上 下
86 / 122
第7章・王都追放編。

第86話・2人の刺客。

しおりを挟む
『名前・ロックタ。職業・王都の双剣士。称号・王都の結婚したい元奴隷2位。レベル74。HP4420。MP1284。攻撃力326。魔力336。敏捷431。』

『名前・エッサ。職業・落ちぶれ魔法剣士。称号・ニートでミートの三段腹。王都のフルーツ牛乳早飲みチャンピオン。レベル28。HP1720。MP532。攻撃力138。魔力148。敏捷243。』

(勝てないのは馬鹿でも分かるべぇ。正面から攻撃しても、奇襲も意味ないべぇ。本気で戦っているフリをしながら、ショートカットで逃げられる場所まで移動するんだな。)

 エッサがロックタに勝てるのは、知識だけです。霊峰ミルドの地図はまだ頭の中に入っています。ロックタのような常人では、マップデザイナーが用意した道しか通ろうとしないはずです。世の中には裏道がある事を敗北という形で、ロックタに教えてやるつもりなのでしょう。

「大気を満たす重力の鎖よ!大地を穢す罪人を戒めよ!見えざる重力の牢獄!グラビティチェーン全てを拘束する重力の枷!」

(魔法詠唱?しかも知らない魔法ですね。確かにそれならばランク8の防具を着ていても、完全には防ぐ事は出来ないでしょうね。それでも今のエッサ様の力では、私のHPの10分の1を減らす事しか出来ないでしょう。)

 わざわざエッサの魔法詠唱が終わるまで、ロックタは待っていました。エッサの全力の攻撃を正面から受け止める事で、力の差をハッキリと分からせる狙いがあるようです。

グッグッグッグッグッロックタの身体に伸し掛かる重力!』

「うぐぅ!なるほど、この魔法は身体を重くする効果があるんですね。ふっふふふふ。これならば、敏捷だけならエッサ様の方が上になりますね。さすがはエッサ様です。これで少しはまともな戦いが出来そうですね。」

 ロックタは左右に持つ、二本の剣をエッサに向けて構えました。おそらくは遠距離からエッサが魔法と剣技を組み合わせて攻撃すると判断したのでしょう。魔法だろうが、剣技だろうが、全てを剣だけで迎撃するつもりです。

「はっはははは。その魔法はダメージだけじゃないべぇ。お前の敏捷を半分にするべぇよ。油断するからそうなるんだべぇ。」

 ロックタの敏捷は一時的に普段の2分の1にまで低下しました。ロックタの敏捷は現在216と、エッサの敏捷243に負けています。

「構いません。ちょうどいいハンデです。さあ、全力で攻撃してください。魔法でも剣でも好きに攻撃してください。全てを叩き潰して見せましょう。」

 ロックタの話は全然聞いていません。エッサはダッダッダッと重い腹を抱えて走っています。ロックタから距離を取りたいようです。遠距離というよりも、超遠距離になって行きます。どう見ても敵前逃亡です。

(戦うわけないべぇやぁ~。普通、逃げるに決まっているべぇ。阿保なんじゃないべぇか?)

「あっ!ちょっと待ってください!エッサ様、逃げたら駄目です!戻って来てください!」

 ロックタはエッサの狙いにようやく気付いたようですが、もう遅いです。追いかけようにも身体が重くて、上手く走れません。エッサの背中がどんどん小さくなって行きます。早く魔法の効果が切れないと、エッサに追いつく事が出来ません。

(駄目です!エッサ様に逃げられたら、エミィ様が追跡者を送るだけです。何とか死んだ事にさせてください。)

 ◆

(はっはははは。馬鹿奴隷め!オラが本気で奴隷如きと戦ってやると思ったべぇか?図に乗るんじゃないべぇ!)

 ズゥサァー、ズゥサァーと急斜面を器用に滑り降りて行きます。下手すればそのまま何百メートルも転げ落ちる事もありえます。危険ですが、命を賭けないと逃げる事は出来ません。

(あれぇ~?もしかしてチャンス到来ですか?)

 そんなエッサを王都から追跡していた人物がジッ~と観察していました。そうです、エッサがどんなに頑張っても最初から逃げる事が出来ないように、ある人物が追跡していました。

『名前・ルナ。職業・闇取引狩人。称号・プレイヤーキラー。貯金額1000万G突破。レベル73。HP3854。MP1257。攻撃力244。魔力256。敏捷546。』

ビューン、ドォス銀の矢発射・エッサに命中!』

「ぎゃぁぁぁ~~~、へぶぅ!痛たたたたぁ。だぁ、誰だべぇ!」

 崖を降りている途中に背中を激痛が襲います。そのまま崖をゴロゴロと転げ落ちると、何とか下の広い山道にぶつかって止まる事が出来ました。

 キョロキョロ!キョロキョロ!とエッサは周囲を見回しますが、敵は見つかりません。そして、背中には何もありません。このおかしな状況は前にも体験した事がありました。

(この痛みは前に体験した事があるべぇ。ルナだべぇな!あの敏捷馬鹿女もオラの命を狙っていたとなると、逃げるのは難しいべぇ。背に腹は変えられないべぇ。毒除けのお守りで命の取引きをするしかないべぇ。)








しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

死亡フラグだらけの悪役令嬢〜魔王の胃袋を掴めば回避できるって本当ですか?

きゃる
ファンタジー
 侯爵令嬢ヴィオネッタは、幼い日に自分が乙女ゲームの悪役令嬢であることに気がついた。死亡フラグを避けようと悪役令嬢に似つかわしくなくぽっちゃりしたものの、17歳のある日ゲームの通り断罪されてしまう。 「僕は醜い盗人を妃にするつもりはない。この婚約を破棄し、お前を魔の森に追放とする!」  盗人ってなんですか?  全く覚えがないのに、なぜ?  無実だと訴える彼女を、心優しいヒロインが救う……と、思ったら⁉︎ 「ふふ、せっかく醜く太ったのに、無駄になったわね。豚は豚らしく這いつくばっていればいいのよ。ゲームの世界に転生したのは、貴女だけではないわ」  かくしてぽっちゃり令嬢はヒロインの罠にはまり、家族からも見捨てられた。さらには魔界に迷い込み、魔王の前へ。「最期に言い残すことは?」「私、お役に立てます!」  魔界の食事は最悪で、控えめに言ってかなりマズい。お城の中もほこりっぽくて、気づけば激ヤセ。あとは料理と掃除を頑張って、生き残るだけ。  多くの魔族を味方につけたヴィオネッタは、魔王の心(胃袋?)もつかめるか? バッドエンドを回避して、満腹エンドにたどり着ける?  くせのある魔族や魔界の食材に大奮闘。  腹黒ヒロインと冷酷王子に大慌て。  元悪役令嬢の逆転なるか⁉︎ ※レシピ付き

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役令嬢の逆襲~バッドエンドからのスタート

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
重要ミッション!悪役令嬢になってバッドエンドを回避せよ! バッドエンドを迎えれば、ゲームの世界に閉じ込められる?!その上攻略キャラの好感度はマイナス100!バーチャルゲームの悪役令嬢は色々辛いよ <完結済みです>

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

異世界でもプログラム

北きつね
ファンタジー
 俺は、元プログラマ・・・違うな。社内の便利屋。火消し部隊を率いていた。  とあるシステムのデスマの最中に、SIer の不正が発覚。  火消しに奔走する日々。俺はどうやらシステムのカットオーバの日を見ることができなかったようだ。  転生先は、魔物も存在する、剣と魔法の世界。  魔法がをプログラムのように作り込むことができる。俺は、異世界でもプログラムを作ることができる! ---  こんな生涯をプログラマとして過ごした男が転生した世界が、魔法を”プログラム”する世界。  彼は、プログラムの知識を利用して、魔法を編み上げていく。 注)第七話+幕間2話は、現実世界の話で転生前です。IT業界の事が書かれています。   実際にあった話ではありません。”絶対”に違います。知り合いのIT業界の人に聞いたりしないでください。   第八話からが、一般的な転生ものになっています。テンプレ通りです。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめてになります。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...