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第5話 森の包囲作戦
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♦︎道重・視点♦︎
「確認したいんだが、車を運転できる奴はいるか?」
車に乗る前に三人に聞いてみた。迷彩色の装甲車は三台残っている。
銃弾ぐらいは余裕で弾き返せそうな、分厚い装甲をしている。
四人で一台に乗ってもいいが、三台使えば一台故障しても、無事に空港に戻れる。
「ああ、出来る。一人で好きにやろうと思っていたからな。お前達は三人で乗ればいい。俺が前を走って安全を確かめてやるよ」
剛田が運転出来ると答えると、危険な先頭を走ると言ってきた。
地雷は仕掛けられてないと思うが、落とし穴ぐらいは警戒するべきだ。
「それは助かる。撫子と薬師寺はどうだ?」
「私も運転できるよ」
「私も大丈夫です。疲れた時は交代できますよ」
「じゃあ決まりだな」
女子二人にも確認したが、二人とも出来るらしい。
剛田の提案通りに、二台に分かれて乗ることにした。
車は顔認証で登録された人間しか運転できない。運転できるのは学生八人だけだ。
住民に盗まれることはないらしいが、首を切り落とされたら分からない。
頑丈な二重の鉄扉が、左と右にスライドして開いていく。
「歩、緊張するね。鎮静剤が欲しくなるよ」
「今からその調子だと気絶するぞ。汗と一緒だ。ある程度出たら落ち着く」
「う、うん、そうだね。多分そうだと思う」
助手席に座る撫子は黒いハンドガンを膝に乗せて、両手で握っている。
手が震えて、額からは汗が流れている。車に冷暖房は付いているが、車内は息苦しい。
冷房の温度は関係なく、心理的なものだろう。心が行きたくないと警告している。
「安心しろ。すぐに終わらせる」
「うん、頑張って」
撫子に約束するとアクセルを踏んだ。車がフェンスの向こう側に侵入した。
ここからは危険エリアだ。親父は五人殺したから、二、三人殺したら認めてくれる。
弱そうな女と子供は駄目だ。強そうな男を三人殺したら帰ろう。
「道も草も木も荒れ放題で、整備されてませんね」
「そうだね。これだと伝染病が流行れば、すぐに死んじゃいそう」
少なくとも道は整備されている。土道には雑草が見当たらない。
薬師寺と撫子が長方形の小窓から外を見て、左右の森の中に人がいないか探している。
前を走る剛田の車は止まらないから、あっちも見つけられないみたいだ。
「伝染病は大丈夫ですよ。死体を持ち帰る人がいるので、その死体に悪い病気がないか調べるそうです。旅行者が来た時は衣服や食糧と一緒に、ヘリから薬を投下するそうです」
「へぇー、そうなんだ。それなら安心だね」
「フフッ。私は住民が弱っている方が安心できますけどね」
「あ、うん、そうだね」
薬師寺の言う通り、俺も負傷した住民がいる方が助かる。
前回の旅行者が殺し損ねて負傷した住民がいれば、そいつを殺したい。
治療も出来ずに無駄に苦しむよりは、安楽死させたという免罪符が欲しい。
「……止まりましたね」
「何かあったのかな?」
前を走る剛田の車が止まった。こっちも止まると剛田が車から降りてきた。
車同士にぐらい無線機を置いてもいいのに、それがない。
不便だが通信機器を住民に奪われると、旅行者が何時に何人来るのか、知られる危険がある。
警備の手薄な場所を知られたり、住民同士の連携も取りやすくなる。
安全の為と言われれば、多少の不便さは我慢するしかない。
「三方向の分かれ道だ。運試しだ、誰が選ぶんだ?」
後部座席の扉を開けて剛田が乗り込むと、止まった理由を話した。
誰も道を選ばないから、剛田が続けて話し出した。
「飛行機から見た感じ、島の中心から外側に向かって建物が広がっていた。外から攻めるか、内から攻めるか選べる。人数がいれば、東西南北の外側から内側に追い込んで、逃げ場を失くすのが正攻法だな」
「この人数だと囲い込むのは難しいな。桃山達四人と協力した方が良いのか?」
よく見ていると感心するけど、戦える人数は実質二人だ。
線では囲めない。最低でも三人の三角形でないと囲めない。
「四人でも小さい範囲なら可能だ。俺と道重が森に入り、雪村と薬師寺は車で道路側を防げばいい。車に何人乗っているか分からないなら、警戒して俺達の方に向かうはずだ。そこを倒せばいい」
俺の意見に対して、剛田は車を使った四角の包囲網を提案してきた。
森から道路側に追い込んで、向かってきた相手を倒す作戦だ。
「……俺はこれでいいと思う。撫子、銃を貸してくれ。それで馬鹿みたいに向かってこない」
男は危険で、女は安全な作戦だが、文句はない。元々何をやっても危険なのは変わらない。
剛田の作戦に乗ると、助手席の撫子にハンドガンを貸すように頼んだ。
「でも、私しか使えないよ」
「それでいいんだよ。奪われても使えない。撃てると思わせるのが重要なんだ」
「歩がそれでいいなら……怪我しないでね」
「相手次第だ。女なら男の居場所を聞いて、車の食糧でもお礼に渡すさ」
心配する撫子からハンドガンを受け取ると、剛田と薬師寺は真っ直ぐの道を選んだ。
俺と撫子は右の道を選んで、三分ほどの場所で車を止めた。
ここから俺だけが車を降りて、森の中に入っていかなければならない。
車は時速三十キロで進んで、三分の距離で止まった。十字路からは千五百メートルぐらいしかない。
二十分も西に向かって歩けば、反対側を走る薬師寺の車に乗れるはずだ。
「確認したいんだが、車を運転できる奴はいるか?」
車に乗る前に三人に聞いてみた。迷彩色の装甲車は三台残っている。
銃弾ぐらいは余裕で弾き返せそうな、分厚い装甲をしている。
四人で一台に乗ってもいいが、三台使えば一台故障しても、無事に空港に戻れる。
「ああ、出来る。一人で好きにやろうと思っていたからな。お前達は三人で乗ればいい。俺が前を走って安全を確かめてやるよ」
剛田が運転出来ると答えると、危険な先頭を走ると言ってきた。
地雷は仕掛けられてないと思うが、落とし穴ぐらいは警戒するべきだ。
「それは助かる。撫子と薬師寺はどうだ?」
「私も運転できるよ」
「私も大丈夫です。疲れた時は交代できますよ」
「じゃあ決まりだな」
女子二人にも確認したが、二人とも出来るらしい。
剛田の提案通りに、二台に分かれて乗ることにした。
車は顔認証で登録された人間しか運転できない。運転できるのは学生八人だけだ。
住民に盗まれることはないらしいが、首を切り落とされたら分からない。
頑丈な二重の鉄扉が、左と右にスライドして開いていく。
「歩、緊張するね。鎮静剤が欲しくなるよ」
「今からその調子だと気絶するぞ。汗と一緒だ。ある程度出たら落ち着く」
「う、うん、そうだね。多分そうだと思う」
助手席に座る撫子は黒いハンドガンを膝に乗せて、両手で握っている。
手が震えて、額からは汗が流れている。車に冷暖房は付いているが、車内は息苦しい。
冷房の温度は関係なく、心理的なものだろう。心が行きたくないと警告している。
「安心しろ。すぐに終わらせる」
「うん、頑張って」
撫子に約束するとアクセルを踏んだ。車がフェンスの向こう側に侵入した。
ここからは危険エリアだ。親父は五人殺したから、二、三人殺したら認めてくれる。
弱そうな女と子供は駄目だ。強そうな男を三人殺したら帰ろう。
「道も草も木も荒れ放題で、整備されてませんね」
「そうだね。これだと伝染病が流行れば、すぐに死んじゃいそう」
少なくとも道は整備されている。土道には雑草が見当たらない。
薬師寺と撫子が長方形の小窓から外を見て、左右の森の中に人がいないか探している。
前を走る剛田の車は止まらないから、あっちも見つけられないみたいだ。
「伝染病は大丈夫ですよ。死体を持ち帰る人がいるので、その死体に悪い病気がないか調べるそうです。旅行者が来た時は衣服や食糧と一緒に、ヘリから薬を投下するそうです」
「へぇー、そうなんだ。それなら安心だね」
「フフッ。私は住民が弱っている方が安心できますけどね」
「あ、うん、そうだね」
薬師寺の言う通り、俺も負傷した住民がいる方が助かる。
前回の旅行者が殺し損ねて負傷した住民がいれば、そいつを殺したい。
治療も出来ずに無駄に苦しむよりは、安楽死させたという免罪符が欲しい。
「……止まりましたね」
「何かあったのかな?」
前を走る剛田の車が止まった。こっちも止まると剛田が車から降りてきた。
車同士にぐらい無線機を置いてもいいのに、それがない。
不便だが通信機器を住民に奪われると、旅行者が何時に何人来るのか、知られる危険がある。
警備の手薄な場所を知られたり、住民同士の連携も取りやすくなる。
安全の為と言われれば、多少の不便さは我慢するしかない。
「三方向の分かれ道だ。運試しだ、誰が選ぶんだ?」
後部座席の扉を開けて剛田が乗り込むと、止まった理由を話した。
誰も道を選ばないから、剛田が続けて話し出した。
「飛行機から見た感じ、島の中心から外側に向かって建物が広がっていた。外から攻めるか、内から攻めるか選べる。人数がいれば、東西南北の外側から内側に追い込んで、逃げ場を失くすのが正攻法だな」
「この人数だと囲い込むのは難しいな。桃山達四人と協力した方が良いのか?」
よく見ていると感心するけど、戦える人数は実質二人だ。
線では囲めない。最低でも三人の三角形でないと囲めない。
「四人でも小さい範囲なら可能だ。俺と道重が森に入り、雪村と薬師寺は車で道路側を防げばいい。車に何人乗っているか分からないなら、警戒して俺達の方に向かうはずだ。そこを倒せばいい」
俺の意見に対して、剛田は車を使った四角の包囲網を提案してきた。
森から道路側に追い込んで、向かってきた相手を倒す作戦だ。
「……俺はこれでいいと思う。撫子、銃を貸してくれ。それで馬鹿みたいに向かってこない」
男は危険で、女は安全な作戦だが、文句はない。元々何をやっても危険なのは変わらない。
剛田の作戦に乗ると、助手席の撫子にハンドガンを貸すように頼んだ。
「でも、私しか使えないよ」
「それでいいんだよ。奪われても使えない。撃てると思わせるのが重要なんだ」
「歩がそれでいいなら……怪我しないでね」
「相手次第だ。女なら男の居場所を聞いて、車の食糧でもお礼に渡すさ」
心配する撫子からハンドガンを受け取ると、剛田と薬師寺は真っ直ぐの道を選んだ。
俺と撫子は右の道を選んで、三分ほどの場所で車を止めた。
ここから俺だけが車を降りて、森の中に入っていかなければならない。
車は時速三十キロで進んで、三分の距離で止まった。十字路からは千五百メートルぐらいしかない。
二十分も西に向かって歩けば、反対側を走る薬師寺の車に乗れるはずだ。
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