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第6章・エミィ編。

第76話・命名権。

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 地下13階は炭鉱跡地です。迷路のような入り組んだ道を進んで行けば、最終的にはボスモンスターの部屋にたどり着く事が出来るように作られています。

『ドォス!』とポイズンスライムの、紫色の身体に剣が突き刺さりました。

「くそ!狭過ぎなんだよ!」

 今までのフロアよりも通路の天井も低く、横幅も狭いです。おそらくはポイズンスライムの、小柄な体型に有利なように作られたフロアなのでしょう。ギャランはチマチマと突き技で攻撃するのにイライラし始めました。

 この狭い場所では壁を気にして剣が思い切り振れないのね。次に来る時は最高級の短剣を用意しないと駄目ね。

「荒ぶる風よ!全てを切り裂く獰猛な刃よ!汝の敵を引き千切れ!トルネードショット!」

『ヒューン、ザシュザシュザシュ……!サァーーー。』

 レベル8で習得出来る風魔法『トルネードショット』の弾丸がポイズンスライムに命中しました。その身体を球状の風の刃で包み込むとミキサーのようにポイズンスライムの身体を切り刻んで行きました。

 ほぉ~、倒しやがった。ダメージ1000以上だな。あのおかしな剣が魔力を底上げしているようだな。

「へぇ~、意外だな。十分に攻撃役も出来るじゃねぇか!レベル13程度の僧侶にしては攻撃力が高過ぎる気がするが、まあ、どうでもいい。さっさとネバネバを全殺しにするぞ!」

 やっぱり脳筋ね。普通、僧侶が剣なんか装備しないわよ。杖でしょう。

 メインキャラクター用の特殊武器『ルドルフの剣+2』はここでも活躍します。攻撃力+0。魔力+185と変わった性能ですが、杖の効果を持つ剣だと思えば、さほど気にならないようです。

『名前・ポイズンミストドラゴン。種族・ドラゴン。レベル42。HP8710。 MP不明。攻撃力355。魔力340。敏捷271。』

「いい、ここのボスもドラゴンよ。でも、毒の霧で身体を覆い隠しているの。本体を攻撃するのは、毒の霧を私の状態回復魔法で弱体化した後よ。さっさの地竜のように、遠距離攻撃しても毒の霧が鎧替わりになるから、ダメージは与えられないと思った方がいいわよ。」

 ふぅ~、意外と本の内容を覚えるのも大変ね。まあ、私がいなくても、アイテムの毒消し薬を毒竜に投げつければ効果は同じなんだけどね。ここは私の必要性を感じてもらう為に教えないでおきましょう。

「おい、ちょっと来い!」

『ゴニョゴニョ。ゴニョゴニョ。』

 また、三人の男が輪になってヒソヒソ話を始めてしまいました。

「なぁ?お前、知ってたか?ポイズンミストドラゴンだっけ?そんなモンスター始めて聞いたぞ。」

「俺も始めて聞いたぞ!もしかして、あの女?新種のモンスターに勝手に名前つけたんじゃないのか!あのクソ女!俺達を馬鹿な脳筋奴隷だと思って舐めてるぞ。ここはハッキリとさせない駄目だな。」

 ボス戦を前に、ギャラン達はエミィにハッキリと言わなければならない事があります。三人は話し合いを終えて、作戦準備中のエミィに近づいて行きました。

「おい、女!調子乗ってんじゃねぇぞ!なに勝手に新種のモンスターにダサい名前付けてんだよ!あのドラゴンの名前は『ギャランドラゴン』にするぞ。この先に現れる新種のモンスターは全て俺達の名前を付けさせてもらうから、二度と変な名前を付けるんじゃねぇぞ!分かったな!」

「はぁ?どうでもいいわよ。それよりも私の詠唱後にすぐに遠距離攻撃出来る準備しておいてね!」

 フッ。足がガクガクじゃねぇか。ちょっと強く言い過ぎちゃったかな?しょうがねぇ、新種の雑魚モンスター1匹ぐらいは、あの女の名前を付けさせてやるか。

 ふぅ~、落ち着いてやれば大丈夫。状態回復魔法が効いている時間は30秒程度、効果が切れたらすぐに状態回復魔法を使わないといけないわ!脳筋達の攻撃力でも1回じゃ倒しきれないわね。噛まずに急いで詠唱するのよ。

「癒しの光、満ち溢れる時!汝の災いは解き放たれる!天と地の祝福を受けよ!キュア!さあ、今よ!」

 ギャランドラゴンが纏っていた毒の霧が、ボス部屋に満ちる光の雨が消し去って行きます。魔法を使用中はエミィは一歩も動けません。攻撃するなら今しかありません。

「斬空波!斬空波!斬空波!」

 ギャランとバロンの2人は一心不乱に斬空波を撃ち続けていました。でも、1人だけ余計な事を考えている奴隷がいました。

 ギャランがギャランドラゴンを倒すのはいいのだろうか?もしも、俺が『死ね死ね死ね!』と言いながら攻撃したら、『テメェー、俺に死んで欲しいのか!』とかキレられるんじゃないのか?

「アラン!なに突っ立ってんだ!攻撃しろ!攻撃!さっさとギャランドラゴンをぶっ殺すぞ!」

「あぁ、すぐに殺そう。」

 いいのかも知れない。よし、ギャランドラゴンを殺そう!

『ザァシュン!サァーーー。』

 状態回復魔法2回目で予定通りにギャランドラゴンを倒す事に成功しました。最後にトドメを刺したのはギャランでした。






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