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第22話 濡れ衣のマグカップペロペロジジイ

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「おおおおおおい‼︎ こっちはこの辺で許すつもりはないぞ‼︎」

 私は素早く立ち上がると、ケイトに向かって吠えた。
 何なんだ、これは! 泥棒扱いされて、蹴られ叩かれ、それで謝罪はなしか!
 もう土下座程度で許されると思うなよ。罰として夕食抜きだ。

「まあまあまあ。落ち着いてよ、ギルっち。ケイトも反省しているし、勘違いでよかったじゃん」
「これが落ち着けるか! お前も私を犯人扱いしただろう!」
「にゃあ!」

 私を落ち着かせようとするミアの手を振り解いた。
 こいつも共犯だ。色々と言いたい事がある。
 灰色魔石があるのに隠していたのは、私に盗まれると思ったからだろう。
 まあ、そこは私に横領の罪があるから、百歩譲って仕方ない。理解しよう。
 安物の黒魔石と武器を使わせて、私を危険な目に遭わせたのも仕方ない。
 持ち逃げすると思ったのだろう。そこもなんとか理解してやる。
 問題は何故、この流れで私が夕食を作ると思った?

「これを見ろ!」
「「……」」

 バン! テーブルの上に白魔石を一個叩きつけた。
 ケイトとミアの視線が白魔石に集まっていく。

「私はお前達と違って疲れているんだ! そんなに飯が食いたいなら、自分達で作れ!」

 もう飯炊きジジイは終わりだ。
 手に入れたお宝を売って、私は独立する。
 そのぐらいの金は手に入るはずだ。

「んっ?」

 ゴリッと突然、私の左のこめかみに、硬く冷たい感触が突き付けられた。

「動いたら撃つよ。ギル、ポケットの中身を全部出して。それとも、脳味噌の中身全部出してみる?」
「えっ……」

 ソッと目だけ左に動かすと、パトリが銀色の銃(自動装填式拳銃)を持って、隣に立っていた。
 殺し屋のような冷たい視線と口調は、もう何十人も絶対に殺している。
 身体をピーンと硬直させて、絶対に刺激しないようにした。

「おかしな動きはしないでね。床掃除が大変だから」
「ど、どういうつもりなんだ⁉︎ わ、私を殺すつもりなのか⁉︎」
「それはギル次第だよ。ミィー、ギルは自分じゃ取り出したくないみたい。ポケットから取り出してあげて」
「う、うん、分かった!」

 パトリに言われるままに、ミアが慌ててポケットの中身を取り出していく。
 携帯電話、白魔石三個がテーブルの上に次々に置かれていく。
 ズボンのポケットを調べ終えると、次は足や腕に隠してないか叩かれて調べられる。
 もう何も隠し持っていないと分かったようだ。
 ミアがパトリに報告した。

「これで全部みたい」
「ちょうど良かった。四個あるなら、問題ないね。ケイトとミィーはリングの魔石を白魔石に交換して」
「うん、交換すればいいんだね」

 ケイトとミアの二人が、装着しているアビリティリングの黒魔石を白魔石に交換していく。
 人の事を泥棒扱いした癖に、自分達がやっている事は強盗じゃないか。
 あの隠していた灰色魔石も、男を騙して奪い取った物なんじゃないのか?

「くっ、いつもこんな事をしているのか? 恥ずかしくないのか? 人が苦労して手に入れた物を横取りするなんて」
「安心して。ギルが初めてだよ」

 そうか、それなら安心だな……安心できるかぁー! 
 常習犯は初めてって言うに決まっている。
 騙されると思うなよ!

 母さん、聞いてくれ。家を飛び出した娘は悪事に手を染めていたぞ。
 悪い友達と手を組んで、男を騙して、手柄を横取りしている。
 きっと、この車も殺した男から奪い取った物に違いない。
 そして、私もその男と同じ運命を辿る事に……。

「パトリ、交換したよ。ギルっちは殺すの?」
「殺さないよ。殺したら、夕食が作れないでしょう」
「確かにそうだね」

 ここまでやって夕食を作らせるとか、お前ら正気じゃないぞ!
 さっさと病院に行け!

「はい、ギル。もう動いていいよ」
「くっ、地獄に落ちても知らないからな」

 こめかみから銃を離すと、パトリはテーブルの上から白魔石を一個手に取った。
 自分のアビリティリングに嵌っている灰色魔石と交換しようとしている。

「最初から殺すつもりなんてないよ。ただ戦力差を同じにしたかっただけだよ」
「どういう意味だ?」
「ギル一人が凄い力を持つのは危ないでしょう。力尽くで言う事、聞かせられちゃうから」
「確かに浮気したぐらいだから、私達みたいな美少女にムラムラしちゃうかも」

 黙れ! 
 ジトッーと目を細めたミアが、自分の胸を隠して、私を睨んでいる。
 中盛りスレンダー体型にはまったく興味ない。
 特盛りグラマー体型になって出直して来い。

「安心しろ。お前達にそんな感情を持った事は一度もないぞ」
「嘘吐き。今日の朝、私の黒猫さんマグカップを舐め回していたのは、知っているんだからね!」
「マグカップ? 何の事を言っているんだ?」

 私が興味がないと言ったので、ミアが怒り出した。難しいお年頃なのだろう。
 黒猫のマグカップなら、冷蔵庫の奥に隠すように入れておいた。
 こうすれば、夜中に寝惚けて入れた事に出来る。

「ふぅ~ん、ギルっちには内緒にしてたけど、車外の映像はカメラでバッチリ録画してるんだよ。この変態!」

 ミアがリモコンのスイッチを押すと、車のフロントガラスに今朝の駐車場の映像が流れ始めた。
 そこには黒いマグカップを持った私が、コーヒーを飲んでいる姿が映っていた。

「こ、これは誤解だ! たまたま使っていたカップが、あれだったんだ!」
「だったら、何で車の下に隠したんだよ! ペロペロしてたくせに!」
「くぅぅぅぅーーー!」

 車の下にちょうどマグカップを隠したところで映像を停止されている。
 カメラを使うのは反則だろぉー。そんなの使ったら駄目だろぉー。
 普通に使っただけなのに、ペロペロしてないのに、言い逃れ出来ないじゃないか。

「ほら、ペロペロジジイは夕食をさっさと作りなさいよ。明日はあんたが倒したティラノサウルスの回収に行くんだから。早く寝て案内しなさいよ」
「はい、かしこまりました」

 ケイトに言われて、私は項垂れながらキッチンに向かった。
 徒歩三歩の距離だ。
 母さん、私達の可愛い娘はもうどこにもいないぞ。

「ほら、忘れ物」
「んっ? おっと!」

 ケイトに呼ばれたので、振り返った。
 ソファーに座ったままのケイトが、白魔石を投げてきた。
 それを慌てて両手でパシィとキャッチした。
 テーブルには四個置かれていたから、最後の一個だ。

「あんたの分よ。ペロペロジジイの癖に、まあまあ頑張ったんじゃないの」
「ああっ……ありがとうございます」

 褒められたので、思わず感謝してしまった。
 でも、よく考えれば、この白魔石は私が手に入れた物だ。
 五個中三個も奪われたのに、感謝したくもない。逆に感謝しろ。

「ほら、さっさと作って、シャワー浴びなさいよ。臭いんだから」
「はい……」

 よし、今日もシチューにしよう。
 嫌がらせを決めると冷蔵庫を開けた。
 圧縮した謎肉や野菜を取り出しながら、ついでに黒猫マグカップも取り出した。
 料理と一緒にテーブルに置くとしよう。

 ♢
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