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第13話 他人のマッグカップは使うな
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「戦いの朝がやって来たな」
私は右手に黒いマグカップを持って、広い駐車場で爽やかな朝日を浴びていた。
キャンピングカーには、周囲の動くものに反応する動体探知機能が搭載されている。
そのお陰で朝までグッスリと眠る事が出来た。
もちろん、恐竜や怪物が現れなければの話だ。
心配していた筋肉痛もなく、体調は万全だ。
今の私のコンディションは最高の状態と言ってもいい。
どんな恐竜がやって来ても倒せそうな気がする。
「ふむ、味は悪いが気分は最高だな」
ゴクゴク。
マグカップの中のブラックコーヒーを飲んだ。
コーヒーの苦味と熱さが口の中に広がっていく。
仕事を始める前の一杯はやっぱりコレだな。
「あれぇー? 私の黒猫さんマグカップがないよぉー?」
「また脱いだ服の下にあるんじゃないの? よく探せばあるでしょう」
「おかしいなぁー? 昨日まではあったのに……」
キャンピングカーからミアとケイトの騒がしい声が聞こえてきた。
朝から騒がしい連中だ。爽やかな朝が台無しになってしまった。
コップなんて使えれば何でもいいはずだ。
……そう思いながらも、一応は右手のマグカップを確認してみた。
そこには取っ手が尻尾、表面には口を開けた猫の顔が描かれていた。
「あるじゃないか」
とりあえず急いで飲んで、分かりにくい場所に隠さないといけない。
私が使ったのがバレたら、ジジイ菌が移ったから弁償しろと言われてしまう。
ゴクゴク。確実に。
「いつも言っているだろう。キチンと片付けないから、そうなるんだ。あとで探しておくから、さっさと朝食を食べて仕事に行くぞ」
「おかしいなぁー、昨日の夜に使ったから、絶対にここにあるはずなのに」
ミアは流し台周辺を念入りに探しているが、そこには絶対にない。
私は車体の下にマグカップを隠すと、平然と車内に乗り込んだ。
テーブルの上には手付かずの食事が三人分並んでいる。
三人でマグカップ探しに熱中しているようだ。
「ミア、もう諦めるわよ。早く食べないと不味い飯が冷めて、もっと不味くなるんだから」
「にゃぁぁ……しょうがない。白猫さんマグカップにするよ。今日の気分は黒猫だったのに」
ミアはカップを探すのをやめると、しぶしぶ白いマグカップに牛乳を注ぎ始めた。
白でも黒でもどっちでもいいから、あるのを使えばいい。
「ジジイが横領でもしているんでしょう。これだから泥棒は」
ソファーに座って、食事を始めたと思ったら、ケイトが犯人探しを始めた。
正解だが、今は食事中だ。黙って食えばいい。
それにマグカップは、あとで百パーセント見つかるから問題ない。
「証拠も無いのに言い掛かりはやめろ。マグカップなんて盗んでも金になるか」
「酷い。大切なマグカップだったのに……」
私の言葉に食事をやめて、ミアは項垂れショックを受けている。
その大切なマグカップを以前、ゴミ山の中で見つけたのは私の記憶違いだろうか?
「あぁーあ。ほら、謝って」
「はい?」
ケイトが私を睨みつけながら、床を強く指差している。
悪い事をした覚えはまったくないのに、土下座の強要だ。
朝から気分が悪くなる。
「は・や・く」
「……どうもすみませんでした」
それでも、もう合計四回目の土下座だ。
パパッと済ませる事にした。
車内の床は綺麗に掃除しているので、服は汚れない。
汚れるのは私の心だけだ。
「はぐっ! 何をする——」
「いま食事中だから椅子は動かない、喋らない」
ドスン。突然、土下座中の私の背中に重たい衝撃が走った。
ケイトが許可なく座ってきた。私を椅子扱いしている。
こんな事が許されるはずがない。
私の怒りは爆発寸前だ。この状態は椅子じゃない。
折り畳み椅子を広げずに座っているようなものだ。
「誰が椅子だ! さっさと降りろ!」
力尽くで背中から、ケイトを振り落とそうと動こうとした。
だが、その前に第二の利用者が現れた。もちろん無許可だ。
ポスンと腰に軽い衝撃が走った。
「おお! これがリアルに女の尻に敷かれた男だねぇ」
「ぐっぬぬぬぬ‼︎ さっさと降りろぉー!」
腰に猫娘、背中に馬鹿娘を乗せて、私は屈辱を味わされている。
苦い。苦過ぎる! 朝飲んだブラックコーヒーが甘く感じる程に苦々しい。
「う~ん、まだまだ反省が足りないみたい。パトリも頭に乗ってあげなよ」
「私はいいよ。動く椅子だと食べにくいから」
「確かにプルプルして食べにくいかも。ちょっとギルっち、動かないでよ」
「だったら降りろぉー!」
ケイトとミアが何をやりたいのか分からない。
私の土下座を面白くする方法を、昨日の夜に思い付いたのかもしれない。
こっちは全然面白くないが、二人は今までの土下座の中で一番面白いようだ。
私の頭と尻を叩いて遊んでいる。
言っておくが、これは土下座じゃない。人間乗馬だ!
♢
私は右手に黒いマグカップを持って、広い駐車場で爽やかな朝日を浴びていた。
キャンピングカーには、周囲の動くものに反応する動体探知機能が搭載されている。
そのお陰で朝までグッスリと眠る事が出来た。
もちろん、恐竜や怪物が現れなければの話だ。
心配していた筋肉痛もなく、体調は万全だ。
今の私のコンディションは最高の状態と言ってもいい。
どんな恐竜がやって来ても倒せそうな気がする。
「ふむ、味は悪いが気分は最高だな」
ゴクゴク。
マグカップの中のブラックコーヒーを飲んだ。
コーヒーの苦味と熱さが口の中に広がっていく。
仕事を始める前の一杯はやっぱりコレだな。
「あれぇー? 私の黒猫さんマグカップがないよぉー?」
「また脱いだ服の下にあるんじゃないの? よく探せばあるでしょう」
「おかしいなぁー? 昨日まではあったのに……」
キャンピングカーからミアとケイトの騒がしい声が聞こえてきた。
朝から騒がしい連中だ。爽やかな朝が台無しになってしまった。
コップなんて使えれば何でもいいはずだ。
……そう思いながらも、一応は右手のマグカップを確認してみた。
そこには取っ手が尻尾、表面には口を開けた猫の顔が描かれていた。
「あるじゃないか」
とりあえず急いで飲んで、分かりにくい場所に隠さないといけない。
私が使ったのがバレたら、ジジイ菌が移ったから弁償しろと言われてしまう。
ゴクゴク。確実に。
「いつも言っているだろう。キチンと片付けないから、そうなるんだ。あとで探しておくから、さっさと朝食を食べて仕事に行くぞ」
「おかしいなぁー、昨日の夜に使ったから、絶対にここにあるはずなのに」
ミアは流し台周辺を念入りに探しているが、そこには絶対にない。
私は車体の下にマグカップを隠すと、平然と車内に乗り込んだ。
テーブルの上には手付かずの食事が三人分並んでいる。
三人でマグカップ探しに熱中しているようだ。
「ミア、もう諦めるわよ。早く食べないと不味い飯が冷めて、もっと不味くなるんだから」
「にゃぁぁ……しょうがない。白猫さんマグカップにするよ。今日の気分は黒猫だったのに」
ミアはカップを探すのをやめると、しぶしぶ白いマグカップに牛乳を注ぎ始めた。
白でも黒でもどっちでもいいから、あるのを使えばいい。
「ジジイが横領でもしているんでしょう。これだから泥棒は」
ソファーに座って、食事を始めたと思ったら、ケイトが犯人探しを始めた。
正解だが、今は食事中だ。黙って食えばいい。
それにマグカップは、あとで百パーセント見つかるから問題ない。
「証拠も無いのに言い掛かりはやめろ。マグカップなんて盗んでも金になるか」
「酷い。大切なマグカップだったのに……」
私の言葉に食事をやめて、ミアは項垂れショックを受けている。
その大切なマグカップを以前、ゴミ山の中で見つけたのは私の記憶違いだろうか?
「あぁーあ。ほら、謝って」
「はい?」
ケイトが私を睨みつけながら、床を強く指差している。
悪い事をした覚えはまったくないのに、土下座の強要だ。
朝から気分が悪くなる。
「は・や・く」
「……どうもすみませんでした」
それでも、もう合計四回目の土下座だ。
パパッと済ませる事にした。
車内の床は綺麗に掃除しているので、服は汚れない。
汚れるのは私の心だけだ。
「はぐっ! 何をする——」
「いま食事中だから椅子は動かない、喋らない」
ドスン。突然、土下座中の私の背中に重たい衝撃が走った。
ケイトが許可なく座ってきた。私を椅子扱いしている。
こんな事が許されるはずがない。
私の怒りは爆発寸前だ。この状態は椅子じゃない。
折り畳み椅子を広げずに座っているようなものだ。
「誰が椅子だ! さっさと降りろ!」
力尽くで背中から、ケイトを振り落とそうと動こうとした。
だが、その前に第二の利用者が現れた。もちろん無許可だ。
ポスンと腰に軽い衝撃が走った。
「おお! これがリアルに女の尻に敷かれた男だねぇ」
「ぐっぬぬぬぬ‼︎ さっさと降りろぉー!」
腰に猫娘、背中に馬鹿娘を乗せて、私は屈辱を味わされている。
苦い。苦過ぎる! 朝飲んだブラックコーヒーが甘く感じる程に苦々しい。
「う~ん、まだまだ反省が足りないみたい。パトリも頭に乗ってあげなよ」
「私はいいよ。動く椅子だと食べにくいから」
「確かにプルプルして食べにくいかも。ちょっとギルっち、動かないでよ」
「だったら降りろぉー!」
ケイトとミアが何をやりたいのか分からない。
私の土下座を面白くする方法を、昨日の夜に思い付いたのかもしれない。
こっちは全然面白くないが、二人は今までの土下座の中で一番面白いようだ。
私の頭と尻を叩いて遊んでいる。
言っておくが、これは土下座じゃない。人間乗馬だ!
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