上 下
107 / 122
第8.5章・ざまぁ編(エッサの場合)。

第107話・エッサ編完結。

しおりを挟む
「ちょっと奥さん!そこは男の命です。あぁ~、隣の奥さんまで!」

(オラは絶対に負けないべぇ。こんな色仕掛けに負けるような男じゃないべぇ。全員かかって来るんだべぇ!)

 もうほとんどエッサは負けていますが、まだ粘るつもりです。そこまでしても得られるものは一時的な幸福感だけです。鼻の下をダラシなく伸ばした腐った村人代表のエッサに、隠れていたエミィが大胆にも近づいて行きました。

「エッサ、久し振りね。これで私の事を許して欲しの。エッサが許してくれるなら、他の女の子も用意出来るわよ。」

「この白下着下着姿のエミィめ!よくもオラの前に出て来られるべぇな。オラにこんな事をしてタダで済むと思うなべぇよ!」

(どうして、そんなに強気なのかしら?もうパンツ1枚じゃないの。説得力ゼロよ。この腐ったジャガイモ野郎!)

 エミィが登場しても、エッサは構わずに谷間に注がれたフルーツ牛乳をガブ飲みし続けます。でも、その中身には麻痺と睡眠効果がある即効性の薬がたっぷり入っています。ちょっとずつ、エッサは身体に違和感を感じるようになって行きました。

「おい、泥棒女。オラの子供を妊娠しているのは知っているべぇよ。この事を王様が知ったら、絞首刑だべぇな。その貧相な胸Cカップの谷間でオラにお酌したらどうなんだべぇな?」

(いやいや、ここはフルーツ牛乳じゃなくてだな。フルーツ母乳で誠心誠意の謝罪をするのが人の道なんだな。うんだぁ。どれどれ、オラが乳搾りを手伝ってやるべぇ。)

 ぐぅへへへへ!とエッサは下衆な笑い声を上げながら、汚らしい両手をエミィのおっぱいに近づけて行きました。

パァーシン顔面強ビンタ!』

「ぐぅべぇ?!この尻軽、オラに何するんだべぇか!王様に言いつけて死刑にしてやるべぇよ!」

「ハァ~~、もういいわ。我慢の限界……街のみんなは帰ってもいいわよ。あとは私達がこの変態を退治します。」

 下着の美女達が玉座の間から急いで出て行くと、代わりにゾロゾロと隠れていた武装した兵士達とエッサの顔見知り達が何人も出て来ました。

「なんだべぇ?もしかして、オラを殺すつもりだべぇか?1、2、3…………ハァ~~~、たったの30人だべぇか?オラも舐められたものだべぇなぁ~。なあ、ロックタ?なんでオラの鎧と両手剣を持ってるんだべぇ?黙ってないで、早く返すべぇ。」

『名前・ロックタ。職業・ミルド国王双剣士。称号・元奴隷国王。王殺し。プレイヤーキラー。レベル112。HP8425。MP2320。攻撃力585。魔力595。敏捷690。』

「この田舎者め!世が誰だか分からぬのか?このミルド王国国王ロックターヌ1世を知らんとは、この愚か者のド変態の縞パン野郎め。畑の肥やしにしてやるぞ。」

「何言ってんだべぇ?何がロックターヌだべぇ!ヤベェー薬でも使ってるべぇか?」

 ロックタは巫山戯ているわけでも、ヤベェー薬も使っていません。正真正銘のミルド王国の新国王になっています。前のセントワーズ三世はロックタに殺されてしまいました。

「ねぇ、あなた。あの変態を早く退治して寝室で楽しい事しましょう。」

「コラ~、はしたない!人が見てるじゃないか。」

 いきなりエッサの目の前で下着姿のエミィと王冠を被ったロックタがイチャつき始めました。周りは見て見ぬ振りをしていますが、どうやら2人の関係を知らない者はいないようです。エッサ以外は………。

「このド淫乱の尻軽女め!ロックタはまだ15歳の未成年だべぇよ!それにロックタもロックタだべぇ。エミィはオラの伴侶だべぇよ!人妻に手を出すなんて人間のする事じゃないべぇ!犬畜生にも劣る人間の屑だべぇ。2人とも恥を知るんだべぇ!」

 エッサが怒るのも仕方ありません。ロックタとエミィは戦闘訓練と称して、夜な夜な遅くまで密会していました。いつの間にか2人は男女の関係になっていたようです。

「男の嫉妬は醜いわよ。自分の顔を鏡で見た事あるの?あんたの顔なんか39点なのよ。私が好きで付き合っていた訳ないでしょう!このお腹の子供もアンタじゃなくて、ロックタの子なのよ!」

39点の男と45点の女ならば、どっちも大した事ありませんが、やっぱり点数の高い方が偉いのです。

「………嘘だべぇ。オラ、スポンサーのオバちゃんに聞いたべぇ。間違いなくオラの子供だべぇ!」

 縞パン、エッサが確信を持って否定します。エミィの子供は自分の子供だと信じています。そんな、エッサの足元にエミィに奪われていた本が転がって来ました。

「私の言葉が信じられなくても、その本の事は信用しているわよね?本で調べてみたら、誰の子供か分かるんじゃないの。」

(いや、そんなはずはないべぇ。間違いなくオラの子供だべぇ。みんなでオラを揶揄っているだけだべぇ。うんだぁ。そうなんだな!)

 エッサは恐る恐る本を拾うと、パラパラと手慣れた手つきでページをめくり始めました。そして、エミィとロックタが可愛い女の子と仲良く3人で手を繋いでいる姿絵を発見してしまいました。

ロックターーー!ロックターーーこの裏切り者の嘘つき野郎め!お前ら全員皆殺しにしてやるべぇ!天空より降り注ぐ輝く流星よ!創世の時を」

ヒューン、ドォス弓矢発射、銀の矢命中!』

ぐぅべぇ脳天直撃!」

 残念ながら詠唱の途中で邪魔されました。脳天に刺さった銀の矢がすぐに消えていきました。残ったのは懐かしい痛みだけです。

「よーし!命中!」

(また、お前ルナだべぇか!オラの邪魔ばかりしやがって、ロックタ以上にムカつく女だべぇ!)

 武器も防具もない状況で、エッサが頼れるのは魔法だけです。でも、やっぱり邪魔されました。

「エッサ~、ねぇ、何で生きてるの?私、確かに殺したよね?もしかして、殺したの豚だったかな?」

「オラだべぇ!防具を着た豚がいる訳ないべぇよ!舐めてると、オメェーの服全部脱がせて、雌豚にして飼ってやるべぇよ!」

 それはそれでいいかもしれないと、エッサは少し思ってしまいました。けれども、豚として飼われるのはエッサの方でした。30対1ではどう頑張っても勝てません。

 エッサの両手剣を装備した事でロックタの攻撃力は2000を超えました。防具はダメージを70%も減らしてくれます。その他の兵士達もランク13、14のエッサの予備の防具を装備しているので、一撃で倒す事も不可能でした。

「ハァハァ、ハァハァ、おかしいべぇ?レベル204のオラが何で負けそうなんだべぇ?また、隠れて誰かがオラの邪魔をしているんだべぇか!」

 いいえ、違います。今回はプロデューサーは何もしていません。パンツ1枚の麻痺状態で、レベル100以上の30人と戦っているからです。飲んでも脱ぐなです!

 エッサの奮闘虚しく、エッサは牢獄に連れて行かれました。この空間はアイテムも魔法も使えません。レベルも封印されるように作られていました。そして………。

 ◆

『ザァク、ザァク、ザァク、ザァク。』

「いやぁ~~、今日も真っ暗だべぇ。」

 エッサは先祖代々伝わるくわで、土の入った桶を耕していました。まるで1人餅つきです。暗い牢獄の中で毎日毎日、意味の分からない辛い労働を強いられていました。

「おい、204。手を休めるな!飯抜きになりたいのか!」

「ヒィーー、申し訳ございませんだべぇ!今すぐに始めますだぁ~!」

 少しでも休むと看守に怒られます。最初の3日間は反抗していたエッサですが、空腹には勝てませんでした。今では従順な犬になってしまいました。

『ザァク、ザァク、ザァク、ザァク。』

(チャンスを待つんだべぇ。いつの日か復讐するんだべぇ。)

 残念ながら、エッサの夢が叶う日はやって来ませんでした。エッサが死んだ後も、牢獄の中からザァク、ザァクという土を耕す音だけが聞こえ続けました。王都七不思議の一つ『牢獄の幽霊村人』がこうして誕生したそうです。

【ざまぁ編・エッサの場合・完結。】











しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

処理中です...