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第27話 複合商業施設【プラザ】
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「まさかとは思うが、私にヤバイ組織の連中を始末させたんじゃないだろうな?」
イケメン店員を睨み付けながら聞いてみた。
もしもそうなら、急いでこの町から逃げないといけない。
殺し屋に始末されてしまう。
「違いますよ。あいつらは【WB(ダブルビー)】という名のバウンティハンターの集まりです」
「ダブルビー? 聞いた事がないな」
この仕事を始めたばかりの私なら当然かもしれないが、それでも、有名なら一回ぐらいは聞いているはずだ。
良い事でも悪い事でもニュースになっていないなら、大した集まりじゃないだろう。
「WBはワールドバウンティハンターの略です。色々な廃都を回って、仲間を集めたり、金を荒稼ぎしている連中ですよ。五十人ぐらいはいると思いますよ」
五十人か。大型のバスの乗客と同じぐらいの人数だな。
多いのか、少ないのか、微妙な人数だ。
「ようするに、アマチュアサッカーチームのようなものか。遠征先で試合して、飲んで暴れて、ハメを外して、留置所で目を覚ます、お馬鹿な集団なんだな」
確かに出張先と旅行先はテンションが上がってしまう。気持ちはよく分かる。
解放感があるし、それに旅の恥は掻き捨てという言葉もあるぐらいだ。
自分の事を知っている人が誰もいない場所なら、失敗しても笑われるのは一時だけだ。
もしも、知り合いの前で失敗してしまったら、会うたびに、それをネタに笑われてしまう。
「遠征ですか。まあ、似たようなものだと思います。奴ら二ヶ月前にやって来たから、そろそろ町から出て行ってくれると助かるんですけどね」
ふぅーん、なるほどね。だとしたら、下手に接触しなければ問題なさそうだな。
町中で襲って来ないだろうし、こっちは白魔石のリングを全員が装備している。
五十人規模の弱小灰色魔石チームなら、恐れる必要もない。
んっ? いやいや、待てよ。
そういえば、あのグラサンが白魔石を嵌めていた。
あれはどういう事だ? ハッタリ用に白色に塗った偽物の魔石でも嵌めてたのか?
流石にそれはないだろう。私にハッタリが通用しなかったら、殴られて破裂していた。
「ちょっといいか?」
「はい、何でしょうか?」
ちょっと気になる事があったので、イケメン店員を呼んでみた。
こういうのは直接聞いた方が早そうだ。
「あのグラサンは何を買ったんだ? 魔石のショーケースを見ていたようだけど」
「ああ、炎の魔石と白魔石を買って行きましたよ。あいつら金だけはあるんですよね」
なるほど、お前達が原因だったか。お陰でグラサンに逃げられた。
まあ、商売だから仕方ないのは分かる。
悪い奴でも、ムカつく奴でも、金を払えばお客様だからな。
しかも、あの三十万ドルの火が出る魔石を買ってくれるんだ。
私だって、お近づきになりたい、というか、お近づきにはなっているな。
悪い意味で。
♢
オリハルコンを換金してもらい、カスタムショップで武器を新調した私達は買い物に出発した。
道路は灰色で歩道は真っ白だ。
白、青、赤、茶などの正方形の建物が並んだり、積み上がっている。
町中は街路樹や芝生と緑も多いが、廃都と違って生き生きしている。
まさに天国と地獄と言ってもいいだろう。
「あぁー、もぉー! 武器代にお金かかり過ぎなのよ!」
「まあまあまあ。必要経費だから仕方ないよぉ~」
「新しい服、買おうと思ったのに!」
「安いのなら買えるよぉ~」
L字ソファーに座っているケイトが声を上げて怒っている。
隣に座るミアが落ち着かせようとしているが、無理だろうな。
オリハルコン製に新調した武器は、剣二本、ライフル銃一丁、自動装填式銃三丁。
あとはグローブ一組、ブーツ一組だ。
赤字にはならなかったが、大喜びする金額は手に入らなかった。
豪遊するのは、廃都に隠してきたオリハルコンを回収して、換金した後になる。
さて、次の目的地が見えてきた。複合商業施設【プラザ】だ。
ここに来れば、スーツからシチューの素まで大抵の物は手に入る。
今着ている予備の安物リクルートスーツには、速やかに退場してもらうとしよう。
「分かっていると思うけど、余計な買い物すんじゃないわよ。したらブッ殺すから」
「はいはい、心配しなくても分かっていますよ」
駐車場に車を駐めると、不機嫌そうなケイトが薄い札束を渡してきた。
薄過ぎて一枚にしか見えない。一応、数えてみたら三枚しかなかった。
たったの三百ドルでは、余計な物さえ買えない。
「じゃあ、ギルっちは食糧品と日用品の買い出しお願いねぇ~。私達、遊ぶので忙しいから。にゃはははは」
「はい、ギル。これで二週間分の食糧品と日用品を買ってね。翼用のシャンプーに白髪染めは買わないでね。堕天使になっちゃうから。残りは使っていいからね」
「あっ、ああ、分かった」
ミアが元気に車から降りると、店に向かって走っていく。
パトリの方は封筒を渡すと、静かに降りていった。
堕天使? あれは冗談なのか、それとも、間違ったら殺すという事か?
分からんな。
「はぁぁ……完全に運転手兼家政婦だな。どれどれ……」
受け取った薄茶色の封筒を開けて、中身を取り出した。
六百ドルしかなかった。
本当にギリギリ買えそうな金を渡してきた。
適当に安いのを買って、残りは着服したいが、そんな事をすれば食事抜きにされそうだ。
とりあえず、安いのを多めに買って、高いのを少し買えばいいだろう。
冷蔵庫の奥に安い物、見える所に高い物を置いておけばいい。
あいつら馬鹿だから、安いの食っても、ずっと高いのを食っていると思うはずだ。
「さてと、さっさと買い物を終わらせて、遊ぶとするか」
車の鍵をしっかりとかけて、賑わっているオレンジ色の四階建ての四角い平たい建物に向かった。
この辺は中心地の街と違い、高い建物はない。未だに迷信を信じているようだ。
地上に突如現れた生物との戦いに人類が敗れたのは、もう何百年も前の話だ。
廃都に住み着く危険生物と、新しい街を作って移り住んだ人類との戦争は一度も起こってない。
戦闘機を飛ばして、ミサイルを撃ち込まないかぎりは襲って来ないだろう。
建物の中に入ると、まずは食糧品を買いに行く。
私も馬鹿じゃない。シチューの素を買うつもりはない。
今度は麺類で攻めてみる事にした。前に見た時に、十キロ五ドルと異常に安かった。
大きなカートにカゴを乗せて、適当に安い食材をカゴの中に放り込んでいく。
あとはカートを押して、センサーが付いてある扉型のレジーを通過するだけでいい。
「もうちょっと行けると思ったんだが……」
ピィピィピィ。
表示された金額二百四十ドルをしぶしぶ支払うと、購入した食糧品が圧縮されていく。
とりあえず、車に戻って、冷蔵庫に入れてから日用品と私物を買いに行くとするか。
「ただいまぁ~。あれ? ギルっち、まだいたの?」
車に戻って、冷蔵庫に食糧品を詰め込んでいたら、ミアとパトリが戻ってきた。
ミアの手には黒猫のヌイグルミが握られている。猫が猫を買ってきたようだ。
「おかえり。可愛いヌイグルミだな」
「そうだね。でも、触らないでね。汚れるから」
「……」
褒めただけなのに、嫌な顔をされて腕の中に隠された。
娘以外にも、私の汚物認定が進んでいるようだ。
思春期だから仕方ない。気にしたら負けだ、そう思う事にしよう。
パパッと冷蔵庫に入れて、出掛けるとしよう。
「にゃにゃん。このブレンダには空気洗浄機能があるんだよ。最近、この車の中が臭いから買ったんだよぉ~」
「……」
ニャーニャーニャー。
ソファーに寝転がって、ミアは鳴いている黒猫を高い高いしている。
確かに車内は以前から獣臭くさいと思っていた。
空気洗浄機は必要だと思う。
「ちょっと出掛けてくる」
「はぁ~い。夜まで帰って来なくていいからねぇ~」
「……」
気にしたら負けだ。扉を開けて外に出ると、静かに閉めた。
ビールでも飲みに行こう。
♢
イケメン店員を睨み付けながら聞いてみた。
もしもそうなら、急いでこの町から逃げないといけない。
殺し屋に始末されてしまう。
「違いますよ。あいつらは【WB(ダブルビー)】という名のバウンティハンターの集まりです」
「ダブルビー? 聞いた事がないな」
この仕事を始めたばかりの私なら当然かもしれないが、それでも、有名なら一回ぐらいは聞いているはずだ。
良い事でも悪い事でもニュースになっていないなら、大した集まりじゃないだろう。
「WBはワールドバウンティハンターの略です。色々な廃都を回って、仲間を集めたり、金を荒稼ぎしている連中ですよ。五十人ぐらいはいると思いますよ」
五十人か。大型のバスの乗客と同じぐらいの人数だな。
多いのか、少ないのか、微妙な人数だ。
「ようするに、アマチュアサッカーチームのようなものか。遠征先で試合して、飲んで暴れて、ハメを外して、留置所で目を覚ます、お馬鹿な集団なんだな」
確かに出張先と旅行先はテンションが上がってしまう。気持ちはよく分かる。
解放感があるし、それに旅の恥は掻き捨てという言葉もあるぐらいだ。
自分の事を知っている人が誰もいない場所なら、失敗しても笑われるのは一時だけだ。
もしも、知り合いの前で失敗してしまったら、会うたびに、それをネタに笑われてしまう。
「遠征ですか。まあ、似たようなものだと思います。奴ら二ヶ月前にやって来たから、そろそろ町から出て行ってくれると助かるんですけどね」
ふぅーん、なるほどね。だとしたら、下手に接触しなければ問題なさそうだな。
町中で襲って来ないだろうし、こっちは白魔石のリングを全員が装備している。
五十人規模の弱小灰色魔石チームなら、恐れる必要もない。
んっ? いやいや、待てよ。
そういえば、あのグラサンが白魔石を嵌めていた。
あれはどういう事だ? ハッタリ用に白色に塗った偽物の魔石でも嵌めてたのか?
流石にそれはないだろう。私にハッタリが通用しなかったら、殴られて破裂していた。
「ちょっといいか?」
「はい、何でしょうか?」
ちょっと気になる事があったので、イケメン店員を呼んでみた。
こういうのは直接聞いた方が早そうだ。
「あのグラサンは何を買ったんだ? 魔石のショーケースを見ていたようだけど」
「ああ、炎の魔石と白魔石を買って行きましたよ。あいつら金だけはあるんですよね」
なるほど、お前達が原因だったか。お陰でグラサンに逃げられた。
まあ、商売だから仕方ないのは分かる。
悪い奴でも、ムカつく奴でも、金を払えばお客様だからな。
しかも、あの三十万ドルの火が出る魔石を買ってくれるんだ。
私だって、お近づきになりたい、というか、お近づきにはなっているな。
悪い意味で。
♢
オリハルコンを換金してもらい、カスタムショップで武器を新調した私達は買い物に出発した。
道路は灰色で歩道は真っ白だ。
白、青、赤、茶などの正方形の建物が並んだり、積み上がっている。
町中は街路樹や芝生と緑も多いが、廃都と違って生き生きしている。
まさに天国と地獄と言ってもいいだろう。
「あぁー、もぉー! 武器代にお金かかり過ぎなのよ!」
「まあまあまあ。必要経費だから仕方ないよぉ~」
「新しい服、買おうと思ったのに!」
「安いのなら買えるよぉ~」
L字ソファーに座っているケイトが声を上げて怒っている。
隣に座るミアが落ち着かせようとしているが、無理だろうな。
オリハルコン製に新調した武器は、剣二本、ライフル銃一丁、自動装填式銃三丁。
あとはグローブ一組、ブーツ一組だ。
赤字にはならなかったが、大喜びする金額は手に入らなかった。
豪遊するのは、廃都に隠してきたオリハルコンを回収して、換金した後になる。
さて、次の目的地が見えてきた。複合商業施設【プラザ】だ。
ここに来れば、スーツからシチューの素まで大抵の物は手に入る。
今着ている予備の安物リクルートスーツには、速やかに退場してもらうとしよう。
「分かっていると思うけど、余計な買い物すんじゃないわよ。したらブッ殺すから」
「はいはい、心配しなくても分かっていますよ」
駐車場に車を駐めると、不機嫌そうなケイトが薄い札束を渡してきた。
薄過ぎて一枚にしか見えない。一応、数えてみたら三枚しかなかった。
たったの三百ドルでは、余計な物さえ買えない。
「じゃあ、ギルっちは食糧品と日用品の買い出しお願いねぇ~。私達、遊ぶので忙しいから。にゃはははは」
「はい、ギル。これで二週間分の食糧品と日用品を買ってね。翼用のシャンプーに白髪染めは買わないでね。堕天使になっちゃうから。残りは使っていいからね」
「あっ、ああ、分かった」
ミアが元気に車から降りると、店に向かって走っていく。
パトリの方は封筒を渡すと、静かに降りていった。
堕天使? あれは冗談なのか、それとも、間違ったら殺すという事か?
分からんな。
「はぁぁ……完全に運転手兼家政婦だな。どれどれ……」
受け取った薄茶色の封筒を開けて、中身を取り出した。
六百ドルしかなかった。
本当にギリギリ買えそうな金を渡してきた。
適当に安いのを買って、残りは着服したいが、そんな事をすれば食事抜きにされそうだ。
とりあえず、安いのを多めに買って、高いのを少し買えばいいだろう。
冷蔵庫の奥に安い物、見える所に高い物を置いておけばいい。
あいつら馬鹿だから、安いの食っても、ずっと高いのを食っていると思うはずだ。
「さてと、さっさと買い物を終わらせて、遊ぶとするか」
車の鍵をしっかりとかけて、賑わっているオレンジ色の四階建ての四角い平たい建物に向かった。
この辺は中心地の街と違い、高い建物はない。未だに迷信を信じているようだ。
地上に突如現れた生物との戦いに人類が敗れたのは、もう何百年も前の話だ。
廃都に住み着く危険生物と、新しい街を作って移り住んだ人類との戦争は一度も起こってない。
戦闘機を飛ばして、ミサイルを撃ち込まないかぎりは襲って来ないだろう。
建物の中に入ると、まずは食糧品を買いに行く。
私も馬鹿じゃない。シチューの素を買うつもりはない。
今度は麺類で攻めてみる事にした。前に見た時に、十キロ五ドルと異常に安かった。
大きなカートにカゴを乗せて、適当に安い食材をカゴの中に放り込んでいく。
あとはカートを押して、センサーが付いてある扉型のレジーを通過するだけでいい。
「もうちょっと行けると思ったんだが……」
ピィピィピィ。
表示された金額二百四十ドルをしぶしぶ支払うと、購入した食糧品が圧縮されていく。
とりあえず、車に戻って、冷蔵庫に入れてから日用品と私物を買いに行くとするか。
「ただいまぁ~。あれ? ギルっち、まだいたの?」
車に戻って、冷蔵庫に食糧品を詰め込んでいたら、ミアとパトリが戻ってきた。
ミアの手には黒猫のヌイグルミが握られている。猫が猫を買ってきたようだ。
「おかえり。可愛いヌイグルミだな」
「そうだね。でも、触らないでね。汚れるから」
「……」
褒めただけなのに、嫌な顔をされて腕の中に隠された。
娘以外にも、私の汚物認定が進んでいるようだ。
思春期だから仕方ない。気にしたら負けだ、そう思う事にしよう。
パパッと冷蔵庫に入れて、出掛けるとしよう。
「にゃにゃん。このブレンダには空気洗浄機能があるんだよ。最近、この車の中が臭いから買ったんだよぉ~」
「……」
ニャーニャーニャー。
ソファーに寝転がって、ミアは鳴いている黒猫を高い高いしている。
確かに車内は以前から獣臭くさいと思っていた。
空気洗浄機は必要だと思う。
「ちょっと出掛けてくる」
「はぁ~い。夜まで帰って来なくていいからねぇ~」
「……」
気にしたら負けだ。扉を開けて外に出ると、静かに閉めた。
ビールでも飲みに行こう。
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