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第32話 新リーダー・パーカー

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 バイアスから分かれると私はケイト達の元に向かった。
 これからすぐに仕事らしいけど、アビリティリングも武器も無い。
 しかも、三日も寝ていたと聞いて、お腹が空いてきた。
 出発を一時間後ぐらいに出来ないだろうか。

「あっ、パパ! 良かったぁ~。どこも痛くない?」
「な、何だ⁉︎ ど、ど、どうした⁉︎」

 私に気づいたのか、ケイトが可愛らしい声と満面の笑みを浮かべて走ってきた。
 身体を心配そうにあっちこっち触って、怪我がないか調べている。
 ゾワゾワと背中に凄まじい悪寒が走った。
 非常に不気味で気持ち悪い。
 殴られ過ぎて、頭がおかしくなったんじゃないのか。

「どうしたもこうしたもないよ。ケイトはずっ~~~~~と、ギルっちの心配してたんだよ」
「そうだよ、パパ。パパが死にそうだったから、心配してたんだよ」
「お願い、私のパパを殺さないでぇ~! 何でもするから、パパを助けてくださいぃ~ってお願いしてたんだよ」
「もぉ~、ミアの馬鹿! 私、そんな風に頼んでないよぉ~」

 私は今のお前が心配だ。
 パパなんて思ってないだろうし、ジジイだと思っているだろう。
 町に帰ったら、大きな病院に緊急入院させないと手遅れになるぞ。

「おい、何やってんだよ! モタモタしてっと、そのジジイ、またボコるぞ!」
「す、すみません! すぐに行きます! さあ、パパ。早く行かないと!」
「あ、ああっ……」

 見覚えのある赤パーカーにスキンヘッドの男が怒鳴ってきた。
 左手に持ったショットガンを左肩に担いでいる。
 ケイトがペコペコと頭を下げて謝ると、赤パーカーの元に私を連れていく。
 かなり酷い目に遭わされたようだ。
 いつもの強気な態度が嘘のような低姿勢になっている。
 どうやったのか、教えてほしいな。
 もしかして、ソックリさんでも用意したのか?

「ようぉ~、ジジイ。また会ったな。俺の名前を覚えているか?」
「すみません。覚えてないです」

 スキンヘッドが綺麗な白い前歯を見せながら、ニヤニヤと笑いながら言ってきた。
 最近折られた前歯は新しい歯に変えたようだ。
 口臭も無くなったようだし、良い歯医者に出会えたようだ。

「まあ、馬鹿そうだから仕方ねぇな。いいか! 一度だけ教えてやる。お前の足りない頭にしっかりと刻み込め。忘れたら、お前の右腕にナイフで刻み込んでやるからな」

 急いでいるんだったら、さっさと言えよ。
 スキンヘッドはコツコツ、コツコツとしつこいぐらいに胸を小突きながら言ってくる。
 もしかして、モールス信号で教えているんじゃないのか?

「俺様はパーカー様だ。お前達四人は俺の部下で奴隷だ。死ねと言われたら、死ね。分かったら、三回回ってブーブー鳴け。この豚共が」

 赤パーカーを着ているパーカーか。とりあえず名前は覚えた。
 何を言っているのか分からないけど、馬鹿を相手にするのが時間の無駄なのは分かる。
 四人でタイミングを合わせて、三回回ってから鳴いてやった。
 
「「「ブーブー」」」「グゥグゥ」
「ひぃひひひひ! そうだ、それでいい。ほら、豚共。さっさと歩け。急いでんだから、四つん這いになって歩くんじゃねぇぞ!」

 誰か一人、小さな反抗をしたようだが、気づかれなかったようだ。
 上機嫌でパーカーは笑いながら、住宅街にさっさと歩けと銃口を向けた。
 明らかに調子に乗っている。
 それでも、上司や上官の命令は絶対だ。
 五人で住宅街に向かって歩き出した。

 ♢

「ハァ、ハァ、ハァ……兄さん、あんたの装備だろ! 持って来たぜ!」

 幅広い道路を歩いていると、パーカーと一緒にいた痩せ細ったノッポの男が走って来た。
 忘れ物があると言って、出発前に離れた男だ。
 黒の汚いロングヘアに、白の網目模様が入った赤のバンダナを巻いている。
 右手には金色のアビリティリング、左手には剣と銃を持っている。
 確かに全部私の武器だ。

「いいのか?」

 私としては武器はあった方がいい。でも、信用のし過ぎだ。
 争っていた敵に武器を渡したら、反抗される危険がある。
 私はそこまで信用していい人間じゃないぞ。
 
「殺すつもりなら、最初から殺している。生きているなら、仕事してくれ」
「……悪いな。使わせてもらうぜ」

 仕事道具なら仕方ないな。
 バンダナから遠慮せずに武器とリングを受け取った。
 これで囮役として十分に活躍できそうだ。

「俺はロミオ。兄さんの戦い見ていて、シビれたぜ」
「ジジイがリンチされる姿にシビれるなんて、変態だな。俺はギルバートだ。よろしくな、ブラザー」

 バンダナがロミオと名乗った後に、右拳を軽く突き出してきた。
 こっちも右拳を突き出して、コツンと拳と拳を軽く突き合わせた。
 昨日の敵は今日の友だ。同じ仕事の仲間なら仲良くしないとな。

「じゃあ、ギルだな。ギル、俺の事はロミオと呼んでくれよ」
「そのままじゃねぇか」
「「イェーイ!」」

 コツンとまたまた拳を合わせた。
 パーカーとは違い、コイツとは仲良く出来そうだ。
 今度、良いシャンプーを紹介してやらないとな。

「何、豚と仲良くしてんだよ? おい、ジジイ。俺の許可なく、喋るんじゃねぇよ」
「すみませんでした。喋っていいでしょうか?」
「はぁっ? 駄目に決まってだろうが。黙ってろ!」
 
 銃口を真っ直ぐに向けて、パーカーが睨みつけながら言ってきた。
 その距離から撃てば、隣にいるロミオに当たると分かっているのだろうか?
 きっと分かっていないな。
 パーカーはひと通り文句を言うと、前を向いて、またケイト達の背中に銃口を向けた。

「気にするな。あいつは頭のネジが三本も四本も抜け落ちてんだ」

 それは最初から分かっている。
 パトリを歩かせている時点でおかしい。
 上空から偵察させた方が絶対に良い。
 でも、黙っていないといけない。
 刺激し過ぎると馬鹿だから、本当に撃ちそうだ。

「よし、到着したな。ジジイと娘と猫は剣を持って、雑草刈りを始めろ。休むんじゃねぇぞ」

 小一時間程、黙って歩き続けていると、目的地の住宅街に到着したようだ。
 パーカー様が言うので間違いないだろう。
 住宅街は危険地帯なので、ビジネス街と違って、手付かずの状態だ。
 背の高い草が胸の位置まで生えている。
 同じような形と大きさの二階建ての建物が、植物に覆われた状態で並んでいる。
 平坦な森の中に、空から家を落としていったような感じだな。

「あいつ、超ムカつく! ブッ飛ばしたいよぉー!」
「駄目よ。仕事が終わるまでは言う事聞かないと」
「オラオラ、口じゃなくて、手を動かせ! 手を動かすんだよ! 俺が歩きやすいように草を刈れよ。つまずいたら、脳天撃ち抜くからな」
「むぅー、あいつこそ、無駄口の動かし過ぎたよ。この剣、突き刺して黙らせればいいんだよ」

 背後に立つパーカーが銃口を向けって、大声で命令してくる。
 私、ケイト、ミアの三人が剣を振って、横幅六メートル程の道路の草刈りをしていく。
 これに何の意味があるのか分からない。
 ミアは今すぐにでも、パーカーの首を刈りたそうだが、それは阻止しないといけない。
 仕事は家に帰るまで終わりじゃない。

「いいか、お前らは餌だ。その馬鹿な頭で理解しろ。メタルスライムが音に気づいて必ずやって来る。やって来るまで休むんじゃねぇぞ」
「そんなの無理だし。疲れたら休むし」
「大丈夫だって。夕方には終わるから。そこまで頑張ろう」

 間違いない。あいつは馬鹿だ。
 音に気づいてやって来るなら、銃を撃てばいい。
 でも、黙ってやらないといけない。
 パーカー様には、常人には理解出来ない凄い考えがあるんだから、これでいいんだ。

 ♢
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