8 / 50
第8話 小型恐竜ヴェロキラプトル
しおりを挟む
『見つけたよ。ヴェロキラプトルが六匹いるけど、どうする?』
金目の物を探しながら廃都の街を進んでいると、上空のパトリから恐竜発見の連絡がやって来た。
「ちょっと待っていて、すぐに決めるから」
『分かった。一応追跡しているね』
ケイトが首の通信機に向かって素早く答えると、私達を近くに集めた。
小型恐竜でも六対四だと、分が悪いのかと思ったが違うようだ。
「六匹程度なら、私達三人だけでも倒せるけど、あんたはどうするの? 逃げてもいいし、隠れてもいいし、死んでもいいわよ」
ケイトとミアがジーッと私を見ている。
おいおい、やめてくれ。
「やるに決まっている。お前達が倒せるなら、私一人でも余裕で三匹は倒せる」
私はまだまだ現役バリバリ、戦力外通告を受けるには早過ぎる。
鞘から剣を引き抜くと、ヒュンヒュンと両刃の青白い剣を軽やかに振り回した。
三百ヤードは確実だな。
「……それじゃあ、全員参加だね。ギルっちは剣をしまっていいよ。出番はまだまだ先だから」
「パトリ、ジジイも参加するそうよ。恐竜と間違って、銃弾を当てないようにね」
『分かった。出来るだけ間違わないようにする』
「お願い。じゃあ、すぐにそっちに行くから、案内よろしくね」
どこをどう間違ったら私を撃ち殺すのか気になるが、とりあえず、剣は鞘にしまった。
おそらく冗談を言って、緊張を和らげたかったのだろう。
残念ながら、寒い冗談には私はピクリとも笑わなかった。
『そこを左折したら、しばらく直進して』
私達は上空のパトリに道案内されながら、ヴェロキラプトルを目指して進んでいる。
相手は小型恐竜だ。道路の真ん中に生えている樹木や壊れた車の陰に隠れているかもしれない。
六匹以外にいないと油断しない方がいい。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。リングを使っていれば、小型恐竜の攻撃なら数回は耐え切れるんだから」
「甘いな。甘過ぎる。仕事というのは慣れた頃が一番危険なんだ」
「うんうん、その通りだね」
「ふぅ~ん。まあ、好きにすればいいけど。そろそろ見えてくるはずよ。パトリ、どう?」
剣を鞘に入れたままのケイトと違って、私とミアは、剣と拳を構えて戦闘準備万端だ。
冷静沈着なカッコイイ姿を見せたいようだが、自称優秀な奴ほど、よく失敗する。
どんなに優秀な一流の営業マンでも、油断と怠慢で確認作業を疎かにするようになったら、二流、三流に落ちるのは早いからな。
私は二度と失敗するつもりはない。
『そのまま直進して、十字路の交差点を右に進むば直ぐにいるよ。数は六匹のまま変わらないよ』
「了解。パトリは弾を温存して、危ない時だけ援護して。ジジイが一人で三匹倒せるそうだから」
『それは楽しみ。ギル、頑張ってね』
「ああっ、任せておけ」
さっきのは冗談に決まっている。本気にされたら困る。
困るが、ここでしっかりと働かないと、私のポジションが専業主夫に固定されてしまう。
きっと地道に成果を積み上げていけば、兼業主夫、契約社員、正社員と出世できるはずだ。
どのように待遇が変わるか分からないが……。
「クルルゥ」「クルルゥ」
パトリの指示通りに十字路の交差点に到着した。
建物の陰から顔だけ出して、交差点を右に曲がった先を覗いてみる。
そこには鳥の骨格に、茶色と黒の縞模様のトカゲの皮を着せたような生物がいた。
あれがヴェロキラプトルのようだ。
頭の高さは膝より上の太腿付近、全長は約二メートル。
最高時速六十キロという俊敏な速さに、後ろ脚に付いている鋭い鉤爪を活かして獲物を狩るそうだ。
「思ったよりは小さいな。あれなら行けそうだ」
予想よりも随分と弱そうなので安心した。あれなら大型犬とほとんど同じだ。
鋭い牙で噛み付き、後肢の鋭い爪で切りつけて来るだけなら、簡単に避けられる。
それに契約したい相手が馬鹿犬を飼っている場合は、わざと噛まれて契約させるという手もある。
今回は噛まれても何も利益はないから、今まで噛まれた分も含めて、容赦なく足蹴りしてやる。
「一匹ならね。でも、集団で襲われたら手強いのよ。それに身体は金属で出来ている。頑丈な金庫を壊すつもりで攻撃しないと壊せないから」
「そうそう。油断していると、指とか耳とか簡単に喰い千切られるよ。リングを付けていても危ないんだから!」
『あと近くに病院がないから大怪我したら助からないよ。でも、安心して。その時は苦しまないように、一発で楽に殺してあげるから』
「ああ、その時は頼むよ」
やめろ、やめろ、やめろぉー‼︎
せっかく人がやる気を出しているのに、恐ろしい事を次々に教えてくるな。
その前に大怪我した時の対処方法が、殺すというのはマズイだろ。
この職場は危険過ぎる。早めに高性能の医療機器を購入しないと駄目だな。
「はいはい、ジジイへの注意はこの辺にして行くわよ」
「おお!」『いつでもいいよ』「……」
私の心の準備はまだ出来ていないが、三人娘は戦闘を始めたいようだ。
「とにかく、頭を破壊すれば動かなくなる。あんたは頭を集中攻撃すればいい。分かった!」
「頭だな。分かった」
戦闘前にケイトが頭部攻撃を念押ししてきた。
でも、そんなの当たり前だ。大抵の生き物は頭が壊れたら動かなくなる。
こっちは虫と魚しか殺した事がないのに、いきなり小型恐竜はハードルが高過ぎる。
「ジジイは右、ミアは真ん中、私は左、パトリは全体をカバーして——三、二、一、ゴー!」
カウントダウンが終わると同時に、私はケイト達と一緒に勢いよく走り出した。
間隔を開けて散らばっているヴェロキラプトルは、見えるだけで四匹いる。
道路中央の車の上に一匹、左側に並んで二匹、右側に一匹。
道路の横幅は五十メートル以上と広く、陥没した地面にさえ気をつければ、戦いやすいと思う。
「ふぅ、ふぅ……」
心臓がバクバク、ドキドキとかなり緊張している。
接待ゴルフや商談とは違った緊張感がある。
これがまさに命懸けの仕事という奴なのかもしれない。
こんな危険な仕事を娘に三年間もやらせていたと思うと、父親として複雑な気分になる。
まあ、他にも仕事は沢山あったはずだ。
ケイトが社会のルールに縛られずに、自由気ままに危険な仕事をやりたかっただけだろう。
私が気にする必要はまったくないな。
「かかって来い!」
「グルルゥ!」
「来い。さあ、来い!」
正面五メートル先のヴェロキラプトルに向かって、両手で剣を握って、野球選手のように構える。
お互いに警戒しているのは分かっている。私から動きたくはないが、動かなければ始まらない。
ジリジリと前進して距離を縮めていく。
そして、ヴェロキラプトルが飛びかかって来た瞬間に、剣を水平にフルスイングする。
首か胴体のどっちらかが真っ二つになって、飛んでいくはずだ。
「クルル、クルル、クルル」
「……?」
距離、三メートル。
ラプトルはクルルと何度も鳴いているだけで襲って来ない。
何か狙いがあると思ったが、単純な事だった。
ヴェロキラプトルの後方から別の二匹が現れた。
仲間を呼んでいたようだ。
「グルルゥ」「グルルゥ」「グルルゥ」
「三対一……まさかの予定通りだな。パトリ、援護を頼む」
三匹のヴェロキラプトルは鋭い牙をカチカチと打ち鳴らして威嚇してくる。
私を脅して楽しんでいるようだが、こっちにも援護射撃してくれる頼もしい仲間がいる。
この大ピンチなら助けてくれるはずだ。早速、私は首の無線機から助けを呼んだ。
「パトリ、聞こえているか? 援護を頼む」
『…………』
待つ事、六秒。援護射撃は来ない。
「パトリ? おい、パトリ?」
『…………』
無線機を持つ全員に私の声は聞こえているはずだ。
でも、誰からも返事が返って来ない。
忙しいから自力で頑張れという事かもしれないが、多分違う。
私の冗談を本気にして、私に三匹倒させるつもりだ。
コイツらイカれてやがる。
ツゥーと嫌な汗が背中を流れるが、冷静に行動しないと取り返しが付かない事態になる。
突撃は囲まれたら危ない。逃げたら後ろから飛びかかられるだけ。
いや、逃げたら飛びかかって来るなら、狙い球の真っ直ぐのストレートが飛んで来るようなものだ。
そこを狙い打ちにすればいい。
「よし! 捕まえてみろ!」
答えが決まると私はダッーと走り出した。
「グルルゥ!」と狙い通りに三匹が追って来た。
背中を見せた相手を襲うのは、野生動物の本能みたいなものだ。
あとは狙い通りに飛びかかり攻撃を待つだけだが、待つ必要はなかった。
血気盛んな三匹が同時に飛びかかってきた。
空気を読んで一匹ずつ飛びかかって来てほしかったが、これは野球ではない。
ルール無用の殺し合いだ。
「こなぁくそぉー‼︎」
ブォーン‼︎ 私に向かって飛んで来る三匹の危険球に、怒り任せに剣をフルスイングした。
ミスリルの刃は右から左に、二匹のヴェロキラプトルの首の付け根を両断して、三匹目でガァンと止まってしまった。
二匹を倒して、一匹が生き残り、三匹全部が私の身体にのしかかって、私を地面に押し倒した。
「がふっ! このぉ~!」
「グルルゥ! グルルゥ!」
ガチ、ガチ、ガチ!
牙を打ち鳴らして、生き残った一匹が私の顔面を噛み付こうとする。
剣の腹をヴェロキラプトルの首に押し当てて、両手で必死に押し返そうとするが、これはちょっと無理そうだ。
こういう時は落ち着いて冷静に考えないといけないが、これも無理だ。
急いで首の無線機に三度目の救援要請を出した。
「うぐぐぐぐっ! パトリ、助けてくれ! 本気でヤバイ!」
『えっ、あと一匹だよ。頑張って倒さなくていいの?』
「いい! 全然いい! 早く助けてくれ!」
『……了解。狙いを定めるから、そのまま動かないで』
「分かったから、早くして!」
動きたくても動けないから問題なかった。
それにしても、この状態になるまで助けないなんて、どうかしている。
「何だ⁉︎」
ドガッ! しばらく待っていると、顔のすぐ右側の地面から変な音が聞こえた。
『ごめん、外しちゃった。次は当てるね』
「……」
誰に?
パトリは一発目を外して地面を撃ち抜いた。
でも、すぐに二発目を撃って、ヴェロキラプトルの頭をブチ撃ち抜いてみせた。
頭部を破壊されたヴェロキラプトルが、私の上にドサァと倒れてきた。
「はぁ、はぁ、私に当たったらどうするつもりなんだ」
命中率五十パーセント。
この援護射撃は出来るだけ使わないようにしたい。
失敗して、私の頭を撃ち抜かれたら、たまったもんじゃない。
♢
金目の物を探しながら廃都の街を進んでいると、上空のパトリから恐竜発見の連絡がやって来た。
「ちょっと待っていて、すぐに決めるから」
『分かった。一応追跡しているね』
ケイトが首の通信機に向かって素早く答えると、私達を近くに集めた。
小型恐竜でも六対四だと、分が悪いのかと思ったが違うようだ。
「六匹程度なら、私達三人だけでも倒せるけど、あんたはどうするの? 逃げてもいいし、隠れてもいいし、死んでもいいわよ」
ケイトとミアがジーッと私を見ている。
おいおい、やめてくれ。
「やるに決まっている。お前達が倒せるなら、私一人でも余裕で三匹は倒せる」
私はまだまだ現役バリバリ、戦力外通告を受けるには早過ぎる。
鞘から剣を引き抜くと、ヒュンヒュンと両刃の青白い剣を軽やかに振り回した。
三百ヤードは確実だな。
「……それじゃあ、全員参加だね。ギルっちは剣をしまっていいよ。出番はまだまだ先だから」
「パトリ、ジジイも参加するそうよ。恐竜と間違って、銃弾を当てないようにね」
『分かった。出来るだけ間違わないようにする』
「お願い。じゃあ、すぐにそっちに行くから、案内よろしくね」
どこをどう間違ったら私を撃ち殺すのか気になるが、とりあえず、剣は鞘にしまった。
おそらく冗談を言って、緊張を和らげたかったのだろう。
残念ながら、寒い冗談には私はピクリとも笑わなかった。
『そこを左折したら、しばらく直進して』
私達は上空のパトリに道案内されながら、ヴェロキラプトルを目指して進んでいる。
相手は小型恐竜だ。道路の真ん中に生えている樹木や壊れた車の陰に隠れているかもしれない。
六匹以外にいないと油断しない方がいい。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。リングを使っていれば、小型恐竜の攻撃なら数回は耐え切れるんだから」
「甘いな。甘過ぎる。仕事というのは慣れた頃が一番危険なんだ」
「うんうん、その通りだね」
「ふぅ~ん。まあ、好きにすればいいけど。そろそろ見えてくるはずよ。パトリ、どう?」
剣を鞘に入れたままのケイトと違って、私とミアは、剣と拳を構えて戦闘準備万端だ。
冷静沈着なカッコイイ姿を見せたいようだが、自称優秀な奴ほど、よく失敗する。
どんなに優秀な一流の営業マンでも、油断と怠慢で確認作業を疎かにするようになったら、二流、三流に落ちるのは早いからな。
私は二度と失敗するつもりはない。
『そのまま直進して、十字路の交差点を右に進むば直ぐにいるよ。数は六匹のまま変わらないよ』
「了解。パトリは弾を温存して、危ない時だけ援護して。ジジイが一人で三匹倒せるそうだから」
『それは楽しみ。ギル、頑張ってね』
「ああっ、任せておけ」
さっきのは冗談に決まっている。本気にされたら困る。
困るが、ここでしっかりと働かないと、私のポジションが専業主夫に固定されてしまう。
きっと地道に成果を積み上げていけば、兼業主夫、契約社員、正社員と出世できるはずだ。
どのように待遇が変わるか分からないが……。
「クルルゥ」「クルルゥ」
パトリの指示通りに十字路の交差点に到着した。
建物の陰から顔だけ出して、交差点を右に曲がった先を覗いてみる。
そこには鳥の骨格に、茶色と黒の縞模様のトカゲの皮を着せたような生物がいた。
あれがヴェロキラプトルのようだ。
頭の高さは膝より上の太腿付近、全長は約二メートル。
最高時速六十キロという俊敏な速さに、後ろ脚に付いている鋭い鉤爪を活かして獲物を狩るそうだ。
「思ったよりは小さいな。あれなら行けそうだ」
予想よりも随分と弱そうなので安心した。あれなら大型犬とほとんど同じだ。
鋭い牙で噛み付き、後肢の鋭い爪で切りつけて来るだけなら、簡単に避けられる。
それに契約したい相手が馬鹿犬を飼っている場合は、わざと噛まれて契約させるという手もある。
今回は噛まれても何も利益はないから、今まで噛まれた分も含めて、容赦なく足蹴りしてやる。
「一匹ならね。でも、集団で襲われたら手強いのよ。それに身体は金属で出来ている。頑丈な金庫を壊すつもりで攻撃しないと壊せないから」
「そうそう。油断していると、指とか耳とか簡単に喰い千切られるよ。リングを付けていても危ないんだから!」
『あと近くに病院がないから大怪我したら助からないよ。でも、安心して。その時は苦しまないように、一発で楽に殺してあげるから』
「ああ、その時は頼むよ」
やめろ、やめろ、やめろぉー‼︎
せっかく人がやる気を出しているのに、恐ろしい事を次々に教えてくるな。
その前に大怪我した時の対処方法が、殺すというのはマズイだろ。
この職場は危険過ぎる。早めに高性能の医療機器を購入しないと駄目だな。
「はいはい、ジジイへの注意はこの辺にして行くわよ」
「おお!」『いつでもいいよ』「……」
私の心の準備はまだ出来ていないが、三人娘は戦闘を始めたいようだ。
「とにかく、頭を破壊すれば動かなくなる。あんたは頭を集中攻撃すればいい。分かった!」
「頭だな。分かった」
戦闘前にケイトが頭部攻撃を念押ししてきた。
でも、そんなの当たり前だ。大抵の生き物は頭が壊れたら動かなくなる。
こっちは虫と魚しか殺した事がないのに、いきなり小型恐竜はハードルが高過ぎる。
「ジジイは右、ミアは真ん中、私は左、パトリは全体をカバーして——三、二、一、ゴー!」
カウントダウンが終わると同時に、私はケイト達と一緒に勢いよく走り出した。
間隔を開けて散らばっているヴェロキラプトルは、見えるだけで四匹いる。
道路中央の車の上に一匹、左側に並んで二匹、右側に一匹。
道路の横幅は五十メートル以上と広く、陥没した地面にさえ気をつければ、戦いやすいと思う。
「ふぅ、ふぅ……」
心臓がバクバク、ドキドキとかなり緊張している。
接待ゴルフや商談とは違った緊張感がある。
これがまさに命懸けの仕事という奴なのかもしれない。
こんな危険な仕事を娘に三年間もやらせていたと思うと、父親として複雑な気分になる。
まあ、他にも仕事は沢山あったはずだ。
ケイトが社会のルールに縛られずに、自由気ままに危険な仕事をやりたかっただけだろう。
私が気にする必要はまったくないな。
「かかって来い!」
「グルルゥ!」
「来い。さあ、来い!」
正面五メートル先のヴェロキラプトルに向かって、両手で剣を握って、野球選手のように構える。
お互いに警戒しているのは分かっている。私から動きたくはないが、動かなければ始まらない。
ジリジリと前進して距離を縮めていく。
そして、ヴェロキラプトルが飛びかかって来た瞬間に、剣を水平にフルスイングする。
首か胴体のどっちらかが真っ二つになって、飛んでいくはずだ。
「クルル、クルル、クルル」
「……?」
距離、三メートル。
ラプトルはクルルと何度も鳴いているだけで襲って来ない。
何か狙いがあると思ったが、単純な事だった。
ヴェロキラプトルの後方から別の二匹が現れた。
仲間を呼んでいたようだ。
「グルルゥ」「グルルゥ」「グルルゥ」
「三対一……まさかの予定通りだな。パトリ、援護を頼む」
三匹のヴェロキラプトルは鋭い牙をカチカチと打ち鳴らして威嚇してくる。
私を脅して楽しんでいるようだが、こっちにも援護射撃してくれる頼もしい仲間がいる。
この大ピンチなら助けてくれるはずだ。早速、私は首の無線機から助けを呼んだ。
「パトリ、聞こえているか? 援護を頼む」
『…………』
待つ事、六秒。援護射撃は来ない。
「パトリ? おい、パトリ?」
『…………』
無線機を持つ全員に私の声は聞こえているはずだ。
でも、誰からも返事が返って来ない。
忙しいから自力で頑張れという事かもしれないが、多分違う。
私の冗談を本気にして、私に三匹倒させるつもりだ。
コイツらイカれてやがる。
ツゥーと嫌な汗が背中を流れるが、冷静に行動しないと取り返しが付かない事態になる。
突撃は囲まれたら危ない。逃げたら後ろから飛びかかられるだけ。
いや、逃げたら飛びかかって来るなら、狙い球の真っ直ぐのストレートが飛んで来るようなものだ。
そこを狙い打ちにすればいい。
「よし! 捕まえてみろ!」
答えが決まると私はダッーと走り出した。
「グルルゥ!」と狙い通りに三匹が追って来た。
背中を見せた相手を襲うのは、野生動物の本能みたいなものだ。
あとは狙い通りに飛びかかり攻撃を待つだけだが、待つ必要はなかった。
血気盛んな三匹が同時に飛びかかってきた。
空気を読んで一匹ずつ飛びかかって来てほしかったが、これは野球ではない。
ルール無用の殺し合いだ。
「こなぁくそぉー‼︎」
ブォーン‼︎ 私に向かって飛んで来る三匹の危険球に、怒り任せに剣をフルスイングした。
ミスリルの刃は右から左に、二匹のヴェロキラプトルの首の付け根を両断して、三匹目でガァンと止まってしまった。
二匹を倒して、一匹が生き残り、三匹全部が私の身体にのしかかって、私を地面に押し倒した。
「がふっ! このぉ~!」
「グルルゥ! グルルゥ!」
ガチ、ガチ、ガチ!
牙を打ち鳴らして、生き残った一匹が私の顔面を噛み付こうとする。
剣の腹をヴェロキラプトルの首に押し当てて、両手で必死に押し返そうとするが、これはちょっと無理そうだ。
こういう時は落ち着いて冷静に考えないといけないが、これも無理だ。
急いで首の無線機に三度目の救援要請を出した。
「うぐぐぐぐっ! パトリ、助けてくれ! 本気でヤバイ!」
『えっ、あと一匹だよ。頑張って倒さなくていいの?』
「いい! 全然いい! 早く助けてくれ!」
『……了解。狙いを定めるから、そのまま動かないで』
「分かったから、早くして!」
動きたくても動けないから問題なかった。
それにしても、この状態になるまで助けないなんて、どうかしている。
「何だ⁉︎」
ドガッ! しばらく待っていると、顔のすぐ右側の地面から変な音が聞こえた。
『ごめん、外しちゃった。次は当てるね』
「……」
誰に?
パトリは一発目を外して地面を撃ち抜いた。
でも、すぐに二発目を撃って、ヴェロキラプトルの頭をブチ撃ち抜いてみせた。
頭部を破壊されたヴェロキラプトルが、私の上にドサァと倒れてきた。
「はぁ、はぁ、私に当たったらどうするつもりなんだ」
命中率五十パーセント。
この援護射撃は出来るだけ使わないようにしたい。
失敗して、私の頭を撃ち抜かれたら、たまったもんじゃない。
♢
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる