上 下
116 / 121
26日目

偵察・ミランダ

しおりを挟む
 昨日の決闘の偽りの勝者には、保管していた火竜の死体を渡した。
 捕まえたドラゴンの翼を斬り落とせば、修復で火竜の死体は増やせる。
 カノンの被害は自分のペットが負けたという屈辱だけだ。

 ドラゴンは約束通りに訓練所行きになった。
 広範囲の炎の息で、流れ作業のようにスライムを倒してもらう。
 パトラッシュも友達として、エサやり係として一緒に閉じ込められた。
 二匹仲良く協力して、レベル上げだ。
 
「今日はミランダ姉様を見ますか。不正とかしてそうです」

 今日は三日間の勝負の二日目だ。明日の昼には決着がつく。
 ルセフが火竜と解体したヘルハウンドで、勝負するのは分かっている。
 磨いて光らせるだけのミランダが、勝てるとは思えない。
 このままだと敗北して、悔しがる姉の姿を見ることになる。

「うふふふ。姉様の土下座が見れるかもしれません♪」

 カノンはとっても姉思いだ。
 勝たないか心配だから、姉の部屋に楽しそうに向かった。

 扉を叩いても返事がなかった。
 扉を開けて部屋に入ると、ミランダはベットに寝ていた。隣にはシリカが寝ている。
 ベットの近くには四角いテーブルが置かれている。
 テーブルの上の陶器の皿には、食べかけのクッキーが並んでいる。

「あ~、なるほど……」

 カノンは部屋の状況を見て、分かってしまった。ミランダは凄く疲れている。
 もしくは勝利を確信して、新しい妹とお菓子を食べる余裕がある。

「姉様、姉様。朝ですよぉ~」
「ふみゃ、うにゃ、ふにやぁぁ」

 プニプニの脇腹の肉を両手で揉んで、カノンはミランダを起こそうとしている。
 自分よりもちょっと痩せているから、強めに揉んでも問題ない。
 ミランダが起きそうになると、急いで手を離して、笑うのを我慢した。

「……今、何かしなかった?」
「えっ、何のことですか? それよりも起きなくていいんですか? ルセフさん、凄い大物倒してましたよ」

 姉にジッと見られて、カノンは首を傾げて惚けると、すぐに話を切り替えた。

「ふわぁ~ぁ、休んでいたのよ。磨くのはタダなんだけど、色変えるのはMP払わないといけないから」

 ミランダは手で隠して小さく欠伸すると、少し遅くまで寝ていた理由を答えた。

「まあ、そうですね。でも、魔法薬を飲めば回復しますよ。MP回復薬は飲まないんですか?」
「あんな物飲まないわよ。使った経費は引かれるのよ。完全に赤字じゃない」
「ああ、なるほど……」

 姉は見かけと違って、しっかりしているとカノンは思った。
 あとでルセフに飛行船代、回復薬代、ドラゴンキラー代、時の杖代を請求しないといけない。
 だけど、それをすると姉の土下座が見れなくなる。それは困るから無料サービスにする。

「それよりも何の用で来たの? アイツを見張りなさいよ」

 ルセフが大物を倒したという報告は聞いた。
 何か考えごとしている妹が、まだ自分の部屋にいる理由をミランダは聞いた。

「それなら大丈夫です。見張りはナンシーに任せました。私は姉様が心配で見に来ました」
「ふーん、心配ねぇー。その必要はないと思うけど」
「そうなんですか?」

 ミランダが勝たないか心配だが、その心配は的中しているようだ。
 自信満々の笑顔のミランダが、ようやくベットから降りた。
 MPを使いまくる程に疲れているのなら、遊んでいない証拠だ。

「ふふっ。心配なら付いて来なさい。噂を聞きつけて、今日はもっと繁盛するはずよ!」

 ミランダはそう言うと、シリカを起こして、目立たない庶民の服装に着替えた。
 よく見るとシリカの髪や肌が、ツヤツヤ輝いている。
 新しい妹もスキルで遊ばれたみたいだ。しばらくは元に戻らないだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...