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第一章・村人編

第3話 モンスターなんて存在しない

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 表紙を捲るとすぐに、美しい装飾が施された長剣を左手持ち、白いウェディングドレスと、腰まで届く薄紫色の髪を持つ女神様のような女性の絵が載っていました。

「はああああっ、なんて美しい女神様だべぇ。村一番の美人の『エミィ』が雑草にしか見えなくなるべぇ」

 しばらくの間、エッサはドレスの女性の姿絵に心を奪われていました。
 ですが、ブゥンブゥンと頭を振りかぶって思いを断ち切りました。

「こんな綺麗な女神様が実在する訳がねぇ。だどもぉ……何でこの本に載っているんだべぇ?」

 この本がスパイの極秘資料ならば、女神様を載せる意味が分かりません。
 エッサは今まで一度も使った事がない脳味噌をフル回転させて考えます。
 ですが、今まで一度も考えるという行動をした事がありません。
 本当に今やっている行動が『考えている』なのかも分かりません。

「コントローラ? セーブ? レベル? 意味の分からない説明が続くべぇ。何で歩くのにコントローラを使わないといけないんだべぇ? 普通に歩いたら駄目なんだべかぁ?」

 歩き方から、ジャンプの仕方、武器の振り方と馬鹿馬鹿しい説明が続きます。
 エッサは口を塞いで笑うのを必死に堪えています。
 笑い声を聞かれて、スパイに見つかったら終わりです。
 どんなに可笑しな事が書かれていても、声を出して笑う事は我慢しないといけません。

「これは……魔法の使い方だべかぁ⁉︎ いやいや、そげな事がある訳がねぇ! 魔法なんて存在する訳がねぇ! やっぱりこの本は何処かの馬鹿が書いた妄想だべさぁ!」

 エッサは噂話で聞いた事があります。
 都の近くのダンジョンには、モンスターが無限に湧き出す洞窟やら建物があるらしいそうです。
 でも、モンスターなんて村人の誰一人として、一度も見た事も聞いた事もありません。
 村人達はモンスターは幽霊と同じ空想上の生き物だと信じています。

「そもそも、こんなに詳しいモンスターの情報が載っている本が、存在する訳がねぇ。現にオラが今いるこの『西の森』にも、本の通りならモンスターが五種類もいる事になるべえ。なのに村の誰も会った事がないべぇ。この本はおかしい。インチキ本だべぇ」

 エッサは怒って本を地面に叩きつけて、足でグリグリと踏ん付けます。
 でも、本の表紙には傷一つ、汚れ一つ付きません。凄く頑丈な本です。

「そっちがそのつもりなら、ビリビリに破いてやるべぇ! ぐぅぬぬぬぬぬぬッ! ハァハァ、破れないべぇ。本当に紙で出来ているだべかぁ?」

 本に馬鹿にされていると、怒ったエッサは力一杯、一ページだけを破ろうとしました。
 ですが、破れません。その辺に落ちている尖った石を拾って、紙に叩きつけても破れません。
 デタラメな情報が載った本かもしれませんが、不思議な力に守られた本でした。
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