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第11話 男の手抜き料理

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「これとこれとこれでいいだろう」

 ケイトの野次に耐えて解体作業を終わらせた私は、パパッと夕食を作る。
 鍋に水とスープの素を入れて、適当に圧縮された野菜と肉をぶち込む。
 その間に瞬間冷凍圧縮されたパンを四角い機器の中に入れる。
 あとは数分で夕食が完成する。
 今日の夕食は熱々シチューと熱々ふっくらパンだ。
 大抵の料理は熱々なら美味い。

「やっと一日が終わったな」

 出来たてのシチューとパンを持って、私は運転席にドガッと座った。
 運転席の窓から、のんびりと真っ暗な廃都の駐車場を見る。
 車内の光は外には漏れないので、恐竜が光に気づいて集まる事はない。
 ここは静か過ぎる。街灯や建物には光一つ見えない。
 静寂に支配された廃都は、何処にいても墓場にいるようで暗い気分になる。

「またシチューだよ! 私、猫舌だから熱いの苦手なのに」
「しょうがないでしょう。ジジイが安い安いとか言って、スープの素を馬鹿買いしたんだから。今度からは一人で買い物に行かせないで、誰かが付き添いしないと駄目ね」
「えぇー、それってデートに見えるんじゃないの? 私は嫌だよぉー」
「それもそうね。ジジイに買い物は難易度が高いから、やめさせましょう」
「これ、鳥肉かな?」
「う~ん? 味は牛肉かな。気になるなら私が食べるよ」
「うううん、自分で食べるから大丈夫。それにお肉は高いから。これ、多分お肉じゃない」
「うっ! 確かに……ギルっちに渡したお金じゃ、お肉は買えないよね」
「「「…………」」」

 テーブルに集まった三人娘が騒がしいが、気にしないようにしよう。
 それにこの丸い肉の塊のような物が気になる。肉じゃないなら、何なんだ?

「私達の今日の稼ぎは全然駄目だったよ。パトリはどうだったの?」
「そこそこだと思う。持てそうな物は持って来たよ」
「おお! さすがはうちのエースだね」

 お金の話が聞こえてきたので、食事をしながら耳だけ傾けた。
 料理の不満を聞くつもりはないが、お金の話は別腹だ。

 このチームの稼ぎ頭は、どうやらパトリのようだ。
 ビジネス街とキャンピングカーを一人で何度も往復して、空のバッグに物を詰め込んで帰って来る。
 空を飛んで、高層ビルの上層部にある社長や重役達の部屋から、金になりそうな物を持って来るそうだ。
 背中の白い翼で空を飛べるパトリには、障害物や恐竜なんて関係ない。
 使用不能のエレベーターや崩れ落ちそうな階段を登る必要もない。
 窓の外から窓を破壊すれば、簡単に最上階の部屋の中に入る事が出来る。

「ギルっち、明日もこんな感じで仕事するけど、いいよね?」

 猫舌だと言っていたミアが、パパッと食事を終えて聞いてきた。
 今日の仕事はラプトル二匹倒して、四匹運んで、二匹解体しただけだ。
 こんな楽な仕事に文句はない。
 でも、ここは大人として厳しい現実を教えなくてはいけないな。
 楽しいのは現実を知らない若いうちだけだ。

「ふぅぅ……それは構わないが、もっと目標を持って行動しないと駄目だぞ。この仕事をいつまで続けるんだ? 流石に十年後もやらないんだろう? 結婚はどうする? 一生独身でいるつもりなのか?」
「えっ? そんなのギルっちには関係ないでしょう。今は仕事の話だよ」
「いいや、これは仕事の話だ。いいか、家庭と仕事は表裏一体の関係だ。若い頃は可能性とチャンスが溢れている。だが、それはいつまでも続かないぞ。結婚できるのは若いうちだけだ。人間は二十五歳、獣人なら二十歳を過ぎれば、誰も見向きもしな——」
「あぁー! あぁー! 何も聞こえないよぉー!」

 ミアは両耳を手で塞いで、大声を上げて聞きたくないポーズを取っている。
 親から何度も言われてきたのだろう。
 前にミアに年齢を聞いた時に、十六歳だと言っていた。
 女としてのタイムリミットは残り四年だ。
 
「ジジイ、黙れ。完璧にセクハラ発言だし、そういう台詞は浮気も横領もせず、夫婦円満だった人間が言うべきなのよ。仕事も家庭も失敗した、あんたが言ったらいけない台詞なの。ほら、ミアに謝って」

 ケイトは冷たい視線と強く口調で、私の間違いを罵り、さらに床を人差し指でビシィと指差した。
 それだけでどんな謝罪を要求しているか分かってしまった。慣れとは恐ろしいものだ。

「ギル、チャンスだよ。謝って」

 何のチャンスか分からないが、期待した眼差しで、パトリが私の土下座を待っている。
 生で見るのも、ライフルのスコープ越しで見るのも、大して変わらない。
 それに見せるのを勿体ぶるようなものでもない。
 運転席と助手席の狭い隙間に座ると、「申し訳ありませんでした」と土下座した。

「やっぱり何回見ても面白くない」
「ギル、それが全力の土下座なの? もう一回挑戦してもいいよ」
「もういい。何度やっても同じだ」

 私は土下座チャンスを放棄して立ち上がると、運転席に座り直した。

「ええっ~~! 諦めたらダメだよ。何回もやらないと上達しないよ」
「もういい! もう絶対に土下座なんてしない!」
「ほら、特別にもう一回土下座していいから」

 またまた訪れた土下座チャンスも放棄した。小娘達の玩具になるつもりはない。
 パトリとミアが不満を言っているけど、そんなに土下座が見たいなら、二人で交互に見せ合ったらいい。
 私がするよりも何百倍も面白いはずだ。

「はいはい、ジジイで遊ぶのは終わりにして、仕事の話に戻りましょう。無益で無駄な時間にしかならないから」
「はぁ~い」「そうだね」

 テーブルをコツコツと指で叩いて、ケイトが私で遊ばないように注意した。
 最初に土下座しろと言い始めたのが自分だという事を忘れている。
 いや、最初に言い始めたのはパトリだったか……。
 まあ、もうどっちでもいい。二度と土下座なんてしない。

 ♢
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