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第二話★ 日本生活最後の日
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退職も結婚式も何事もなく終わった。純白の花嫁姿の彼女をスマホに撮影したので、どこかで写真にしなければならない。
正式に職場を退職するには退職願い、退職届けを書く必要がある。無事に退職できたとしても、健康保険や国民年金の切り替えと、やる事は多い。通常ならばそうしなければならない。そして、少し間のんびりと休んで、『さあ、働こう』と多くの人が次の仕事を探し始める事になる。労働の義務に納税の義務と、この国は義務というものを押し付ける。
義務とは、従うべき事、当然しなければならない務めという意味を持つ。服従、奴隷、格差社会……この義務をそう解釈する人達もいる。けれども、この義務という、つまらないものから解放される手段がある。それが死だ。
姿を消し、数週間連絡が取れなくなった私を家族や友人と呼べる少ない人達は心配するだろう。そして、家にやって来て、テーブルの上の遺書を発見する事になる。全ての面倒事が免除される免罪符だ。
目的や目標のない人生はつまらない。私は小さい頃からNo.2を目指していた。大きな目的や目標を持つ誰かについて行くのが、使われるのが楽しいと思っていたからだ。けれども、No.1を目指さない人生はつまらない。
一番になる事を諦め、誰かに使われる事を選んだ瞬間から、つまらない人生というものが始まるのだ。少なくとも私自身はそう思う事に決めた。そして、一番になる事にした。それが王だ。
私の国は深い森の中にある。誰かの所有地である事は分かっている。電気もガスも水道も通っていない。人が住んでいない土地でさえ、この国では誰かの物になる。けれども、私はこの国の人間ではない。この国のつまらない法律に従って、私は私の国から出て行くつもりはない。
「はぁ、はぁ、はぁ」と額を流れる汗を気にせずに、私は傾斜のキツい獣道をひたすらに突き進む。この先にある洞窟が今日から私の暮らす城になる。休日を利用して、数年間暮らせるだけの衣食住は用意した。
食糧は缶詰やレトルト食品、インスタントラーメンなどが多く、栄養面では偏りがある。唯一の心配は病気にかかった場合だ。その場合は死を覚悟するか、隣国の日本に頼るしかない。
「彼女の結婚式が建国記念日になるとは皮肉なものだな」
不気味な洞穴が見えてきた。幽霊か化け物が住んでいるとしか思えない外観だ。それでも、私の暮らす城だ。
洞窟のゴツゴツした床には、バラバラに出来るジョイント式のマットを敷いている。時間がある時はハンマーで平らにしよう。時間ならば沢山ある。
私は荷物をマットの上に置くと、ラジオのスイッチを入れた。手で取っ手を回せば充電できるラジオだ。日本の電波はここまで届いてしまう。ラジオを持って、洞窟の外に出るとラジオから音楽が流れて来た。人との繋がりと孤独を紛らわせる為の最後の手段だ。
正式に職場を退職するには退職願い、退職届けを書く必要がある。無事に退職できたとしても、健康保険や国民年金の切り替えと、やる事は多い。通常ならばそうしなければならない。そして、少し間のんびりと休んで、『さあ、働こう』と多くの人が次の仕事を探し始める事になる。労働の義務に納税の義務と、この国は義務というものを押し付ける。
義務とは、従うべき事、当然しなければならない務めという意味を持つ。服従、奴隷、格差社会……この義務をそう解釈する人達もいる。けれども、この義務という、つまらないものから解放される手段がある。それが死だ。
姿を消し、数週間連絡が取れなくなった私を家族や友人と呼べる少ない人達は心配するだろう。そして、家にやって来て、テーブルの上の遺書を発見する事になる。全ての面倒事が免除される免罪符だ。
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「はぁ、はぁ、はぁ」と額を流れる汗を気にせずに、私は傾斜のキツい獣道をひたすらに突き進む。この先にある洞窟が今日から私の暮らす城になる。休日を利用して、数年間暮らせるだけの衣食住は用意した。
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