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第18話 廃都の街の追いかけっこ

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「何やっているんだ? さっさとどっか行けよ」

 当然、助けが来ないのは分かっている。
 ティラノサウルスが立ち去るのを待つしかない。でも、全然動かない。
 トリケラトプスが埋まっている瓦礫の山を掘り起こしている。
 瓦礫の山が崩れて、頭や背中に打つかっているが、まったく気にもしていない。
 自分の身体と同じぐらいの瓦礫がのし掛かっても、邪魔だと言わんばかりに押し除ける。
 強引に頭と後ろ脚を使って、瓦礫を退かしていく。

「ギシヤヤヤヤヤアッ!」

 ヒィー!
 突然、ティラノサウルスが馬鹿デカい雄叫びを上げて、頭を瓦礫の中に突っ込んだ。
 ズルズルと何かを引き摺り出そうとしている。

「おいおい、まさか、お前……」

 とても嫌な予感がする。やっぱりそうだ。
 トリケラトプスの頭が見えてきた。
 あの野朗! 私の手柄を横取りするつもりだ!

「ふん、まあいい。掘り出した報酬に少しはくれてやる」

 頭に噛み付いたまま道路まで引き摺り出すと、大口を開けて、胴体からバキバキと食い始めた。
 元々、掘り起こすのは難しかった。食事を中止させるのも難しい。
 マイナスに考えるよりも、プラスに考えよう。
 私が楽に持ち運べる大きさに、食べて解体してくれていると思う事にしよう。
 だから、さっさと満足するまで食べて、私の前から消え去るんだぞ。
 
「グルルルルゥ、ギシャャ! ギシャャ!」
「あれは無理そうだな」

 ティラノサウルスは、トリケラトプスの長い角を噛み砕こうとしているが苦戦している。
 欲深い奴だ。角の強度は身体の中で一番高いはずだ。
 もう十分だろう。さっさと諦めて家に帰ればいい。

「グルルルルゥ……」

 そうそう、それでいい。
 ティラノサウルスは角を食べるのを諦めると、口から離した。
 あとはそのまま、この場から離れればいい。
 お前の食べ残しは、私がしっかりと街で換金してやるからな。

「ギシャャ! ギシャャ!」
「おい!」

 また胴体を食べ始めた。あの野朗、人間様を馬鹿にしやがって。
 それにしても、おかしい? もう半分以上は食べている。
 あれだけ食べれば、お腹の中がパンパンになって、食べれなくなるはずだ。
 それなのに、全然食欲が落ちない。
 まさかとは思うけど、高速でミスリルを消化、吸収しているんじゃないのか?

 だとしたら、ここに残っている意味はない。
 待っていても、食べ残しはゼロだ。
 でも、可能性はゼロじゃないかもしれない。
 何も手に入らないと諦めたら、そこで取引き終了だ。

「ギシャャ! ギシャャ!」
「…………」

 私はジィーーーッと待った。待って、待って、待ち続けた。
 奴がお腹いっぱいになって、食べるのをやめるのを待った。
 その結果、奴は食べるのをやめた。
 トリケラトプスの頭だけ残して食べるのをやめた。 
 今は道路に上にゴロンと横になって、食後の惰眠を貪っている。

「……予想した結果の一つだったな」

 やっぱり体内で高速消化、吸収していたようだ。
 ティラノサウルスの口の中に飛び込んで、魔石を取り出そうとしてたら、死んでいた。
 馬鹿な作戦を実行する前に気づけて良かった、そう思う事にしよう。

「んっ?」
「グルルゥ……」

 あれ? 何だか、こっちを見ていないか?

「グルルルゥ……」

 あれあれ? 何だか、立ち上がって、こっちを見てないか?

「グルルルルゥ……」

 ドォスン! ドォスン!
 あれあれあれ? 何だか、こっちを見ながら近づいて来てないか?

「ギシヤヤヤヤヤアッーーーーー‼︎」
「ぎゃああああああああ‼︎」

 馬鹿デカい雄叫びを上げながら、ティラノサウルスがビルに向かって突っ込んで来た。
 バレた⁉︎ 私は角を引き摺り、悲鳴を上げながら、急いで建物の奥に逃げ込んだ。
 ドォガガン‼︎ すぐに体高八メートルの巨体が激突した衝撃が建物全体を襲った。

「痛たたたたたたた!」

 粉砕された外壁片が室内に飛び込んで、私に襲い掛かってきた。
 ティラノサウルスは何度も何度も体当たりを繰り返している。
 ギギギギギギィと不気味な悲鳴を上げて、建物は崩壊寸前だ。
 急いで外に脱出しないと、私の身にトリケラトプスと同じ運命が訪れる事になる。
 目の前に立ち塞がる外壁に向かって、私は全力でタックルした。

「オラッーー‼︎」

 ブチ壊せ! 自分の道は自分で作るのみだ。
 外壁が音を立てて、外に向かって倒れた……五センチだけ。
 建物の外壁には植物のツタが繁殖している。壁は一つじゃない。

「こなぁくそぉ!」

 この非常事態に余計な手間をかけさせるな!
 少し倒れた外壁を掴むと、室内に引き摺り倒した。
 現れた植物のツル壁を両手で急いで引き千切り、隙間に身体をねじ込んで外に出た。
 床に置いた、角と灰色魔石は忘れずに回収だ。

「ハァ、ハァ、ハァ、私じゃなかったら死んでたな」

 心臓がうるさいぐらいに鼓動する。
 ビルの崩壊に紛れて、全力ダッシュで逃げ切った。
 今頃、ティラノサウルスは瓦礫の山と遊んでいる頃だろう。
 ドォスン! ドォスン!

「おいおい、まさか……やめてくれ」

 不吉な大きな足音が近づいて来る。
 後ろをゆっくりと振り返ると、高層ビルと高層ビルの間から、黒縞の緑色の大型恐竜が現れた。
 ティラノサウルスは私を目視すると、雄叫びを上げながら向かって来た。

「くそぉーーー‼︎」

 逃走再開だ。気合を入れて全力で駆け出した。
 ティラノサウルスの方がスピードは速い勝てない追いかけっこをするつもりはない。
 出来るだけ頑丈な建物の中や狭い路地裏に逃げ込んで、追跡を撒くしかない。

「ハァ、ハァ……まさかとは思うけど、この魔石を追いかけているのか」

 左手に持つ灰色魔石が嵌った三角形のリングを見た。
 トリケラトプスは魔石やミスリルソードに反応していた。
 つまりはこれを持っていたら、ずっと追いかけ回されるという事だ。

 剣と上着は失った。苦労して手に入れた角と魔石まで失ったら、キャンピングカーに戻れない。
 戻ればどうなるか、結果は分かりきっている。土下座とリンチと生命保険だ。

「あぁーーあ! この角、長いし重過ぎるんだよ! 捨てた方がいいじゃないのか!」
 
 いやいや、落ち着いて考えろ。ピンチはチャンスだ。
 奴を倒せば逃げる必要も捨てる必要もなくなる。
 これは大儲け出来るチャンスなんだ。
 四十階建て、五十階建てのビルを崩壊させて……馬鹿野郎! 
 その手は掘り起こせないから意味がないだろう。ちょっとは学習しろ!
 
「ギシヤヤヤヤヤアッーーーー‼︎」
「うおおおおっ⁉︎ 馬鹿野郎‼︎」

 雄叫びに振り返ってみると、赤錆だらけの車が回転しながら私に飛んできていた。
 ティラノサウルスが道路の放置車両を右足で蹴り飛ばしている。
 ガシャン! ガシャン!
 落ちて来る車の砲弾を右に左に走りながら、必死に回避し続ける。
 サッカーするとは聞いてない。

「くっ、何とか倒す方法を考えるんだ」

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、必ず策はあるはずだ。
 どんな馬鹿げた方法でも、倒せる可能性が一パーセントでもあるのならば、やるしかない。

 使えそうなのは、灰色魔石三個とトリケラトプスの二メートル程の角だけだ。
 灰色魔石は外せば、アビリティリングに使えるかもしれない。
 身体能力を上げれば、戦う事も走って逃げられる可能性も出てくる。
 それにこの強靭な角なら、武器にもなる。
 だが、この程度で倒せるとは思えない。
 それこそミサイルのように、この角を凄い速さで発射しないと貫通もしないはずだ。

「発射に貫通……! もしかすると!」

 私は逃げながら、ある噂話を思い出した。
 それはある若い営業マンが、アビリティリングを売る為にやったという命懸けの方法だった。

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