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後半

第84話

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「痛たたた……とんでもない、じゃじゃ豚だな! エルミアの王子はきっとドMだ。姉上を側室に送れば涎を垂らして喜ぶだろう」

 アリエルを空き部屋に閉じ込めると、ウェインは自室という物置に戻りました。豚にやられた脇腹と股間がまだ痛みます。
 そして、今日も強盗が入った後のように、部屋が姉や妹達によって荒らされていました。床には折れたペンと破かれた紙が散らばっています。勿体ない事をします。物に当たるぐらいならば、ウェインに当たるべきです。

「さて、ドラゴン狩りの招待状を書くとするか……」

 こうなる事は予想済みだと、ウェインは持ち歩いている鞄から、町で買ったばかりの新品の紙とペンを取り出します。床に転がっている椅子を起こすと、それを机代わりに招待状を書き始めました。

 ☆

 ——ドラゴン狩りの招待状がソヴリス王国から送られた数日後、エルミア王国王城の謁見の間にジェラルドは呼び出されました。

「父上、どうかしましたか?」

 王子は国王に呼び出された理由に心当たりがありません。あるとしても、コルトンがララノアに送った脅迫状は信用できる兵士に任せています。
 本当は自分で行きたかったようですが、結婚式が終わって直ぐに、隣国に王子自らが行く理由が見つかりませんでした。下手な動きをすれば、父親の目がソヴリスに向いてしまいます。怪しまれないように我慢しました。

「ふっふふふふ。面白い招待状がソヴリスから届いたぞ。狩りの招待状だ」

 フェルナンド国王は右手に持つ招待状をヒラヒラと揺らして酷く上機嫌です。王子はソヴリスの名前を聞いて、嫌な予感がします。
 コルトンに指定された場所にお金を積んだ馬車は向かわせました。おそらく、もう到着しているはずです。
 もしかすると、お金の受け取りが上手くいかずに、ララノアではなく、国王に手紙を書いて送ったのかもしれない。だとしたら、招待状の狩りとはアリエルの事を言っているのだろうか? ……と嫌な推測が王子の頭の中を駆け巡ります。

「狩りとはイノシシ狩りや鳥などでしょうか? でしたら、わざわざ隣国に行かずとも、我が国でも出来るではないですか。何か裏の糸があるのかもしれません。用心した方がいいと思います」
「くっくくくく。何を言っている? イノシシ狩りへの招待状ならば、お前を呼び出さずに破り捨てている。招待状と一緒にこれが送られて来た。何だと思う?」

 こっちに来いと、国王は息子を玉座に呼び寄せます。王子が近くまでやって来ると、赤い大きな葉っぱのような物を懐から取り出して王子に渡しました。

「……鱗ですか? 亀の甲羅を使った加工品でしょうか?」

 王子は赤い葉っぱのような物を受け取ると、裏返したり、突いたりして丹念に調べます。金属のような硬さに手の平よりも大きな鱗のようです。
 王子の経験と知識から考えられる答えは巨大な亀の甲羅でした。亀の甲羅は何層もあるので、このように薄くはなります。形状は鱗のようにはなりません。亀の甲羅は熱で変形しやすい性質があるので、このように鱗状に加工する事も出来るのかもしれません。

「なるほど。確かによく勉強しておる。生物に詳しい者に聞いたら、その中に亀の甲羅という意見もあった。馬鹿デカい鳥の羽や馬鹿デカいトカゲの鱗、馬鹿デカい魚の鱗と……とにかく馬鹿デカい生物の何かという結論になった」

 そんな答えしか出せないなら、辞めちまえ! と王子は思いましたが、馬鹿デカい生物ならば問題ありません。アリエルには鱗は生えていませんし、小さいです。狩りの対象にはなりません。

「はぁ……つまりは、その馬鹿デカい生物を狩りに行くので、私に城を任せるという事ですか?」
「いや、この招待状はソヴリスの王子からのもので、お前ともゆっくり話したいそうだ。結婚式の時に庭で少し話したらしいじゃないか」
「庭で……? 平民のような服装の緑髪の男とは話しましたが、あれがソヴリスの王子だったんですか?」
「私に聞いても分かるはずがなかろう。何でも、二本足で歩ける豚の品種改良が成功したそうだ。その豚を見に来ないかとお前も誘っている——」

 国王の話は止まりませんが、二本足で歩く豚という言葉を聞いて、王子の胸はザワつきます。そんな豚は世界で一匹ぐらいしかいないはずです。

「——あそこの国は林業と畜産業に力を入れているそうだが、手に入るのは材木と加工品だけだ。城に直接行けば食べられるはずだ。上質な物ならば、取り引きも考えている。お前も時間があるなら、外交の練習だと思って付いて来い」

 ドラゴン狩りに二本足で歩く豚と、明らかに招待状の内容は国王と王子を誘い出すものです。罠だとしても意味が分かりません。
 王子だけならば、人間用の罠も十分に通用しますが、国王は馬の首を掴んで振り回して、20メートルは軽く投げ飛ばせる馬鹿です。連れて行くメリットは欠片もありません。むしろ、招待するデメリットしかありません。

「分かりました。出掛ける準備をします。いつ頃、出発する予定なのですか?」
「そんなのは決まっている。さっさと行くぞ。城に行くだけで一週間はかかる。往復で三週間はかかる長旅になる予定だ。そんなに長く城を留守にする王が何処にいる。お前もララノアを連れて、新婚旅行という名目で付いて来るのだぞ」

 最低の国王に忠臣達は最早文句はありません。むしろ、三週間も城にいないので大声で文句を言える絶好のチャンス到来です。
 ドラゴン狩りに付き合わされる二千名の兵士達には同情しますが、嬉し涙を流しながら死地へと送り出しました。
 
 
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