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第9話 薬師寺との合流

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 ♦︎道重・視点♦︎

 十字路を右に曲がり、薬師寺の車を探した。脇道や破壊された車は見当たらない。
 十字路から二キロ程の距離を往復しているなら、すぐに見つかるはずだ。

「クラクションは鳴らすな。追い越して止めるんだ。大きな音は出したくない」

 前方をゆっくり走る車を見つけた。撫子に追い越すように言った。
 道の真ん中を走る車を追い越して、前に出ると、ゆっくり減速して停止させた。

「気を付けろよ。子供から目を離すと逃げられるからな」
「うん……気を付けてね」
「ああ、必ず戻ってくる。安心して待ってろ」

 子供が逃げないように撫子に注意した。
 母親を薬師寺の車に連れていくから、子供が不安がって暴れ出す危険がある。
 六歳程度の子供二人なら、撫子の力でも押さえられるだろう。

「降りろ。get、out」
「XXXXXX、XXXXX」

 車から降りると助手席の扉を開けて、母親を外に出した。
 子供達に何か言っているが、ハンドガンを背中に当てて、薬師寺の車に向かって歩かせた。

 フロントガラスの向こう側には、薬師寺の姿しか見えない。
 剛田は森の中で住民を探しているようだが、俺が見つけたんだ。
 もう見つけて殺している可能性の方が高そうだ。

「綺麗な女性ですね。遭難中の旅行者でも保護したんですか?」
「いや、住民だ。言葉は分からないが、森の中で子供二人と歩いていた。旅行者じゃない」
「そうですか……」

 後部座席の扉を開けると、薬師寺が聞いてきた。
 島に入れる年齢は日本で十八歳、海外でも十五歳と決まっている。
 薬師寺の質問に答えると、母親を車の中に押し込んだ。
 車内にあるタオルを繋げれば、手足を拘束できる。

「じゃあ何をするんですか? まさか犯すんですか? 見たくも想像したくもないですね」
「そんなことはしない。撫子の車に子供が乗っている。子供を人質にして、仲間の居場所に案内させるんだ。殺すのは大人の男だと決めている。女子供は殺さない」

 変な想像をしている薬師寺に、何をするのか丁寧に説明した。
 手足をタオルで縛っているのは、乱暴目的じゃない。

「あー、なるほど。釣り上げた小魚が成長するまで待つんですね」
「まあそんな感じだ。悪いが撫子の車に移ってくれ。十字路で子守りしながら待っていてほしい」

 誤解が解けたみたいだから、薬師寺に子守りをお願いした。
 断るとは思わないが、断られても問題ないだろう。
 撫子が変な気を起こさなければ、子守りぐらいは一人で出来る。

「分かりました。でも、気を付けた方がいいですよ。道路沿いには住民がいるみたいです。剛田君が追いかけて行きました」
「なっ! 何でそんな重要なことを教えないんだ。剛田はどうなったんだ?」

 薬師寺は引き受けてくれたが、出会ってすぐに報告するべき重要な情報を言ってきた。
 あっちの道には誰もいなかった。誰かいたのなら、俺が生きているのが不思議なぐらいだ。
 殺すチャンスはいくらでもあった気がする。

「さあ、それは分かりません。剛田君が戻って来ないので、道を往復していました」
「それなら俺が探す。道路沿いにいるなら、そいつを見つけて殺した方が早いからな」

 森の中を探すよりは、車で道を回る方が安全だ。
 疲れても車の中で休むことが出来る。

「森の中に誘い出す罠かもしれませんよ。おすすめ出来ませんね。ちょっといいですか?」
「……何をするつもりだ?」

 薬師寺が罠の可能性を話すと、サバイバルナイフを鞘から抜いた。
 ノコギリのようなギザギザの直刃と、緩やかにカーブした曲刃がある。
 そのナイフの鋭い切っ先を、手足を縛った母親に向けた。

「本当は話せるのに、意味不明な言葉を喋っているだけかもしれませんよ。捕まったんじゃなくて、捕まったフリの可能性も。身体検査はしましたか? 髪の中、服の中、身体の中、隠せる場所は色々ありますよ」
「no! help! help、me!」

 薬師寺が無表情に、怖がる母親の身体にナイフの腹を滑らせていく。
 太もも、お腹、胸、頬、下から上に向かって滑らせていく。
 言っていることは分かるが、そこまでする必要はない。
 薬師寺のナイフを持つ手を掴んで言った。

「やめろ。手足を縛れば十分だ。人質がいれば、馬鹿なことはしない」
「道重君を捕まえれば人質交換できます。思い通りに進むのは、ゲームと頭の中だけですよ。普通の女性だと思っているなら、生きて帰れません」

 最悪の可能性を考えて行動しろ、薬師寺の言っている意味は分かる。
 賢く危険を回避するのは悪いことじゃない。でも、俺がやりたくない。

「怪我させたら案内させられない。それに殺すつもりはないと言った。この女をどうするかは俺が決める。薬師寺は撫子の車に移動してくれ」
「フフッ。冗談です。獲物を横取りするつもりはありません。糖分が足りてないんじゃないですか? ずっと怒った顔してますよ」

 運転席に居座る薬師寺に、早く降りろと優しく頼んだ。
 まだ冗談が言いたいみたいだから、今度は不機嫌そうな顔で頼んだ。

「一人じゃ怒れない。怒る相手がいないとな。まだ怒らせたいのか?」
「分かりました。これで糖分補給してください。女性にはレモン味、道重君にはイチゴ味。キスはレモン味と言いますけど、私がいなくなっても確認したら駄目ですよ」

 薬師寺がポケットから、黄色のアメ玉を取り出すと、包みを破いて母親の口に入れた。
 俺にも包みを破いて赤いアメ玉を渡してきたが、必要なのは糖分じゃない。

「もういいから行ってくれ。あっちには子供が二人いるんだ。俺よりも撫子を心配してくれ」
「フフッ。分かりました。噛まれないように気を付けてくださいね」

「何をだ?」と反応するだけ時間の無駄だ。
 笑みを浮かべる薬師寺が車から降りると、甘いアメ玉を口に入れて運転席に座った。
 この程度で落ち着くとは思えない。
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