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第8章・ざまぁ編。

第91話・正義の味方。

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「上だべぇ。上だべぇ。上って言ってるべぇ!こんな低い所を飛んでも意味ないべぇ!今の5倍の高さにさっさと上るだべぇ。」

(そんなところには何もないだろうに、やっぱり酔っ払っているな。)

 飛行船の操縦士はエッサの指示を黙って聞いていますが、燃料の事も考えると、流石に言う事を全て聞ける訳じゃありません。燃料が切れて墜落する前に対策を考えないといけません。

(さてと、最終ダンジョン浮遊城は出現モンスターレベル44~70と、オラのレベルが50ぐらいないと勝つのは難しいべぇ。この飛行船の乗客達を上手く使えば、ラスボスの所まで行けるはずだべぇ。)

 このゲームのラスボス『グロリア』は異界王を名乗り、エッサの暮らす世界を武力で侵略しようとします。資源の枯渇から、異世界は血みどろな資源の奪い奪われるという争いが何百年も続いていました。その争いで妻『ウルスラ』が死んだ事で、グロリアの侵略の決意が固まりました。

(ようするに、女房に反対されていたオラ達の世界への侵略作戦を、女房が死んだからやっているだけだべぇ。文明を発展させる為に自然を破壊し続けた自業自得だべぇ。でも、本当に悪いのはプロデューサーとシナリオ担当だべぇ!)

 マップデザインナーに頼めば、すぐに枯渇した資源も元通りに回復します。キャラクターデザインナーに頼めば、死んだ妻も生き返ります。キャラクター達を追い込んで追い込んで、最悪の選択を迫る悪の権化は株式会社○○○です。

「おい!何だアレは?空に城が浮いているのか?」

『ガヤガヤ、ガヤガヤ。』と船員と乗客達が、飛空船の小さな窓から見える、菱形の城を指差して騒いでいます。

「どうやら、目的地に到着したようだべぇ。おい!そこの防具を着た冒険者はオラに武器と防具を寄越すべぇ。早く寄越さないとオラの魔法を無差別に使うべぇよ?」

(ハッタリだ!魔法を使えば飛行船が墜落して、この男も死ぬ事になる。魔法は使えないだろう。)

 レベル31の冒険者の男はエッサを捕まえようと考えています。空に浮かぶ得体の知れない城に近づく危険と、目の前の武器も防具も装備していないエッサならば、間違いなくエッサを倒す方がリスクは低いです。

「時間切れだべぇ。天空より訪れし神々の雷!ライトニング一筋の落雷!」

ピィシャンダメージ400サァーーー乗客1人消滅。』

 エッサは容赦なく、乗客の1人を魔法で殺してしまいました。

(違うべぇ!威嚇魔法だべぇ!誰もいない床を狙ってたのに、あの魔法が勝手にコース変えたんだべぇ!)

「このテロリストも!人間の命を何だと思ってんだ!この人で無しが~!」

 今にも乗客と船員が一斉にエッサに襲い掛かりそうです。さすがにレベル1でも攻撃力は20~30ぐらいはあります。タコ殴りに遭えばおしまいです。

「………ふぅ~落ち着くべぇ。初回だから、特別に5秒待ってやったべぇ。早く寄越さないと1分以内に乗客が1人もいなくなるべぇよ?くっくくく。それとも全員殺してから奪った方がいいのかべぇ?」

 エッサはボキボキと両手の骨を鳴らして、乗客達に向かって歩き出しました。今にも虐殺を始めそうな感じです。

(早く寄越すべぇ!早く寄越さない殺さないといけない感じだべぇよ。もうHP回復薬1個でいいから早く寄越すべぇ。)

「済まない、みんな。俺にみんなの命を預けてくれ!俺の装備が欲しいなら、俺を殺して奪い取ってみろ!うおぉぉぉお~突撃開始!」

「「「うおぉぉぉお~1人はみんなの為に、みんなは1人の為に!」」」

 勇敢なる冒険者と船員、乗客達が玉砕覚悟で一斉に攻撃を始めました。

「やめるべぇ!話せば分かるべぇ!オラ達は仲間だべぇ!」

死ねぇ~剣の振り下ろし!」

ガァン床に直撃!』

(殺す気か緊急回避!)

 ブンブンと剣を振り回して、この冒険者は本気でエッサを殺すつもりです。

「この人殺しめ!兄さんの仇!」

 乗客の1人が拳を振り上げて、エッサに襲い掛かりました。

(人違いだべぇ。雑魚は邪魔だべぇ。)

ブン右ストレートパァン直撃サァーーー乗客1人消滅。』

(あっ!つい攻撃してしまったべぇ。でもアイツがオラを殴ろうとするから悪いんだべぇ。オラは全然悪くないべぇ。9対1エッサと乗客でアイツにも1割ぐらいは過失があるはずだべぇ。うんだぁ。間違いねぇ。)

 1人、2人、3人とレベル1程度の乗客は、エッサに1発殴られると消滅して行きます。さすが勝てない事が分かって来たようです。

「みんなは下がってくれ。おい!1対1で俺と勝負しろ!お前が勝てたら死んだ俺から装備を奪い取れ。ただし、船員と乗客には絶対に手を出さないと約束してくれ。頼む、この通りだ土下座!」

 エッサにも目の前の土下座する冒険者のように、夢と希望、愛と正義を信じて正義の味方をやっていた頃がありました。でも、もう終わった事です。この世界はレベルと強さが全てです。強ければ夢も希望も、愛も正義も手に入るのです。

「天空より訪れし神々の雷!ライトニング!」

『ピィシャン!』と土下座する冒険者の男に落雷が直撃しました。

「うぐぅ、この卑怯者め!」

「早く装備を寄越すべぇ。次はお前じゃなくて、乗客を狙うべぇよ。正義の味方のお前じゃ、オラには勝てないべぇよ。」

 冒険者は悔しくて涙を流しています。エッサに剣や防具を奪われました。何だか、霊峰ミルドのルナとのやり取りをエッサは思い出しているようです。

(ふっふふふ。このオラが今じゃ、ルナと同じ事をしているべぇ。力尽くで物を奪うのは全然楽しくないんだべぇな。)

 飛空船は目指す目的地に到着しました。凶悪なフロアモンスターが彷徨く通路の先に、ラスボスが待っているはずです。何とかラスボスに協力してもらい、エミィから奪われたものを全て取り返しましょう。



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