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第一章・村人編

第5話 本物の人間

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 サササッと素早く茂みに隠れながら、エッサは少しずつ、歩く木に近付いて行きます。
 そして、フッと子供の頃に村の子供達と一緒に『達磨さんが転んだ』で遊んだ事を思い出しました。
 楽しかった思い出ですが今は楽しむ余裕はありません。

(おかしいべぇ? 何で誰もいないんだべぇ⁉︎ モンスターなんて教会が作った架空の生物だって、爺ちゃんが言ってたべぇ)

 エッサはその爺さんの言葉は思い出せても、顔と名前は思い出せません。
 子供の頃の記憶も断片的です。それはエッサだけでなく、村人全員です。
 この世界は何かがおかしくて、何かが足りません。

 ガサガサと木の葉を鳴らしながら、歩く木は宝箱が置いてある道とは、別の道に進んで行きました。
 エッサの存在にはまったく気づかなかったようです。
 エッサは歩く木の三メートルすぐ後ろに立っていました。

(本の通りにモンスターがいて、正面に立たなければ襲われなかったべぇ。この本の情報は正しいかもしれないべぇ。だども、それだけで全部を信じられるほどに、オラは田舎者じゃないんだべぇ!)

 ダッダッダッとエッサは宝箱を目指して走って行きます。
 本当にこの本が正しければ、条件に合う武器を手に持って、技の名前を叫べば、その技が使えます。
 剣など一度も握った事が無いエッサが、普通はそんな技を使う事は出来ません。

「嫌だべぇ、嫌だべぇ! オラは一生畑をクワで耕す為だけに作られた人間なんかじゃねぇ! オラは本物の人間だべぇ。自分の意思で動いて喋っているだべぇ。コントローラなんか知らないべぇ」

 エッサは本に書かれた情報を否定しながら、目的地の宝箱に走って行きます。
 額を流れる汗も心臓の鼓動も作り物なんかじゃないと否定しています。
 村の人間は笑いもすれば、怒りもします。悲しい時は涙を流します。
 そんな村人達や自分が数字の『0、1』の塊なんて信じられません。
 信じる訳にはいかないようです。

(父ちゃん、母ちゃん、ゴンゾウ、ハナコ、村人全員が生きている本物の人間なんだべぇ!)

 息を切らして、エッサは目的の場所に辿り着きました。
 この本の通りなら、右前方の茂みの中に宝箱が隠されています。

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 テクテクテクとエッサは疲れたのか、見たくないのか、ゆっくりと歩いて行きます。
 それでも宝箱が隠されている茂みに真っ直ぐに向かいます。
 ガサゴソ、ガサゴソと茂みを掻き分けて、宝箱を探します。

「んっ?」

 ペタと草とは違う冷たい感触が指先に伝わります。
 金属、木、とエッサは指先で触って、触っている物を確認しています。
 目を閉じて、決して見て確かめようとはしません。
 でも、そこに何かがあるのは間違いない事実です。

「ふぅー、ふぅー、落ち着くんだべぇ! あっははははっ、きっと誰かの悪いイタズラなんだべぇ」

 エッサは荒い呼吸を何とか整えると、目を開けて、両手でしっかりと茂みの中にある物を掴みました。
 そして、思い切って引き摺り出しました。
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