代明音に好意を抱く男の犯行……今のところはこの線で調べるしかない。付近の防犯カメラに怪しい男が映っていれば、藤代明音に顔を確認してもらい、その中に知り合いがいれば、容疑者として調べるのが妥当だろうな。

「藤岡、周辺の防犯カメラの映像を集めるぞ。車の車載カメラの映像もあるんだから、車が止まっていなくても、駐車スペースのある場所はチェックしておけよ」
「分かりました。手の空いている捜査員に協力してもらって、集められるだけ集めてきます!」

 やる気があるのは頼もしいが、俺は階段を急いで降りようとする藤岡を呼び止めた。言っておかないと二度手間になりそうだ。

「おいおい、ちょっと待て! 分かっているとは思うが、映像の提出をお願いするだけじゃなくて、聞き込みも忘れるんじゃないぞ」
「ウッス、了解です」

 本当に分かっているのか疑わしいが、空き巣事件は目撃情報がなければ、ほとんど捜査は進展しない。
 つまり、聞き込みと防犯カメラの映像で怪しい人物が見つからなければ、捜査継続中という形でほぼ終了になる。次の犯行が起こるまでは、新しく起こる窃盗事件を捜査する事になる。犯人が早く見つかるかは運次第だ。

 

 

 
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