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前編・前

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「メアリーお姉ちゃん、これちょうだい」

 趣味の家庭菜園の可愛い野菜達に水をあげていたら、ブロンドの長い髪を揺らして、可愛らしい笑顔を浮かべた妹のアシュレーがやって来た。手に持っているのは先日、骨董市で手に入れた安物のブローチだ。
 蝶型の金メッキが施されたブローチで、とにかく安かったから思わず買ってしまった。

「はぁぁ、別にいいですよ……」

「やったぁ! ありがとう、メアリーお姉ちゃんっ!」

 溜め息を吐きつつ、あげると答えてあげた。私の言葉に妹はいつものように大喜びだ。どうせ嫌だと言っても無理矢理に奪うか、内緒で奪うので、もう抵抗するのは諦めました。
 妹のメアリーと私は双子の姉妹で十六歳です。外見は瓜二つなのに性格だけはまったく違います。普通の一般家庭に産まれたのに妹は我儘放題です。両親も私同様に諦めて、結婚するまでは甘やかすと決めました。

 ……まぁ、お見合い話は一回も上手くいってませんけどね。

「あれぇ? これなんですか?」

 野菜嫌いの肉好き妹が珍しく野菜に興味を持ったようです。鉢植えで育てている直径三センチの赤い野菜を指差して聞いてきました。流石の妹も毎日丁寧な世話が必要な野菜や花は欲しがりません。

「あぁ、これは外国の野菜です。プチトマトと呼ばれる甘い野菜で、おじさんは緑色から赤色になったら食べられると言ってました。小さなリンゴの木みたいで可愛いでしょう?」

 うふふと微笑みながら妹に教えてあげた。
 骨董市で見つけて購入したプチトマトの種はブローチと違って、とても高価なものでした。お母さんにお小遣いを前借りして何とか手に入れたので、お陰で数ヶ月はお小遣い無しです。
 それでも野菜達は妹と違って丹精込めて育てれば、可愛く育ってくれるので可愛いです。

「へぇー……一個ちょうだい!」

「あっ!」

 ブチッと妹は聞きながら、もうプチトマトを勝手に毟り取りました。
 まぁ、一個ぐらいならいいです。それに私もよく分からない外国の野菜を食べたいとは思いません。ちょうどいいので、妹に毒味と味見をしてもらいます。

「どうですか? 美味しいですか?」

「んんっ~? んんっ~?」

 モグモグと食べている妹に聞いているのに、妹は唸りながらブチッブチッとプチトマトを次々に毟り取っては、口の中に放り込んでいきます。
 不味いなら何個も食べないだろし、美味しいようです。私も試しに食べてみようと手を伸ばしました……

「痛っ!」

 いきなり妹にパシィンと手を叩かれてしまった。

「ああっ! ダメダメっ! お姉ちゃんは危ないから食べたらダメだよ! 何だか、舌がピリピリしてきた! あぁー、これ絶対に食べたらダメなやつだよ!」

「そ、そうなんですか……?」

 妹は怒りながらブチッブチッとプチトマトを次々に手に取っては食べていきます。危ないなら食べない方がいいのに次々に食べていきます。そして、全部食べてしまいました。

「アシュレー……大丈夫なの? 何ともないの?」

「んんっ? 何ともないよ。それよりも一個も甘いのなかったよ。メアリーお姉ちゃん、おじさんに騙されちゃったみたいだね。今度からは気を付けた方がいいよ」

「は、はい……?」

 心配する私にケロっと妹は笑いながらプチトマトの感想を言いました。私が聞きたいのは今は味ではないです。妹の身体が心配なので、大丈夫なのか尋ねました。

「舌がピリピリするんでしょう? 病院に行った方がいいんじゃないの?」

「えっ?……あぁ~~うんうん! ピリピリするかも! 早くクッキー食べなきゃ! メアリーお姉ちゃんもプチトマトは不味いから、育てるならクッキーにした方がいいよ」

「なっ⁉︎」

 私が心配して見つめていると妹は思い出したようにピリピリすると言い出した。反応が明らかに嘘をついた時の反応だ。クッキーを食べに慌てて家の中に走って行ったけど、クッキー食べても毒は消えない。

「うううっ、もう、我慢できない!」

 プルプルと拳を握り締めて震わせる。ブチッと私の中の何かが切れてしまった。私の二ヶ月の努力が僅か二分で、全て妹に不味いと言われて食べられてしまった。もう絶対に許してあげない。
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