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第25話 知らない男にお父さんと呼ばれる日

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「なになに? こういう武器とかに興味あるの? うちに来なよ。沢山あるよ」
「そうそう。良かったら、タダで持って行っていいからさぁ」
「いいです。間に合っています」

 男前だな。ケイトはミアとパトリを自分の背中に隠して、二人の男を冷たくあしらっている。
 あいつが男なら、二人はきっと惚れているな。
 隣のイケメン店員がケイトに感心しているぐらいだ。

「あの金髪の女の子、凄く勇敢ですね」
「……助けに行かなくていいんですか?」
「いえ、駄目です。私が行っても何の役にも立ちませんから」
「いえ、でも……」
「刺激しない方がいいんです」

 お前は何を言っているんだ?
 私はお客様だから、カウンターに隠れて見守ってもいいけど、店員ならば仕事するべきだ。
 このままではケイト達が無料でお持ち帰りされてしまうかもしれない。
 それとも、この店はそういういかがわしいサービスでも付いているのか?
 イケメンなら、さっさと助けに行ってやれ。

「ちっ……ねぇ、キミ。人の親切は素直に受けるもんだよ。ほら、後ろの二人がキミに気を使って行けないだろう。三毛猫ちゃんはお兄ちゃん達のお家に行きたいでちゅよねぇ~」
「ゔぅぅぅぅ~~~!」

 黒パーマの気持ち悪い赤ちゃん言葉に、ケイトの後ろに隠れているミアが唸り声を上げている。
 なんって唸っているのか大体分かる。ママのところに帰って、ミルクでも飲んでいろだな。

「ちょっと、ドニーさん。怖がっているじゃないですか。赤ちゃん言葉は可愛くないですって」
「ああっ? 獣人は見た目で年齢が分かんねぇからいいんだよ。そうでちゅよねぇ~」
「いい加減にしてよ! あんた達、気持ち悪いのよ!」
「はぁっ? 誰が気持ち悪いだ! 女の癖に調子乗ってんじゃねぇぞぉー!」

 スキンヘッドがケイトの顔に自分の顔を近づけて、凄く目つきで睨んでいる。
 さっき絡まれた時、あいつの口臭臭かったから、あれはキツいだろうな。

「ヤバイですよ。あの女の子、殴られますよ」
「いや、手を出した方が負けだ。あれでいいんだ。警察を呼ぶ準備をしろ。暴行の現行犯だ」

 隣のイケメン店員が騒いでいるが問題ない。
 ナンパは犯罪じゃないが、暴行は立派な犯罪だ。
 容赦なく警察に通報して、塀の中に送ってやる。

「……お父さん、お待たせしました。これで娘さんを助けてあげられますよ」

 金色のアビリティリングを四つ持ったアドルフがコソコソやって来た。
 ヒソヒソ声で話しながら、私にアビリティリングを渡してくる。
 何故、来た? 空気が読めないのか。私は行きたくないんだぞ。
 スキンヘッドに肩ドクロだぞ。違う世界の人間だぞ。

「……私はいいから。キミが助けてあげなさい。娘に気があるんだろ?」

 そんなに助けたいなら、助ければいい。
 白魔石のアビリティリングを使えば、誰でも勝てるはずだ。
 私は娘を助ける手柄をアドルフに譲ってやった。
 ああいう連中はしつこい。下手に手を出すと逆恨みされて、狙われ続ける事になる。
 一度だけヒーローになれても、その後は過酷な奴隷生活が待っている。

 ある日、道を歩いていたら路地裏に引き摺り込まれて、殴る蹴るの暴行。
 財布の中身は現金からカードまで全て没収されてしまう。
 それがずっーーーーと続く。
 金を払わなければ暴行、金を払ったら次回に続くだ。

「いえいえいえ! とんでもない! 私よりもお父さんがいいですって!」
「いやいや、キミが助けてやりなさい。娘はキミに助けてほしいはずだ」
「何言ってんですか! 二人で助けに行けばいいじゃないですか!」
「「……」」

 イケメン店員が会話に割り込んできたと思ったら、正論を言ってきた。
 今は正義の話をしているんじゃない。自分の身の安全を守る為の話をしているんだ。

「お前が行けばいいだろう。ほら、あそこのお客様が困っているぞ。店員だったら、さっさと助けてやれ」
「嫌ですよ。私の仕事内容に殴られるなんてないです。あの子のお父さんなんでしょう? 父親なら助けに行ってくださいよ」
「父親にも出来ない事があるんだ。それに娘は強い子だ。私の助けなんて必要ない」
「どう見ても、店の外に連れて行かれようとしてますよ! お父さん、助けが必要ですって!」

 アドルフが娘を現実を見ろと、指で訴えている。
 確かにケイトがスキンヘッドの男に腕を掴まれて、店の出口に連れて行かれようとしている。
 だが、問題ない。予定通りだ。暴行が誘拐になっただけだ。
 店から出たら、迷わず警察に通報しろ。五分以内に正義の味方が助けにやって来る。
 
「痛い、痛いって言ってるでしょう! このハゲ! 離しなさいよ!」
「ハゲじゃねぇよ。舐めてっと、お前もツルツルにすんぞ」
「ドニー、パーカー、買い物は済んだ。遊んでないで帰るぞ」

 グラサンダンディの買い物が終わったようだ。
 黒パーマ(ドニー)とスキンヘッド(パーカー)を呼んでいる。
 このまま帰るなら、それでもいいだろう。命拾いしたな。
 私の右腕の白龍(白魔石)が解放されたら、三人共、死んでたぞ。
 
「でも、兄貴! この女、俺達の事を舐めているですよ。ちょっと世の中の常識を教えてやらないと」
「……パーカー、オラッ」
「うぐっ! ごほぉ、ごほぉ……あ、兄貴?」

 グラサンが面倒くさそうにスキンヘッドに近づいていくと、その腹に向かって、左拳をめり込ませた。
 スキンヘッドが腹を両手で押さえて、両足をガグガクと震わせている。

「店の中で騒ぐな。店とお客さんに迷惑になる。さっさと連れて行け」
「す、すみません、兄貴! ほら、お前ら。店の迷惑になるから、さっさと外に出ろやぁ!」
「さあ、猫ちゃんと鳥ちゃんも行きましょうねぇ~」
「離しなさいよ!」「にゃああ!」「……」

 おい、グラサン! 止めろや!
 ダンディなのは服装だけで、グラサンダンディの中身は奴らと同じ屑だった。
 ケイトがスキンヘッドに、ミアとパトリが黒パーマに連れて行かれようとしている。

 もういいから、さっさと店の外に出ろ。イケメン店員が携帯電話で警察を呼ぶ準備万端だ。
 今の状況だと、ナンパと言い逃れ出来そうなので、出来れば、警官の到着前にケイトを殴ってほしい。
 まあ、それは問題ないな。店の外に出た瞬間に五、六発は殴るだろう。

「ちょっと待って! 行くから、行くから、パパに行ってもいいか、聞いて来て! パパと一緒に買い物している途中だったから。あそこにいる金髪のスーツ着た人がパパだから!」
「はぁっ? パパだぁ~?」

 パパ? パパ? パァ~~パ?
 ケイトが店の入り口から身体を半分出した状態で、こっちに向かって指を指している。
 スキンヘッドの視線が、カウンターから頭を出している男三人に向いている。
 イケメン店員はスーツだが黒髪、工場主任は作業着で灰色髪——

「さっきの紛らわしいジジイじゃねぇか。何だよ、テメェーの娘かよ。道理でムカつくはずだ」

 はい、そうです。私がパパです。
 ズカズカとケイトを連れて、スキンヘッドが隠れている私に近づいてくる。
 迫り来るピンチに隣にいるアドルフに私は小声で頼んだ。

「頼む。今すぐにアビリティリングを嵌めて、スイッチを入れてくれ」
「分かりました。頑張ってください」

 頑張るつもりはまったくない。
 アドルフが私の右腕にリングを嵌めて、スイッチを入れた。
 リングが縮小して、右腕にピタッとジャストフィットする。
 これで殴られても痛くはないはずだ。
 カウンターから出て、ショーケースが並ぶ広い店内に出ると、スキンヘッドの前に立った。

「おい、ジジイ……いや、駄目だな。ひぃひひひひ、こういう時はキチンと頼まねぇとな。お父さん、僕に娘さんをください! 絶対に幸せにしてあげますから! いいですよねぇ~?」
 
 ニヤニヤとスキンヘッドが笑いながら頼んできた。
 結婚の申し込みだとしたら、真剣さが足りないし、そもそも、私はお前が嫌いだ。
「娘に二度と近くな! とっとと消え失せろ!」と一発ブン殴って追い払いたい。
 でも、私は常識人だ。そんな手荒な真似はしない。

「三人共、い、嫌がっているじゃないですか! これは誘拐ですよ! 警察呼びますよぉ!」
「あぁ~、お・と・う・さ・ん! オラッ!」
「ごふっ! おおおおおおおっ!」

 声を震わせながらも、私は話し合いで穏便に解決しようとした。
 そんな私に向かって、スキンヘッドは笑いながら私の右肩を左手を掴むと、右拳を腹に打ち込んできた。
 ドフッ‼︎ 思わず、腹に走った衝撃に驚いてしまった。
 そして、我慢できずに身体を震わせて感動してしまった。
 全然痛くなぁ~い。

「おい、ジジイ。調子に乗んな。娘の前にお前をやってもいいんだぞ。暴力的な意味でな」

 スキンヘッドが私の髪を掴みながら、耳元で囁いて脅してきた。
 他の人に聞かれたくないようだ。だが、一番聞かれたらマズイ相手は私だ。
 お前は私を怒られた。いや、怒らせ過ぎた。

「正当防衛だな」
「はぁっ? なっ!」

 髪を掴むスキンヘッドの右手を左手を振り払って、軽々と払い除けた。
 そして、そのまま振り払った左手でスキンヘッドの右肩を掴むと、右手を握り締めた。
 お返しだ。

「ふんっ!」
「ごへえええええ‼︎ おぐっ、おぐっ」

 悪魔のような右拳の一撃がスキンヘッドの土手っ腹にめり込み、床に跪かせた。
 スキンヘッドは頭と両膝を床につけて、両手で腹を押さえて苦しんでいる。
 おいおい、自主的に土下座するじゃねぇよ。つまんねぇだろ。

「調子に乗るな、若造が。ふんっ!」
「ごげえええ‼︎」

 ツルツルの頭に右足を乗せると踏んづけて、床に力一杯叩きつけてやった。
 これが土下座だ。よく覚えておくんだぞ。
 
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