上 下
100 / 121
23日目

凄腕冒険者

しおりを挟む
「お母様、庭に訓練所を作ってください。私、冒険者になって月100万ギルド稼ぎたいんです」

 珍しく朝の朝食にミランダがやって来ると、テーブルに座る母親にお願いした。
 色仕掛け作戦ではなく凄腕冒険者になって、ルセフよりも高収入になって、見返すことに決めた。

「夜遅く帰ってきたと思ったら、何を馬鹿なことを言っているんですか。エリック、あなたの所為で、さっそく娘に悪影響が出ていますよ」

 くだらない話には興味はないと、ロクサーヌは娘から夫に視線を向けた。
 エリックが街への散歩を賛成したから、馬鹿な娘が馬鹿なことを言い出したと非難している。

「まあまあ、ロクサーヌ。ミランダは昨日色々と学んだんだ。朝起きられたのはその証拠じゃないか。その訓練所とやらで、剣や弓の先生から武器の使い方を習いたいんだろ?」
「違います、お父様。訓練所はスライムという大きな青トマトを倒して、レベルを上げる所です。レベルを上げれば、身体もジョブも強くなるんですよ」
「ほぉー、それは知らなかった。ミランダは賢いんだな」
「まあ、このぐらいは一般常識です♪」

 エリックは妻よりも娘に愛されたいようだ。カノンと同じようにミランダの味方をしている。
 訓練所もすぐに屋敷の中に用意するはずだ。

「またあなたはそうやって……訓練所も冒険者になる必要もありません。必要ないことはやる必要ありません」
「でも、お母様! 私、昨日冒険者の男に、一人では何も出来ない赤ん坊だと言われたんですよ。このままでは悔しいです。見返してやりたいんです!」

 父親は賛成だが、母親は反対だ。反対する母親にミランダは昨日の出来事を話した。
 貴族が平民に馬鹿にされたんだから、ロクサーヌも怒って協力してくれると思っている。
 だけど、現実はそんなに甘くない。

「そんな理由ならますますくだらない。小さな相手に馬鹿にされて悔しがる時点で、あなたもその男と同じ位置に立っている証拠です。街に出ることは許します。でも、街の人間になるのは許しません。貴族は上から下の者を見下ろす立場です。あなたには貴族としての自覚がありません」

 平民程度に怒るようなら貴族失格だと、ミランダは母親に怒られている。
 平民エリックは、近くで叱られている娘を見ていることしか出来ない。
 ロクサーヌが平民でも夫には、めちゃくちゃ怒るのを知っている。

 ♢

「——みたいなことがあったのよ。酷いと思わない? もう自分でやるしかないわね」
「は、はぁ……」

 食堂から妹の部屋にミランダは移動した。
 母親と父親の愚痴をカノンに聞かせている。

「とりあえずレベル30よ。昨日、アイツら見ていただけだから、昨日の四人と近くの魔物を倒しに行くわよ。私の使用人が大工だから、庭に訓練所も建てられるわ」
「それはいいですけど、私も行かないと駄目ですか?」

 カノンは飛行船での一人観光を予定している。姉のつまらない誇りに付き合いたくない。
 使用人のナンシーは好きに連れて行っても構わない。

「当たり前でしょう。私がやるんだから、あんたもやらないと駄目。一人だけ楽しようなんて許さないわ」

 逃げられない運命らしい。姉の権限でカノンも強制参加だ。
 でも、馬鹿姉にカノンは言いたいことがある。

「姉様、倒した魔物はどうするんですか? 姉様も使用人も解体できませんよね? それだと買取ってもらえないですよ」

 月に100万ギルド稼ぎたいのは分かったけど、稼ぐ方法をキチンと考えていない。
 魔物を倒すのは出来ても、綺麗に解体できなければ意味がない。

「そんなの簡単よ。野菜の皮剥きとほとんど一緒でしょ。使用人が全部やってくれるわ。訓練所の他に解体所も作らせないといけないわね」
「……姉様、それだと今までと一緒で全部他人任せです。赤ん坊と一緒です。姉様一人でやれることを見つけた方がいいですよ」
「なぐっ!」

 自信満々に答えた姉を見て、カノンは姉がどんどん馬鹿に見えてきた。
 優秀な使用人なら解体も練習すれば出来そうだけど、姉は出来る前にやりそうもない。
 貴族のように使用人に命令して、あれしろこれしろと言っているだけだ。
 ルセフを見返したいなら、自分一人でやった方がいいに決まっている。

「あんたもお母様と一緒で反対するつもり。だったらもっと良い方法を教えなさいよ!」

 妹にまでお説教されて、ミランダは逆ギレを始めた。
 すぐに怒るこういうところが、赤ん坊扱いされる原因だ。

「姉様が冒険者になりたいなら、一人で魔物を倒して解体するしかないです。嫌ならお母様の言う通りにするのが一番です」

 そんな姉にカノンは正論を言っている。
 どっちもミランダにとって、我慢が必要な選択だ。
 汗水垂らして我慢するか、屋敷で大人しく我慢するしかない。

「もういいわ! 行きたくないなら最初から言いなさいよ! 昨日、見ていただけのあんたは連れて行くだけ無駄よ。あんたは屋敷で駄犬と遊んでなさい!」

 ミランダは我慢するのは嫌らしい。
 怒って立ち上がると、カノンに文句を言って部屋から出て行った。
 今度は使用人達の所に行くらしい。全員が断れば、もう一人でやるしかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

転生チートで英雄になったんですが、スローライフしたいです(切実)

みなかみしょう
ファンタジー
フィル・グランデは世界を救った英雄である。 辺境大陸に発生した魔王を倒すべく、十歳の頃から死闘を重ね、多くの国家と仲間の協力を得て、ついにはそれを打ち倒した。 世界を混沌に叩き落とした魔王の討伐に、人々は歓喜した。 同時に、一人の英雄を失った悲しみもそこにあった。 十年かけて魔王を倒した英雄フィル。 魔王と差し違えた英雄フィル。 一人の若者は、死して伝説の存在となったのである。 ところがどっこい、フィルは生きていた。 彼は『イスト』と名前を変え、見た目を変えて、田舎国家で売れない雑貨屋を営む道を選んでいた。 彼が栄誉と名声を捨てた理由は一つ。 「もうあんまり働きたくない」 実は彼は転生者であり、仕事漬けだった前世をとても悔やんでいた。 次こそはと思って心機一転臨んだ転生先、そこでの戦いの日々にもうんざりだった。 「今度こそ、仕事はそこそこにして、やりたいことをやる。キャンプとか」 強い決意で怠惰な日々を過ごすイストの下に、次々と厄介ごとがふりかかる。 元々の仕事熱心かつお人好しな性格が災いし、彼はそれを断り切れない。 「くそっ! 魔王を倒したのに、なんでこんなに戦ってばかりなんだ!」 これは、一人の男がスローライフを獲得するために奮闘する物語である。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

〈完結〉冤罪で処刑されるお姉様を助けるのは異母妹の私です!

江戸川ばた散歩
ファンタジー
 皇族毒殺未遂の罪において、同じ毒で処刑されることが皇帝の前にて決まったバスタゼイリア侯爵の次女シリア。  それまでにも毒殺未遂や毒殺というものが宮中のあちこちで起こっていたことから、皇族貴族達の間からは安堵の声が上がる。  実家の父親・バスタゼイリア侯爵ゼイリックは「そんな痴れ者が我が家にいたとは恐ろしい」と知らぬ存ぜぬ。母親が違う姉はシリアを元々見下しており、厄介者が減ったとばかりである。  だがやはり上の姉ともシリアとも母親が違う妹のマリアはシリアの無実を信じる。  マリアにはその理由があったのだ。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...