上 下
38 / 50

第38話 人型戦闘機ファイヤーボール・ライアン

しおりを挟む
 北東を目指して進んでいると、髭モジャを巻いて来たパトリが帰って来た。
 ケイト達が駆け寄って、パトリを心配している。
 やっぱり、私とは対応が全然違うな。

「お帰り、パトリ。大丈夫だった?」
「楽勝だった。頭を引き千切りながら、少し遠くまで捨てて来たよ。しばらくは大丈夫だと思う」
「おお! 流石はパトリだね。今度は私が手足を引き千切って、遠くに投げ捨ててみるね!」
「その時は全部別々の方向に投げた方が良いかも。くっ付きにくいと思うから」
「なるほど、別方向だね。だったら、あんまりバラバラには出来ないね。上半身と下半身でやってみようかな?」

 パトリは見た目と違って、身体能力が高い。
 灰色魔石のリングを使って、あの細腕で髭モジャの頭は引き千切れない。
 そんなパトリに触発されたのか、ミアが両手で空気を掴むと、その場でグルグルと回り始めた。
 エアハンマー投げで、メタルスライムを遠くに投げる練習をするようだ。
 私の身体を練習台に使わないなら、いくらでもやっていいぞ。

「あうっ!」
「はい、そこまで。メタルスライムは問題なさそうね。これから白黒を倒しに行くけど、パトリは作戦とかある? 何でもいいから、良さそうなものがあったら言っていいよ」

 ミアとパトリが盛り上がっている途中なのに、ケイトがミアの両手を掴んで止めた。
 投げさせてから止めればいいのに、もっと重要な話がしたいようだ。
 バイアスを倒す作戦がないかと、パトリに聞いている。
 やっぱり行き当たりばったりの作戦に、不安を感じているんじゃないだろうか。
 私は不安で不安で仕方がない。

「作戦はないけど、この先に五人いるよ。ギルの分の白魔石が手に入るから、戦力アップ出来る」

 ケイトの質問にパトリは前方を真っ直ぐに指差している。
 安全な場所に逃げている訳じゃなかったようだ。
 
「確かに囮役のジジイが簡単にやられちゃうと、ジジイが連れて行った奴らが、すぐに戻って来るから心配だったのよね。じゃあ、そいつらを襲ってから白黒の所に行きましょう。良かったわね。助かるかもしれないわよ」

 ケイトが私の方を見て、微笑みながら言った。
 自分の心配ばかりせずに、私の心配を少しはしろ。
 そして、少しはまともな作戦を考えろ。

「何が良かっただ。最初から私を殺す予定の作戦を考えるな」
「別にいいでしょう。あんたはもう人生楽しんで、やり残した事ないんだから」
「まだまだあるに決まっている。勝手に私の人生をバットエンドで終わらせようとするな」
「はいはい。じゃあ、頑張って生き延びてくださいねぇ~」
「はぁっー?」

 相変わらずムカつく娘だな。親を小馬鹿にして楽しいのか。
 全ての元凶は、お前が変な男達にナンパされた所為なんだからな。
 
 ♢

 パトリに案内されて、また五人の若者を殺害した。
 私はリーダー格が嵌めていたリングから白魔石を外して、自分のリングに嵌めさせてもらった。
 これで私の死亡率は少しだけ下がった。
 武器の分はバイアスの周囲にいる仲間から奪わないといけない。
 でも、それは正直無理だと思う。
 到着したバイアスの夜営地には、予想外の物が置いてあった。

「あれ? 戦ってないね。とりあえず奇襲する?」
「それもいいけど、減ったら援軍が来るだけよ。下手に警戒されるのは厄介だし、やるなら一気にやらないと」

 ランプの灯りを消して、ミアとケイトが休憩中の男達を見ている。
 家を松明代わりに燃やしている夜営地は、かなり明るい。
 十五台程の浮遊式バイクに、黒い大きなキャンピングカーが一台駐まっている。
 だが、これらはどうでもいい。問題は地面に立てられている、あれだ。

 身長二メートル三十センチ、分厚い白黒の金属の肉体を持つ人形が敷物の虎のように広がっている。
 間違いない。あれは警察が使用する治安維持用兵器、【人型戦闘機FR(ファイヤーボール・ライアン)】だ。
 背中の六枚羽根で高速飛行が可能で、両腕の先端にある砲口から魔石のエネルギー弾を発射できる。

 あいつら戦争でもするつもりか?
 国際法違反、廃都保護条約違反、軍事兵器所持違反、明らかに国家反逆罪だ。
 あんなのを使用しているのがバレたら、全員まとめて死刑になるぞ。

「白黒だけを気付かれずに倒せばいいじゃないかな? 狙撃してみようか?」
「なるほど。流石はパトリだね。やっちゃえ、やっちゃえ!」
「待て待て! あれが見えないのか?」

 冷静で博識な私と違い、女達は馬鹿な事を言っている。
 人型戦闘機を指差して、無知な連中に教えてやった。
 少しは相手の戦力を見てからものを言え。
 人型戦闘機FRが五機もあるんだぞ。
 あれを使えば、ティラノサウルス程度なら真っ向勝負で倒せる兵器なんだぞ。

「あの硬そうな寝袋がどうかしたの?」

 寝袋⁉︎ あんな寝袋があったとして、誰も使わない。
 猫娘にはあれが寝袋に見えるようだ。
 今すぐに図書館に行って、手当たり次第、図鑑を借りて来い。

「違う。あれは寝袋じゃなくて、戦闘兵器だ。使用する魔石の質と量次第で、ティラノサウルス程度の力を数十分は使える危険な代物なんだぞ」
「へぇー、そうなんだ。そんなのがあるんだね」
「何でそんな事知ってんのよ? あんた、キモいわね。普通の人はそんな事知らないのよ」

 関心しているミアと違って、ケイトは嫌そうな顔を私に向けている。
 ハッキリ言えば、私の知識は普通レベルだ。
 つまり私が知っている事を知らない時点で、自分は馬鹿だと証明しているんだぞ。
 
「私の仕事は営業だぞ。警察、病院、役所は大事な取引先であり、絶対に倒産しない金蔓なんだ。取り扱っている高額商品の名前は知っている」
「じゃあ、さっさと弱点教えてよ。戦えないでしょう」

 はいい? 人をキモオタ扱いして、今度はタダで教えろとは都合がいいな。
 それが教えてほしい人間の態度なのか?
 私は都合のいい女でも、都合のいい親父でもないんだからな。
 教えてほしいなら土下座しろ、そう言おうとした。

「あれの弱点は簡単だよ。人が乗らないと動かせないから、乗ろうとする人を倒せば問題ないよ」

 でも、私以外にも人型戦闘機FRを知っている人間がいた。
 パトリが私の代わりに無償で話し出した。

「なるほど。運転手がいないと車も動かないもんね」
「確かに言われてみればそうね。パトリ、他にはないの?」

 そんなの見れば、誰でも分かる。いちいち驚くな。
 ついでに私達が乗り込んで奪っていいぞ。
 もちろん、国家反逆罪で死刑になるから、やりたいなら一人でやるんだぞ。

「あとは乗られてしまった後だけど、壊せるのは背中の羽根と両手の砲口ぐらいかな。砲口を壊せば、操縦者の腕が見えるよ。あとは腕のリングを破壊すれば無力化できるから」
「へぇー、結構簡単に倒せそうね。銃以外にもパトリは色々知っているのね」
「偶然、映画で見たから知っているだけだよ。映画の名前は忘れちゃったけど」
「うーん、それは残念。思い出したら教えてね。見てみたいから」
「うん、頑張って思い出してみる」
「さあ、弱点も分かったし、メタルスライムが現れたら襲撃するわよ」
「「おお!」」

 ちょっと待て! ちょっと待て! 異常に詳し過ぎる!
 馬鹿二人は騙されても、私は騙されないぞ。
 パトリ、お前……あっち側(WB)の人間だろう?
 前に絶対に警察が乗っている人型戦闘機を攻撃しただろう。

「じゃあ、新しい作戦が決まったわよ。ジジイはあれを着て、あいつらを引き連れて行って。顔が見られないし、頑丈だし最高に安全な囮役よ。良かったわね」

 パトリの経歴を心配する私に、またケイトが思い付きの作戦を言ってきた。
 いい加減にしろよ。学習能力がないのか。

「巫山戯るな。あんなの着たら国家反逆罪で死刑になる。社会的に抹殺されてしまうわ!」
「大丈夫よ。私達、口堅いから誰にも言わないから」
「そうそう。絶対に言わないよ」
「そういう問題じゃない。バレなきゃ何をやってもいい訳じゃないんだぞ!」

 ゴリッ。

「おぅっ……」
「ギル、うるさいよ。操縦できるのギルしかいないんだから、乗るのと黙るのどっちがいいのか決めて」

 いきなり後頭部に硬くて冷たい感触を押し付けられた。
 これだけで何をされているのか分かってしまった。
 やっぱり、あっち側の人間じゃないか。
 銃口をグリグリと押し付けながら、パトリが聞いてきた。
 普通は黙るを選びたいけど、そっちを選んだら、永遠に黙らされてしまいそうだ。

「喜んで乗らせてもらいます」

 私はまた、暴力と脅迫に屈する事にした。

 ♢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】異世界アイドル事務所〜アナタの才能、発掘します!〜

成瀬リヅ
ファンタジー
「願わくば、来世で彼女をトップアイドルに……」  そう思いながら死んだアイドルプロデューサーの俺・小野神太は、気付けば担当アイドルと共に多種族の住む異世界へ転生していた!  どうやら転生を担当した者によれば、異世界で”トップアイドルになれるだけの価値”を示すことができれば生き返らせてくれるらしい。  加えて”アイドル能力鑑定チート”なるものも手に入れていた俺は、出会う女性がアイドルに向いているかどうかもスグに分かる!なら異世界で優秀なアイドルでも集めて、大手異世界アイドル事務所でも作って成り上がるか! ———————— ・第1章(7万字弱程度)まで更新します。それ以降は未定です。 ・3/24〜HOT男性向けランキング30位以内ランクイン、ありがとうございます!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー
ファンタジー
「あぁ、異世界転生したいなぁ、異世界召喚とかトリップでもいいけど…」  いつからだろう、こんな夢物語を本気で願うようになったのは。  いつからだろう、現実と向き合うのをやめたのは。  いつからだろう、現実を味気なく感じたのは。  いつからだろう、リアルで生きていくことに飽きたのは。  働きたくない男が、働かなくてもいい環境に置かれていくお話。  ※他サイトでも投稿しています。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

処理中です...