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第三章

第14話 クラスメイトとの再会

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「とにかく食糧を探せ。家にゾンビがいたら逃げて、ミズキ達を呼ぶんだぞ!」
「洗濯するから、着たい服があったら持って来て!」

 動ける町の住民が二十一人になって、町が住民達の声で少しだけ賑やかになった。
 男達は家の調査と修理、女達は服の洗濯と修繕を主にしている。
 俺達は近隣の町に送った住民の報告待ち状態だ。住民の数は増えたけど、ほぼ予定通りに進んでいる。

「ミズキ、南東の町からマラキが帰って来たよ」
「分かった、すぐに話を聞くよ」

 噂をすれば、戻って来たようだ。
 南西の町の方は途中に牙や角を生やした魔物が沢山いたので、それ以上は進めなかったそうだ。
 残りは北と南東の二つの町の報告だけだ。

「駄目でした。○○の町もゾンビで溢れていました」
「そう、それは大変だったね。俺達と同じ服を着た人達はいたかな?」

 報告する男は汗だくだ。走って戻って来たのだろう。
 申し訳なさそうな顔をしているけど、ゾンビは倒せば食糧に変えられる。悪い報告ではない。

「それが町の外から一周見ただけなので、町の中の方までは分かりません。すみません」
「いや、それだけでも十分だよ。ご苦労様。今日はゆっくり休んでいいから」
「すみません、ありがとうございます」

 男にお礼を言うと休ませさせた。あとは北の町の報告を待つだけだ。
 町までは普通は二日で戻って来れる距離だ。三日で戻って来ないようならば危険だという事が分かる。
 その時は七海と佐藤の杖を第三形態にする為に、南東の町のゾンビ狩りに出掛ける事にする。

「ミズキ、ちょっといいですか?」
「んっ? いいよ。言いたい事があるなら遠慮なく言って欲しい」

 町の外に出掛ける準備をしないといけない。そう思って、必要な物を考えているとアルマが聞いてきた。
 履いている革靴は、町の男達がいつでも出掛けられるように用意してくれた。
 鞄の中に入れる物は、水色真珠と黄緑真珠を入れたビンぐらいだ。
 それ以外は特に必要な物はないので、いつでも出発できそうだ。

「町で野菜を育てようと思っているんです。それと家畜を手に入れて欲しいんです」
「それは良い案だと思うけど、俺は具体的に何をすればいいのかな?」

 他の町との交流が難しそうなので、アルマは町での自給自足を考えたようだ。
 町の先に他にも町はあるだろうけど、調べるには日数がかかる。
 唯一の食糧であるメロンパンは日持ちしないので保存食には向かない。
 全員で移動すれば問題ないが、アルマ達は町に残って、町の復興に力を注ぎたいのだろう。

「野菜は種があるので育てるには問題ないんですけど、水が無いので美月に出して欲しいんです」
「確かに井戸水は危険かもしれないけど、解毒薬があるから町で消費する分には問題ないと思うよ」

 この町に永遠にいるつもりはないが、解毒薬を置いていくからヤバイ時はそれを飲めば問題ない。
 それに町を出ても、数ヶ月に一回ぐらいは様子を見に戻るつもりだ。ゾンビになっていたら治療する。
 とりあえず野菜の問題は解決したと考えて、家畜の話をする事にした。

「じゃあ、家畜の話をしようか。町の中には動物はいなかったけど、ペットとかは飼ってないのかな?」

 この世界の生き物は茶色巨大イモ虫とゾンビ人間しか知らない。
 町を探索しても犬も猫も鳥の死骸も見つからなかった。

「多分、魔物化したんです。魔物にも純粋な魔物と動物から魔物化したのがいるんです。ミズキの解毒薬なら、魔物化した動物を普通に戻せると思うんです」
「なるほど。ハーフ……いや、この場合はハイブリッド雑種か?」

 ……つまりは純粋な魔物と一時的な魔物か。面白い情報が聞けた。

「ハイブリッド? それは何ですか?」
「いや、何でもないから気にしなくていいよ。つまり俺は家畜に出来そうな動物を見つけて、捕獲すればいいんだね?」

 ハイブリッドという聞いた事がない言葉に、アルマは首を傾げて聞いてきた。
 大して重要じゃないので誤魔化して、本題に戻した。

「はい、もしかしたら南西の町の途中にいる魔物がそうかもしれません。純粋な魔物はあまり町には近づかないので」
「そういう事なら調べてみるよ。アルマもやって欲しい事があれば、もっと言っていいから。町の人達にもそう伝えておいて。もちろん出来ない事はあるけどね」
「はい、よろしくお願いします」

 アルマに笑顔で困った事があれば頼るように言った。暴動が起きないように好感度を上げないといけない。
 それに何が必要で何が足りないのか、それは俺達よりも町の人間の方が詳しいはずだ。
 
「杖の力で魔物が溢れた、この世界を救ってくださいか……魔物になる原因を見つければいいのか?」

 一人になると世界樹の言葉を思い出した。世界樹が俺達に何をさせたいのかまだ分からない。
 そもそも町の住民達の話によると、世界樹は教会の聖典の最初の方に登場するだけらしい。
『世界樹はこの世界に若き勇者達を呼び寄せた。そして、力を与えた』とこれだけらしい。
 これだと、俺達よりも前に誰かをこの世界に連れて来た事だけしか分からない。

「やはり情報が足りないな。大きな町に行くしかないか」

 いくら考えても結局は情報が足りないという結論が出てしまう。
 一時的な魔物まで含めて魔物を全部殺したら、この世界には人間しかいなくなる。
 それが世界樹が俺達にやらせたい事とは思えない。

 そして、一番気になるのは魔物を倒す理由を一言も言ってない事だ。
 ただ杖を成長させる為に必要だとしか言ってない。魔物が悪とも善とも言ってない。
 魔物が増え過ぎたら世界が崩壊するとも言ってない。
 ……一体、何をさせたいんだ?

 ♢

「へぇー、本当に町があるんだな。よっ、会長」
「藤原に森に辻本か。どうしたんだ?」

 北の町の調査に出掛けていた男と一緒に、紺色の制服を着た顔見知り達の姿が見えた。
 ジロジロと町の中と町の住民を珍しそうに見ている。何処で手に入れたのか三人とも腰に短剣をぶら下げている。

 藤原涼真ふじわらりょうま。180センチ以上の高身長でバスケット部所属。
 ポジションは確かSG、シューティングガード。チームの点取り屋で3ポイントシュートが得意だそうだ。
 鳥の羽毛のような柔らかな金髪のショートヘアで、爽やかな印象で女子に人気がある。

 森桔平もりきっぺい。バトミントン部所属。黒髪のショートヘアで七三分け。
 地味な見た目だが、学年の定期テストでも30位以内を常にキープしている。
 悪い噂も良い噂も聞いた事がない。

 辻本優人つじもとゆうと。赤茶髪のウルフヘア。サッカー部所属でポジションはFW、フォワード。
 その所為か気に入らない相手には攻撃的らしく、サッカー部の後輩をイジメているという悪い噂もある。

 ……体力馬鹿の運動部三人組か。森がパーティの司令塔だろうが、辻本は言う事を聞かないだろうな。
 眼鏡の中心を右手の人差し指で持ち上げると、頭の中に入っているクラスメイト図鑑を閉じた。

「それがせっかく町を見つけたのに真っ黒焦げで、何も残ってなかったんだよ。食糧は水とフライドチキンだけだし、この世界は本当にキツ過ぎる」

 藤原がめちゃくちゃ苦労したと話しているけど、爽やかな顔の所為で疲れているようには見えない。
 藤原は赤の棍棒杖、森は緑の棍棒杖、辻本は青の棍棒杖を持っている。
 イモ虫か他の魔物を結構倒したようだけど、杖からフライドチキンが出せるのが驚きだ。

「北の町は丸焦げだったんですか?」

 北の町の調査を任せた住民の男に聞いた。
 藤原を信用していないわけじゃないが、どちらを信じるかと聞かれたら、住民の男を選ぶ。

「はい、人骨が山のように積み上げられていました。頭を割られた跡もあって、住民同士で殺し合いをして、町を焼き払ったんじゃないでしょうか?」
「確かにその可能性はありそうですね。ゾンビ病に感染した人間を容赦なく焼き殺したんでしょう。でも、結局感染を抑える事が出来ずに町を焼いて逃げ出した。そんなところでしょうね」
「馬鹿な奴らだ。ゾンビになっても、ミズキの薬があれば人間に戻れたのに……」

 調査に行った男の報告を聞いて、そんな結論を出した。考えられるパターンは二つだ。
 住民同士の殺し合いと、感染を恐れた他所の町の住民が殺しにやって来た、の二つだ。

 実際に他所の町からやって来た場合は、自分達も感染してしまう。そのまま自分の町に戻れば意味がない。
 自分達が感染したと気付かずに町に戻れば、ただの馬鹿だが、戻らなければ英雄とも言える。
 町に戻らずに自殺でもすれば、感染は広がらない可能性がある。
 でも、テルダムの町を含めて三つの町にゾンビ病が広がったところを見ると、英雄はいなかったようだ。

「なぁ、会長。話なら後でいいか? 俺達、ここに来れば安全に休めるって聞いたんだ。疲れているから休ませてくれよ」
「あぁ、ごめん。あそこの家が空き家だから、そこを使っていいよ。それとバリケードの外にはゾンビがいるけど、攻撃しないように。この町の住民で人間に戻せる薬があるから」
「はぁ? あぁ、分かったよ。ゾンビは攻撃しないだな」

 明らかにイライラと不機嫌な顔で辻本が言ってきた。
 確かに三人にはフライドチキンを出して貰うぐらいしか用事はなさそうだ。
 掃除済みの空き家を指差して、ゾンビを攻撃しないように注意した。

「会長はそんな薬が作れるなんて凄いですね。僕達にも数本分けてくれませんか?」

 藤原と辻本は指差した空き家にフラフラと向かって行くけど、森だけはまだ話がしたいようだ。
 ゾンビを人間に戻せる薬が欲しいようだけど、俺としては薬を飲んでいない人間に協力して欲しい事がある。

「それは構わないけど、確かめたい事があるから協力して欲しい。ゾンビになる前は高熱が出るそうなんだ。このまま三人には薬を飲まずにいて欲しい。一週間以内に熱が出なければ、多分、もう感染する心配はない。町の井戸水が使えるようになる」

 町の人間がゾンビになって数年経過しているなら、ゾンビウイルスはもう消失している可能性がある。
 それが事実ならば、井戸水を飲んでもゾンビにはならない。

「被検体、モルモットになればいいんですね? 分かりました。会長の杖は随分と長いですけど、どうやって成長させたんですか? この杖になった後にイモ虫を300匹は倒したんですけど、成長しないんですよ」
「……それはおかしいね。それだけ吸収したら成長するとは思うんだけど……」

 森は実験に協力してくれると約束すると、緑色の杖を見せてきた。七海と同じ回復の杖らしい。
 イモ虫300匹ならゾンビ150匹ぐらいになる。成長するのに足りないとは思えない。

 原因があるとしたら、持ち主の精神面か、吸収した魔物の質のどちらかだと思う。
 高橋と長谷川の杖は問題なく第三形態になったから、原因はおそらく魔物の質だ。
 ……杖を第三形態にするには、水色真珠では駄目みたいだな。森のお陰で良い情報が入ったかもしれない。

 つまりは俺がゾンビを倒しまくっても、これ以上は杖が成長しないという事だ。
 杖を成長させるには、水色と黄緑真珠以外の魔物を探す必要がある。

「何か成長先の明確なイメージが必要なのかもしれないね」
「イメージ? あぁ、なるほど。白い杖を変えるみたいな感じですか?」
「多分ね。長谷川さんはお風呂に入りたいと思って、杖を成長させた。俺はゾンビを治す解毒薬を考えて、杖を成長させたんだ。強いイメージ力が成長に必要なのかもしれない。まぁ、ハッキリは分からないけどね」
「そうですか……」

 ゾンビを倒せば杖が成長する事は教えず、森には適当な情報を与えておいた。
 教えれば、町のゾンビを殺そうとする可能性がある。面倒な客を町に入れてしまったかもしれない。
 ゾンビを無断で殺して、住民達を怒らせないで欲しいものだ。
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