【完結】死が二人を祝福するまで〜私立高校生八人の殺処分島への殺人修学旅行〜

もう書かないって言ったよね?

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第24話 毒殺犯確保

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 ♦︎道重・視点♦︎

「ほら見ろ。証拠隠滅にバレても問題ない対策を用意している。これでも犯人じゃないのか?」
「空港での暴力は法律で裁かれる。そう言っているだけだ。薬師寺も揶揄うのはやめてくれ」

 剛田が不機嫌そうに言っているが、薬師寺は注意しているだけだ。
 お互い冷静にならないと、探偵ごっこと犯人ごっこが続くことになる。

「すみません。犯人呼ばわりされて、ちょっと意地悪しました」
「何が意地悪だ。素直に白状しないと痛い目に遭うぞ」

 薬師寺は謝ったのに剛田が続けようとする。野生の勘を頼るのはやめてくれ。

「はぁー。撫子、薬師寺が子供に毒を与えているのを見たのか?」

 ため息を吐くと、扉の前にいる撫子に聞いた。
 薬師寺の話だけを聞いても、何が起こったのか分からない。

「ううん、見てない。急に苦しみ出して吐血して、私は驚いて見ているだけしか出来なくて……」

 撫子は混乱していて、よく分からなかったらしいが、薬師寺は驚いてないらしい。
 子供二人が血を吐けば、普通は驚くと思う。血を吐くと分かっていたから、驚かなかったとも言える。

「じゃあ、釣りに行こうと言ったのは、どっちなんだ?」
「それは……」
「ほら見ろ。やっぱり犯人は決まりだな」

 俺の質問に撫子は視線を薬師寺に向けた。
 剛田が犯人だと主張しているが、それはもう分かったからいい。

「それで魚は釣れたのか? 何で釣りなんか行ったんだ?」
「魚は釣れませんでした。釣りは下見です。残り二日を人殺しで過ごすつもりはないですから」
「確かに俺ももう森に入るつもりはない。住民を三人以上殺した。あとは帰るだけだ」

 撫子の代わりに薬師寺が答えたが、おそらく同じことを言われただけだ。
 だとしたら、これ以上聞くことはない。怪しいと言えば怪しいが証拠がない。

「歩、そうなの? おめでとう、これで帰れるね」
「ああ。でも、証拠品は一つも手に入れていない。剛田に証言してもらうしかないな」

 俺が儀式を達成したと知って、撫子の曇っていた表情が少し明るくなった。
 これで結婚は許されるはずだが、子守りが出来ない女と結婚していいのか分からない。

「悪いが証言するつもりはない。毒殺犯がいるのにこのまま帰るつもりか? まだ証拠を隠し持っている可能性もある。危険過ぎるだろう。持ち物を調べさせてもらう」

 剛田が証言を拒否してきた。まだ犯人探しを続けたいようだ。
 俺は正直犯人を見つけたいとは思わない。犯人は撫子と薬師寺のどちらかだ。
 毒を持ち込んだのは犯罪だが、黙っていれば分からないままで終わるかもしれない。

「それは困ります。女性の持ち物ですよ」
「だったら雪村がやる。怪しい物がないか調べてくれ」
「それは不公平ですよ。容疑者は二人です。私ばかり疑うなんて不公平ですよ」

 持ち物検査は普通に断られた。剛田は撫子に調べさせるつもりだが、撫子も容疑者だ。
 容疑者に調べさせるのは、どう考えても問題がある。

「剛田、どうしても犯人を見つけないと駄目なのか? これで終わりでいいじゃないか」
「終わりだと? 殺された理由は何だ? 子供だからか、弱いからか? 俺が納得できる理由を教えて欲しいな。雪村、子供達は暴れたのか、逃げ出そうとしたのか?」

 犯人探しをやめてほしいと頼んだが、剛田は止まらない。子供が殺された理由を俺と撫子に聞いてきた。
 急に聞かれた撫子が「それは……」と答えに困っている。おそらく大人しく座っていただけだ。

「無抵抗の子供を殺しただけだろ。俺はその行為が我慢できない。性根の腐った卑怯者がいると吐き気がする」

 剛田が言わなくても分かっていると言うと、心底嫌そうに薬師寺を見た。
 物的証拠はないが状況証拠だけなら、薬師寺が犯人だ。俺もそう思う。

「……私も我慢して聞いていましたが、殺してもいい人間を殺したら駄目なんですか? 二人とも殺したんですよね。大人は殺してもいいのに、子供は殺したら駄目なんですか?」

 剛田の言葉が理解できずに、薬師寺が呆れるように笑っている。
 普通の女子なら、剛田に睨まれたら泣き出しそうだが、まったく動じていない。

「戦う意思もない子供は赤ん坊と同じだ。お前は赤ん坊にミルクではなく、毒を飲ませたんだ。それが恥ずべき行為だと分からないなら、この島で暮らせ。いずれここに送られるだけだ」
「二人とももういいだろ。いい加減にしてくれ!」

 薬師寺と剛田の間で聞いていたが、もうたくさんだ。くだらない喧嘩を止めた。

「剛田は大人を殺したかった。薬師寺は子供を殺したかった。ただそれだけの違いだ」
「道重君、私は一般論を言っただけで、子供は殺してませんよ」
「いいや、殺したんだ。撫子は殺さない。殺す理由がないからな」

 まだ否定しようとする薬師寺に言った。
 この四人の中で子供を殺す理由がないのは三人いる。
 だとしたら犯人は残りの一人だけだ。

「それはおかしいですね。雪村さんにはありますよ。道重君が失敗した時の保険に、子供を冷凍保存しようと言ったら賛成しましたよ。私を犯人にしたい気持ちは分かりますが、そういうのはやめてくれませんか」

 だけど、薬師寺が撫子にも殺す理由があると言い出した。
 おそらく身代わりだ。ここまで用意周到に準備している。
 犯人にされそうな時、撫子が全部やったことにするつもりなんだろう。

 薬師寺がアメ玉を渡したと言っているのは、俺と撫子だけだ。
 婚約者同士の証言が信用されるとは思えない。
 空港の手荷物検査も撫子に「アメ玉を預かっていてほしい」と頼まれたと言いそうだ。
 
「……撫子、剛田、手伝ってくれないか? もう一人殺したい人間が出来た」

 だとしたら、このまま危険人物を生かしておけない。
 残り二日でやられる可能性がある。やられる前にやれだ。

「ほー、それは奇遇だな。俺も殺したい奴がいる。問題はそれが同一人物かだ」
「おそらく問題ない。ピンク髪の眼鏡の女だ」

 剛田と協力して、薬師寺の逃げ道を塞いだ。
 撫子は何も言わないが、扉の前に立ち塞がっている。

「フフッ。正気ですか? 私に手を出したら、フェンス行きですよ」
「皆んなで楽しく夜の人間狩りに行くだけだ。殺すならフェンスの中で殺す。罪にはならない」

 薬師寺が笑いながら警告してきたが、ここで殺すような馬鹿な真似はしない。
 肝試しに連れていったことにする。そこで運悪く住民に殺されれば仕方ない。
 薬師寺の家族には馬鹿なことをしたと、謝罪だけはするつもりだ。

「誰か、ぐふっ!」

 薬師寺が大声で助けを呼ぼうとしたが、その前に動いた。
 刀で腹部を強打して、黙らせた。気絶した薬師寺が床に倒れた。

「ハハッ。女に手を出すとは一皮剥けたようだな」
「コイツは例外だ。撫子、お前の車を持ってきてくれ。俺達の車は森に置いてきた。薬師寺を森に運ぶ」
「う、うん、分かった!」

 くだらないことを言う剛田は気にせずに、撫子に車の手配を頼んだ。
 車が来るまでに証拠があるか調べてみる。
 これで証拠が無かったら死ぬほど謝るしかないが、そのつもりはない。
 俺が無実の人間に暴力を振るった証拠を、生かしておくつもりはない。
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