上 下
103 / 122
第8章・ざまぁ編。

第103話・緊急手術開始。

しおりを挟む
 炎の竜巻が収まると、部屋の天井付近から裸のウルスラが落ちて来ました。さすがはEXダンジョンのボスです。ダメージ10万でも、高いHPで耐え切れたようです。

ドォシン床に落下!』

「がぁはっ!…うぐっぐ~、まだまだ戦えるわよ…」

(争いを好まなかったウルスラとは大違いだな。やはり見た目だけで中身は別人のようだ。……最後トドメは私の手で終わらせないとな。)

 グロリアは槍を握り締めると、まだ満足に動けないウルスラに向かって歩き出しました。妻の幻影を倒す事を決めたようです。おそらくはイベントモンスターであるウルスラは、一度倒せば再出現しません。会うのはこれで最後になるでしょう。

「もう一度聞く、本当に私の事を知らないのか?私はお前の夫だったグロリアだ。本当に何も思い出せないのか?」

「ハァハァ……フッフフ、相当な勘違い野郎ね。あんたみたいな筋肉質のデカブツに私が惚れると思っているの?それとも幻術の私でもいいから楽しみたいのかしら?まあ、絶対に嫌だけどね。」

(やはり見た目だけか……さらばだ、私の愛した妻よ!)

『ドォス!』

「ぐぅふぅ!フッフ、全然効かないわよ。」

 グロリアは一思いに、槍で動けないウルスラを突き刺しました。一回で倒せないのは分かっています。死ぬまで何度も突き刺す覚悟です。それでも頬を伝う涙は止まりそうにありません。

(勿体ないべぇ!何してくれてるんだべぇか!)

「止めるんだべぇーーー!グロリアの覚悟は分かったべぇ。あとの事はオラに任せて先に浮遊城に戻って欲しいんだな。」

「これは私の役目だ!頼む、やらせてくれ。出来れば自分の手で終わらせてやりたい。」

「馬鹿言ってじゃないべぇ!愛する女を殺したい男が何処の世界にいるべぇ!あとの事はオラに任せて欲しいべぇ。もしかすると、ウルスラさんの心を取り戻す事が出来るかもしれないべぇ。」

「くぅ、本当にそんな方法があるのか?……頼む、私にその方法を教えてくれないか!可能性があるのなら手を貸して欲しい!」

「残念ながらこの方法は物凄い集中力と魔力と精神力を使うんだべぇな。近くに人がいるだけで失敗する確率が高くなるんだべぇ。オラを信じて今すぐに浮遊城に戻るんだべぇ!行けぇー、行くんだべぇー!早くしろー!」

「くっ!……あとは任せたぞ、エッサ。すまない。」

 グロリアはエッサを信じて浮遊城に戻って行きました。ここまで一緒に戦って来た戦友を信じて全てを任せました。

 ◆

「これより緊急オペ手術を開始するんだな。槍、盾、ロープなんだな。急いで手術しないと患者が暴れ出すんだな。」

グルグル、キュキュ、ガァチャリ多重拘束封印術完了。』

「くぅ!何のつもりだ!私の身体を動けなくして何をするつもりだ。この変態!」

(じゅるり~、以前に純情エミィと寝た翌朝に、純情エミィが性悪エミィになってしまった事があったべぇ。オラも人妻に手を出したくはないべぇが、親友の為だべぇ!オラも覚悟を決めて、全力で頑張るしかないんだべぇな!うんだぁ!うんだぁ!)

 エッサも武器と防具を脱ぎ捨てて、裸のウルスラの元に向かいました。これも親友の為です。頬を伝う涙も気にせずに、うつ伏せ状態のウルスラに襲い掛かりました。

「やめてぇー!このケダモノめ!呪ってやる、呪ってやる!」

(ハァハァ、ハァハァ、身体は正直なんだな、奥さん!オラがタップリと時間をかけて色々と思い出させてやるんだべぇな。ぐぅへへへへ、ぐぅへへへへ!)

 ◆

『チュンチュン。チュンチュン。』と鳥達の鳴き声と共に無事に朝を迎える事が出来ました。

 ウルスラの緊急手術は長時間行われました。エッサは手術中に失った体力と魔力と精神力を回復する為に完全回復薬『エリクサー』を10本も消費してしまいました。

「ここは何処?どうして、私は何も着てないの?」

 キョロキョロと大人しそう女性が周囲を見回しています。どうやら手術は無事に成功したようです。

「おはようございます、ウルスラさん。ここはダンジョンの中です。私はエッサ。ご主人のグロリアさんと貴女を助けに来ました。あいにく女性物の服はありませんが、予備の防具があるのでとりあえず着てください。」

 ウルスラの隣には防具をしっかりと着た状態のエッサが座っていました。知らない男が隣に座っているので、緊張していまいましたが、すぐに自分が裸だったのを思い出して、急いで防具を着用しました。

「はい、ありがとうございます。それで夫は何処にいるのでしょうか?なんだか身体がとても怠いようですし、手足を何かで縛られた跡もあるようですし、私はここで何をしていたのでしょうか?」

「私とした事が!少しお待ちください。……この飲み物は回復アイテムです。飲めば体力が完全回復するはずですよ。手足の跡は暴れる貴女を拘束する為に必要な処置でした。申し訳ありません。回復薬を飲めば、すぐに消えると思いますよ。」

 ゴクゴクとウルスラは回復薬を飲んで行きました。乾いた喉を潤し、全身の痛みや傷跡、そして痕跡キスマークを消し去ってくれました。さすがはエリクサーです。

「さあ、ご主人が外で貴女に会えるのを待っていますよ。行きましょう。」

「はい!もしかして、エッサ様は勇者様なのですか?なんだかとても落ち着いていて、気品というものを感じます。」

「はっははは、違いますよ。何処にでもいる、ただの普通の男ですよ。」

 勇者というよりも、今のエッサは賢者です。しかも時間限定の賢者モードです。今回は長時間の美女との緊急手術で賢者モードも少し長くなるかもしれません。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...