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第18話 騎士団襲撃事件と追跡開始

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 外壁から出ると、清は騎士団を見張っていた場所に向かった。
 残念ながら居ないと思っていた人物がそこにいた。

「おい、キヨシ。何やってんだよ! 見張り中だぞ!」
「ト、トイレなんだな。お、お腹が痛いんだな」

 蹴られた腹が痛いのは事実だ。
 カイルも緊急事態なのか、かなりピリピリしている。

「何だよ、胃も弱いのかよ。冒険者なら腐りかけの食事ぐらい平気で食べろよ」
「と、突然来たんだな。よ、避けきれなかったんだな」
「ああ、そうかよ。もうトイレに行く余裕はねえからな。馬をいつでも出せるようにしていろよ」

 滅茶苦茶言っているが、早くも馬の出番がやって来たようだ。
 このまま一人で馬に乗って行ってほしいが、それは無理だろう。
「な、何かあったのかな?」と清が状況を聞いた。

「ああ、馬に乗った騎士団員が16人やって来た。きっと野盗の隠れ家が分かったんだ。予定通りに追いかけて、俺達も野盗を何人か倒すぞ。手柄を立てれば騎士団に入れそうだからな」

 怒られそうな予感しかしないが、ちょっと人数が多すぎる。
 16人だったら、コルの町の騎士団に所属する騎士団員の半数以上だ。
 個別で他の町に伝令に行ったり、集団で街道を包囲・封鎖しているはずなのに変だ。
 人員を回すなら、ここではない他の場所の方が良いだろう。


「いいか、静かにやれよ。騎士団の連中はいないが、冒険者は町にいる。やって来たら面倒だ」

 外にいるカイル達には分からないが、今、騎士団の中では緊急事態発生中だ。
 青色の騎士団の制服に身を包んだ男達が、武器を構えて、騎士団敷地内にある金庫や武器屋を狙っている。
 彼らの正体は野盗だ。手薄になった騎士団の金目の物を根こそぎ奪う作戦だ。

 もちろん騎士団内部に協力者がいないと、こんな大胆な作戦は実行できない。
「遅かったな」と金庫室に入って来た野盗達に、茶髪の男が笑みを浮かべて言った。
 セインだ。右手には血塗れの短剣、左手には金庫の鍵を持っている。
 床には倒れている血塗れの騎士団員と、ロープで縛られたクレアが座っている。

「何だ、作戦変更か? ベッドで寝ている予定だろ」
「そうだが、予定変更だ。聖女様の余計なお節介で、刺した傷が消えてしまった。このまま人質として誘拐してくれ。聖女様と一緒にな」
「何でもいい。さっさと金を貰って行くだけだ。お前達、さっさと馬に積み込め」
「言われなくても、パンツの中まで詰め込みますよ」

 セインは野盗達と親しげに話している。
 静かにしないといけないのに、「ガッハハハ~」と野盗達の品のない笑い声が上がっている。
 本物の騎士団員達は、今頃はセインが適当に描いた似顔絵の野盗二人を追っている。
 もうほとんど作戦は成功している。邪魔者が現れなければ、全てが上手くいく。


「お、出て来たぞ。クレアとアイツもいるな。キヨシ、馬を出せ。追いかけるぞ」
「わ、分かったんだな」

 騎士団の中で強盗事件が発生していたが、二人は気づかなかった。
 手を縛ったクレアと、二人乗りしているセインが馬を飛ばして出て来た。

「ブルルルン」
「キヨシ、早く登れよ! 見失うだろ!」
「む、無理なんだな。の、登れないんだな」
「ああ、クソ! 俺が踏み台になるから、さっさと登れ!」
「わ、分かったんだな」
「ふがあ!」

 人間踏み台は優しく踏んだ方がいい。
 黒馬をスケッチブックから出すのに成功したが、やっぱり清が自力で登れない。
 イラつくカイルが仕方なく、四つん這いになって踏み台になった。

「っ……鎧を着る暇もなかった。あとで着るしかねえな」

 あんなキラキラ鎧を着たら、一発で尾行がバレる。
 鎧だけじゃなく、鞍も付ける時間もなかったが、二人は黒馬に乗って尾行を開始した。
 これでクソ遅い馬だったら、カイルの怒りは限界を超えていただろう。
 黒馬は予想以上に速い。逆に追い越さないか心配になるぐらいだ。

「こっちはフォルクの町だな。2~3回しか行った事ねえけど、林業で儲かっているから、野盗になる必要ねえだろ。……もしかして森の中に隠れ家があるのか? いや、木こりがいるから無理か」

 清の後ろでカイルが騎士団の目的地をブツブツ予想している。
 フォルクの町は町所有の森を持っている。勝手に伐採したら罪になる。
 野盗騎士団は南東にある街道を進んでいる。この先には森と川と町がある。
 潜伏するのに必要な食糧は、森の動物と川の水がある。
 隠れ家に向いていると言えば向いているが、木こり達が森に頻繁に仕事に来る。
 怪しい人間を森で見かければ、違法伐採者として斧で袋叩きに遭わされる。

「やっぱり森に向かうのか……もしかして木こりが野盗なのか?」

 野盗達は街道を外れると、フォルクの町が所有するクテツの森に向かっている。
 クテツは杉に似た木で、町が植林して先祖代々大事に育てている。

 二人は黒馬に乗ったまま、真っ直ぐに伸びる鉛筆ような木の森に入った。
 木にぶつからないように注意だが、森の中には伐採した木を運ぶ為の道がある。
 馬が三頭横に並んで走れる広めの道だ。
 尾行に気づいている野盗達に待ち伏せされない限り、落馬の心配はない。

「ヒヒーン——‼︎」
「のわぁ⁉︎」「だなぁ⁉︎」

 もちろん気づかれているに決まっている。道の両側から六本の矢が飛んできた。
 そのうち三本の矢が黒馬の首、腹に突き刺さった。黒馬は走っている体勢のまま、派手に地面に転倒した。
 カイルと清も馬の背から投げ出されて、黒馬と同じように派手に転倒した。

「追っ手は二人だけか。完璧な作戦っていうのは、やっぱりなさそうだな」
「上手くいかないのが人生だからな。まあ、上手くいかなかったのは、コイツらの人生だがな」

 木の陰から弓を構えた六人の男達が現れた。
 騎士団の青い制服ではなく、木こりが着るような長袖長ズボンの茶系の服を着ている。

「うぐぐぐっ、く、くそ……油断した。キヨシ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫なんだな。リュ、リュックサックがクッションになったんだな」

 リュックサックの中にはスケッチブックしか入っていない。クッションになってくれたのは身体の脂肪だ。
 まあ、そんな事はどうでもいい話だ。二人は無事なようだが、それも残り僅かな時間だ。
 弓矢の男達が近づいてくる。髪を綺麗に油で固めている。髭を生やしている者は綺麗に切り揃えている。
 身なりは野盗というよりも、上品な木こりや職人だ。
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