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「あぁ、疲れた……」
「何言ってんだよ。羨ましすぎて代わって欲しいぜ」
「ああ、俺も遅刻して道案内してれば、ルーちゃんとお近づきになれたのに」
……他人事だと思って、好き勝手言いやがって。
新学期初日だから半日で済んだけど、もうクタクタだ。近くで客寄せパンダみたいに外人女が女子共と「きゃあ、きゃあ」騒ぐし、あのハイテンションで隣で絡まれ続けるのは疲れる。
学校終わりに友達と街で遊んで息抜きしないと、明日からの本格的な授業は耐え切れない。
「お前らも外人には気を付けろよ。親切そうに近づいて来て、家に監禁されるからな」
「またその話かよ。ガキの頃の話だろう? 今の可愛くない俺達なんて誰も誘拐したいと思わねぇよ」
「そうそう。鏡を見て現実を見ろよ。俺なんか最近ヒゲが濃くなって、ついに髭剃り機を買ったんだぜ。もー、最悪だぜ」
「あっははは! 間違って眉毛まで剃るなよ! 女子達のメイクの練習台にされるぞ!」
……髭剃り機の話なんて今はどうでもいいんだよ。
外人女が可愛いからと油断している二人に注意するけど、まったく聞く耳を持たない。
だけど、俺はもう絶対に油断しない。あの時も道に迷った俺を誘拐して、色々な所に連れ回したのは同い年の子供だった。アイツらは俺を金目当てで誘拐監禁した。
「じゃあな、樹。誘拐されるんじゃねぇぞ」
「あぁ、また明日……」
人生最悪の海外旅行の思い出を頭から振り払うと、「あっははは」と馬鹿笑いしながら帰って行く二人を見送った。俺の家は学校近くにあるから二人とは反対方向になる。
近場のバス停からバスに乗ると、家の近くのバス停で降りた。
「はぁぁ、転校しようかな……」
憂鬱な気分で夕暮れの住宅街の道を歩いて行く。もちろん、そんな事は母親が絶対に許さない。そのうちに金髪女に女友達が出来て、俺に興味が無くなるだろうから、その時までの我慢だ。
「んんっ~? 本当に三丁目さんはこの辺りなんですかぁ?」
「なぬっ!」
前方にルイーズの姿を見つけて急いで電柱の陰に隠れた。電柱の陰から顔だけ出して敵の動きを確認する。手には携帯電話を持っている。
……まさか、俺の家を探しているのか?
もちろん違うとは思うけど、相手は外国人だ。気を付けないといけない。
それにルイーズ・フフニとかいう名前は偽名っぽい。女子高生を狙った人身売買組織の可能性大だ。拳銃は持ってなくても、スタンガンぐらいは持っていると警戒した方がいい。
「こっちは違いますぅ。こっちも違いましたぁ。もぉー、日本の道は福沢諭吉でぇす!」
「……何やってんだ、アイツ?」
同じ場所をグルグル回って、プンプン怒っている。あんな事をやっていたら不審者として通報されるのも時間の問題だ。外国人という自覚を持った方がいい。
……仕方ない。このままじゃ家に帰れないから普通に横を通るか。襲ってきたら悲鳴を上げて、強制国外追放だ。
電柱の陰から出ると、知らない人の横を通るように通過しようとした……
「おお! イツキじゃないですかぁ! こんな所で何やってるんですかぁ?」
だが、当然知らない人じゃないから俺の計画はすぐに終わった。俺を見た瞬間にルイーズはパァッと明るい表情に変わった。面倒くさいけど、一言ぐらいは言って通るしかない。
「別に何でもねぇよ。じゃあな」
「ノー! ちょっと待ってくださぁい! 三丁目さんはこの辺でいいんですかぁ?」
「うぐっ……」
通り過ぎようとしたのに、腕を掴まれて引き止められた。友達でもないのに慣れ慣れし過ぎる。
襲われたと今すぐに悲鳴を上げたいけど、携帯電話のマップを指差してルイーズが尋ねてくる。この程度なら答えだ方が早そうだ。
「あぁ、そうだよ。急いでいるから、もういいよな?」
「はい、サンキューでぇす! イツキのお陰で助かりましたぁ! これでやっとホームステイ先を見つけられまぁす!」
「……おい、いつから探してるんだよ? まさか、学校が終わってから探してねぇよな?」
学校が終わってから五時間は経過している。日本語が喋れるなら、その辺を通った人に道を聞けばすぐに分かる。流石に反応が大袈裟すぎる。ちょっと気になったので聞いてみた。
「はい、そうですよぉ。最初のミッションでぇす! 自分だけでホームステイ先を見つけられるか、レッツチャレンジでぇす!」
ルイーズは俺の質問に自信満々、得意げな表情で答えてくれた。外人は本当に馬鹿な事をする奴が多い。
「そんな馬鹿な事してないで、さっさと家に行けよ。相手の人が心配しているぞ。三丁目の何処なんだよ? そこまで連れて行ってやるから」
くだらない遊びでホームステイ先の人に迷惑をかけるべきじゃない。三丁目なら俺の家の近くだから、この馬鹿を五分以内に目的地に連れて行ってやる。
「ノー! それだとミッション失敗でぇす! このミッションを成功させて、方向音痴を克服するんでぇす!」
「知らねぇよ。日本のミッションには制限時間があるんだよ。さっさとホームステイ先の住所と名前を見せろ!」
「ノー! ヘルプミーでぇす! 誰か助けてくださぁい!」
ルイーズの携帯電話を奪い取って、手掛かりを得ようとする。この必死の抵抗は確実に手掛かりがある。予想通り、奪い取った携帯電話の検索履歴には住所と名前が載っていた。
だが、その住所の場所は俺がよく知っている住所だった。
「何言ってんだよ。羨ましすぎて代わって欲しいぜ」
「ああ、俺も遅刻して道案内してれば、ルーちゃんとお近づきになれたのに」
……他人事だと思って、好き勝手言いやがって。
新学期初日だから半日で済んだけど、もうクタクタだ。近くで客寄せパンダみたいに外人女が女子共と「きゃあ、きゃあ」騒ぐし、あのハイテンションで隣で絡まれ続けるのは疲れる。
学校終わりに友達と街で遊んで息抜きしないと、明日からの本格的な授業は耐え切れない。
「お前らも外人には気を付けろよ。親切そうに近づいて来て、家に監禁されるからな」
「またその話かよ。ガキの頃の話だろう? 今の可愛くない俺達なんて誰も誘拐したいと思わねぇよ」
「そうそう。鏡を見て現実を見ろよ。俺なんか最近ヒゲが濃くなって、ついに髭剃り機を買ったんだぜ。もー、最悪だぜ」
「あっははは! 間違って眉毛まで剃るなよ! 女子達のメイクの練習台にされるぞ!」
……髭剃り機の話なんて今はどうでもいいんだよ。
外人女が可愛いからと油断している二人に注意するけど、まったく聞く耳を持たない。
だけど、俺はもう絶対に油断しない。あの時も道に迷った俺を誘拐して、色々な所に連れ回したのは同い年の子供だった。アイツらは俺を金目当てで誘拐監禁した。
「じゃあな、樹。誘拐されるんじゃねぇぞ」
「あぁ、また明日……」
人生最悪の海外旅行の思い出を頭から振り払うと、「あっははは」と馬鹿笑いしながら帰って行く二人を見送った。俺の家は学校近くにあるから二人とは反対方向になる。
近場のバス停からバスに乗ると、家の近くのバス停で降りた。
「はぁぁ、転校しようかな……」
憂鬱な気分で夕暮れの住宅街の道を歩いて行く。もちろん、そんな事は母親が絶対に許さない。そのうちに金髪女に女友達が出来て、俺に興味が無くなるだろうから、その時までの我慢だ。
「んんっ~? 本当に三丁目さんはこの辺りなんですかぁ?」
「なぬっ!」
前方にルイーズの姿を見つけて急いで電柱の陰に隠れた。電柱の陰から顔だけ出して敵の動きを確認する。手には携帯電話を持っている。
……まさか、俺の家を探しているのか?
もちろん違うとは思うけど、相手は外国人だ。気を付けないといけない。
それにルイーズ・フフニとかいう名前は偽名っぽい。女子高生を狙った人身売買組織の可能性大だ。拳銃は持ってなくても、スタンガンぐらいは持っていると警戒した方がいい。
「こっちは違いますぅ。こっちも違いましたぁ。もぉー、日本の道は福沢諭吉でぇす!」
「……何やってんだ、アイツ?」
同じ場所をグルグル回って、プンプン怒っている。あんな事をやっていたら不審者として通報されるのも時間の問題だ。外国人という自覚を持った方がいい。
……仕方ない。このままじゃ家に帰れないから普通に横を通るか。襲ってきたら悲鳴を上げて、強制国外追放だ。
電柱の陰から出ると、知らない人の横を通るように通過しようとした……
「おお! イツキじゃないですかぁ! こんな所で何やってるんですかぁ?」
だが、当然知らない人じゃないから俺の計画はすぐに終わった。俺を見た瞬間にルイーズはパァッと明るい表情に変わった。面倒くさいけど、一言ぐらいは言って通るしかない。
「別に何でもねぇよ。じゃあな」
「ノー! ちょっと待ってくださぁい! 三丁目さんはこの辺でいいんですかぁ?」
「うぐっ……」
通り過ぎようとしたのに、腕を掴まれて引き止められた。友達でもないのに慣れ慣れし過ぎる。
襲われたと今すぐに悲鳴を上げたいけど、携帯電話のマップを指差してルイーズが尋ねてくる。この程度なら答えだ方が早そうだ。
「あぁ、そうだよ。急いでいるから、もういいよな?」
「はい、サンキューでぇす! イツキのお陰で助かりましたぁ! これでやっとホームステイ先を見つけられまぁす!」
「……おい、いつから探してるんだよ? まさか、学校が終わってから探してねぇよな?」
学校が終わってから五時間は経過している。日本語が喋れるなら、その辺を通った人に道を聞けばすぐに分かる。流石に反応が大袈裟すぎる。ちょっと気になったので聞いてみた。
「はい、そうですよぉ。最初のミッションでぇす! 自分だけでホームステイ先を見つけられるか、レッツチャレンジでぇす!」
ルイーズは俺の質問に自信満々、得意げな表情で答えてくれた。外人は本当に馬鹿な事をする奴が多い。
「そんな馬鹿な事してないで、さっさと家に行けよ。相手の人が心配しているぞ。三丁目の何処なんだよ? そこまで連れて行ってやるから」
くだらない遊びでホームステイ先の人に迷惑をかけるべきじゃない。三丁目なら俺の家の近くだから、この馬鹿を五分以内に目的地に連れて行ってやる。
「ノー! それだとミッション失敗でぇす! このミッションを成功させて、方向音痴を克服するんでぇす!」
「知らねぇよ。日本のミッションには制限時間があるんだよ。さっさとホームステイ先の住所と名前を見せろ!」
「ノー! ヘルプミーでぇす! 誰か助けてくださぁい!」
ルイーズの携帯電話を奪い取って、手掛かりを得ようとする。この必死の抵抗は確実に手掛かりがある。予想通り、奪い取った携帯電話の検索履歴には住所と名前が載っていた。
だが、その住所の場所は俺がよく知っている住所だった。
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