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第28話 荒野の暴走

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「おおぉぉ、頭が痛いぃ~」

 キャンピングカーを運転しながら、私は頭を押さえた。
 町を午前九時頃に出発して、今は廃都に向かって荒野を走らせている。
 二日酔いの人間に車を運転させるなんて、正気じゃない。

「はい、水。次に車の屋根で寝ていたら、そのまま乗せて走るから」
「はぁっ? 私が屋根に? ソファーに寝てたじゃないか」

 ケイトが水の入ったコップを持って来て、助手席に座った。
 受け取ったコップの水を一気にゴクゴクと飲み干していく。
 町中は運転してくれたんだから、その後も運転してくれてもいいだろうに。

「覚えてないならいいから。とりあえず、酒禁止。分かった?」
「……分かった」

 理不尽な要求に嫌だと言えない、それが私だ。
 どうせ、隠れて飲めば分からない。何も問題ない。

「それにしても、多いな。何台目だ?」
「この辺は障害物がないから、馬鹿みたいに飛ばしたいんじゃないの?」

 また新幹線のような形の先端が尖った浮遊式バイクが、車を追い越していった。
 覚えているだけで、七台ぐらいに追い越された。

「イェーイ! イェーイ!」
「ヒャャャャャホォーホォー!」

 二人乗りのバイクが車の前で蛇行運転しながら、馬鹿みたいな奇声を上げている。
 後ろに乗っている男なんか左手の中指を立てている。
 随分と行儀の良い乗り方だな。どこで習ったんだ?

「ああいうのは無視していいから。昨日の馬鹿達と一緒で相手にするだけ無駄よ」
「そのぐらい分かってる。打つけたら、馬鹿みたいな治療費を請求されそうだからな」
「そうそう、そういう事よ。一応カメラで録画しているから、あっちが打つけたら絶対に捕まえて。ボコるから」
「へぇーい」

 助手席に座るケイトは言葉だけは冷静に対応するつもりのようだ。
 だが、その顔は明らかに轢き殺したいという感じにしか見えない。
 昨日の今日でイライラがどんどん蓄積している。
 その結果、私への風当たりが強くなる。

「イェーイ! イェーイ!」
「ヒャャャャャホォーホォー!」

 それにしても、しつこい。
 イェーイはまだ我慢できる。問題なのは、もう一つの方だ。
 二日酔いの頭にガンガン響いてくる。
 コツンと当てて、横転させてもいいんじゃないのか?
 むしろ、当てて欲しいから、車の前で蛇行運転しているんじゃないのか?
 当ててくれるのを待っているんじゃないのか?

「ちょっと、スピード落とさないと当たるわよ」
「分かってる」
 
 少し笑いながら、ケイトが言ってきた。
 七メートル程の車間距離がどんどん縮まっていく。
 アクセルを踏んで、更に縮めていく。

「ちょっと、打つかるから、やめて」
「分かってる。分かってる」
 
 車間距離は六十センチ。ケイトは声も表情も落ち着いたものだ。
 バイクの後ろに乗っている男が身体を捻って、必死に両手の手のひらを見せてくる。
 何か書いてあるのかもしれない。もう少し近づかないといけないな。

 ガァツン!

「「あっ、あっ、あぁ~~~、ぎゃあああああ‼︎」」

 イェ~~~~~イ!
 突然、目の前のバイクが暴れ馬のようにデタラメに走り出した。
 制御不能のバイクが地面を激しく横転しながら姿を消してしまった。
 きっと操縦ミスの単独事故だな。

「あぁー、ほら、打つかったじゃない。気を付けなさいよ。車の修理代はタダじゃないんだから」
「大丈夫。金なら、すぐに手に入るから問題ない。障害物が消えたから、さっさと飛ばすぞ」

 ケイトは車の凹みが気になるようだが、新車を買えば文句はないだろう。
 邪魔者が消えて静かになったので、スッキリした頭で車を走らせた。

 ♢

 そう数時間前までの状況は非常に良かった。
 だが、現在は非常にマズイ状況だ。

「オラッー! 出て来いやぁー!」
「早く出て来いやぁー! ブチ殺すぞぉー!」

 荒野の真ん中に無理矢理停車させられると、四十台以上のバイカー集団に囲まれてしまった。
 バイク以外にも、巨大なトレーラー二台、キャンピングカーが十二台見える。
 ざっと見た感じ人数は百六十人以上はいる。

「おい、おっさん。昨日の続きだ。出て来いよ」

 そして、一番ヤバイのが、昨日のグラサン兄貴がフロントガラスをコツコツ叩いて、私を呼んでいる。
 どうやら、相当気にいられてしまったようだ。ご指名されてしまった。

「にゃはははは。こんなに早くボコボコに出来るチャンスがやって来るなんて、ツイているにゃー」
「そうね。ちょうどいいから、昨日の借りを利子をたっぷり付けて返さないとね」
「うん、絶好のチャンスだね。町に一人も生きて帰さなければ、問題なく事故で処理できるから」

 ミアは灰色にメッキしたオリハルコンのグローブとブーツに灰色魔石。
 ケイトは銀色のオリハルコンの剣に灰色魔石。
 パトリは装弾数十七発の銀色のオリハルコンの銃に白魔石。
 三人共、完全武装で全面戦争したいようだけど、話し合いで穏便に片付けられるはずだ。
 相手の戦力が分からないのに、戦うのはマズイ。戦うのは相手が弱い時だけだ。

「ちょっと待て! まずは私が話をするから、ちょっと待ているんだぞ!」

 血の気の多い連中には任せられない。
 三人を無理矢理にソファーに座らせると、扉を開けて外に出た。
 集まって来た連中のアビリティリングを見れば、ある程度の戦力は分かる。
 
「おっさん、昨日の今日で町から出るなんて馬鹿だな。ファクトリーにあった、あんたの車は調べてたんだ。気づかれないとでも思ったのか?」
「何のようだ? これから仕事で忙しいんだ。用がないなら、邪魔だからどこか行け!」

 車が知られようと顔が知られようと関係ない。強気な態度で追い払う。
 こういう群れる奴らは、弱気な態度を見せた瞬間に集団で噛み付いてくるからな。

「何だと、テメェー! ブッ殺すぞぉー!」

 グラサンに生意気な口を利いたのが気に入らなかったようだ。
 黒の革ジャンを着た金髪ドレッドヘアの男が、銃を右手に持って、銃口を向けてやって来た。

「テメェーがうるせいぇー! 黙れぇー! 頭が痛むんだよぉー!」
「はっぶふぅぐっ‼︎」

 ドパァン‼︎
 銃は危ないので撃たれる前に、右パンチを素早くドレッドへアの顔面に打ち込んだ。
 ドレッドヘアが鼻血を吹き出しながら、茶色い硬い地面に大の字にぶっ倒れていく。
「おおっ」と集団の一部が声を漏らして、ビビっている。

「次は誰だ! 誰が死にたい! 死にたい奴から掛かって来い!」

 少し静かになった集団に向かって、握った右拳を力強く見せつける。
 この程度でコイツらが引き下がってくれるとは到底思えない。
 それでも、少しは落ち着いて話は聞けるようにはなっただろう。

「おっさん、これで五人目だ。責任取れるんだろうな?」
「責任だと? 銃を向けて来たんだ。正当防衛に決まっている。責任なら、こんな危険な手下を雇っている、あんたが取れ!」

 グラサンが低い声で脅してきた。
 こんな卑劣な奴らに取るような責任はない。
 どうせ、金、女、魔石を全部寄越せと言って、私を死ぬまで暴行するだけだ。
 そんな目に遭うつもりはない。このボスっぽいグラサン兄貴を人質にして逃げてやる。

「手下? 何を言っている。俺は下っ端の一人だ。あの人がWBのトップだ」

 グラサンの人差し指が真っ直ぐにある人物に向いている。指を頼りにボスを見つけた。
 そこには灰色の髪に右側が白色、左側が黒色の革ジャンを着ている長身の男が立っていた。
 こんなに偉そうにしているのに下っ端なのか? だったら偉そうにするなよ!

 ♢
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