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12・剣対槍
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「さっきの奴も見たことないけど、あの子供も見たことないわね」
そりゃーそうだ。さっきの人は昨日、僕は今日来たばかりだ。
顔見知りなんていない。まあ、顔はもう今日覚えられると思うけどね。
いい意味でも悪い意味でもね。
「あの身長と身体つきなら、9歳ぐらいか。スキルはまだ持ってないだろうな」
「でも、見て。あの修行着。あんなにボロボロになるなんて相当鍛えてないと無理よ」
「つまり、かなりの実力者ってわけか。この試合、面白くなるかもな」
借りた木剣と一緒に道場の中央まで行くと、今度は僕を品定めする声が聞こえてきた。
残念だけど、9歳じゃなく5歳だ。服がボロボロなのは洗濯が得意な人も裁縫が得意な人もいないからだ。
「悪いけど、手加減するつもりないから」
「お手柔らかにお願いします」
丸坊主に近い、青黒い短髪。凛々しい顔立ちはまさに捕食者だ。
これで一昨日、道場に来たばかりの人なら、僕でも良い勝負が見せられるかもしれない。
もちろんそんなことはありえない。
「構え——」
前の試合を二つ見たから流れは分かっている。木剣をグッと両手で握って構えた。
この審判の人が勝者と敗者を決めて、試合の始まりも決めている。
この次の、
「始め!」
これで試合が始まる。まずは無理に突っ込まずに様子見だ。
槍の人は槍の長い柄を右手で前、左手で後ろの方を持って構えている。
殴り合いは百回以上も経験しているけど、武器は未経験だ。
「フゥッ!」
「‼︎」
先に動いたのは槍の人だった。
息を短く吐き出し素早く踏み込むと、槍を真っ直ぐ突き出してきた。
「ががぁう……!」
槍の石突が僕の左胸の少し下に激突した。まったく反応できなかった。
これが反対側の矛先だったら、突き刺さって死んでいたかも。
「ぐはぁ……!」
それでも突きの威力で吹き飛ばされて、床に倒されてしまった。
「フンッ。口ほどにもない。これで勘弁してあげるから、腰抜けの友達の所に行きな」
「…………」
立ち上がらない僕を見て、槍の人が背中を向けて壁に歩き出した。
えっ? この僕をたったの一撃で倒せると思ったの。
一日何回死にかけていると思っているの。
「ぐぐっ、トイレならそっちじゃないよ」
「「「おおっ!」」」
剣先を床に突き立て立ち上がると、槍の人の背中に切っ先を向けた。
観客達が湧き上がり、槍の人が僕の方に振り向いた。
「……あっちと違って根性はあるみたいだね。だけど、それだけで勝てるほど甘くはないよ」
そんなのは知っている。
でも、さっきの一撃は、僕を日常的に暴行している姉弟子達の五分の一程度だ。
手加減されていたとしても、あの程度の攻撃を喰らって逃げ帰れるわけにはいかない。
こっちは火炙りの刑をサボって来ているんだ。何でもいいから強くなるヒントが欲しい。
「行きます」
「言わなくてもいいよ。どこからでも来な」
「じゃあ遠慮なく!」
痛いのは我慢する。木剣をしっかり両手で握って突撃した。
百発喰らっても、一発ぶち込んでやる。
まずは上段からの振り下ろしだ。
クソ素人にこれしか教えられてない。
そして当然、軽々躱されてしまった。
くっ、と悔しさを顔に滲ませてしまうけど、まだまだこれからだ。
短剣の人の試合を見て知っている。剣は縦にも横にも振っていい。
「ていゃあー!」
回避直後の槍の人に向かって、真横に振り回した。
だけど、縦に構えられた槍の柄に受け止められてしまった。
「……遊びはもう充分でしょ?」
「‼︎」
槍の人の気配が変わった。悪い意味で。
弧を描くように槍を数回振り回して、木剣を振り払った。
そして、そのまま槍の両端が次々と僕に襲いかかった。
「あぐっ、げろぇ、はぷぅ!」
右足の脛打ち、右こめかみ打ち、下からの顎打ち上げ——
「終わりだよ。脳天砕き!」
「ごべん!」
一秒にも満たない三連撃の最後に、頭上高くから重い一撃が降ってきた。
その一撃によって僕は再び地面に倒された。
「終わりだな。あれ喰らって立てる子供なんて……」
「ぐぐぐっ……」
「おい、嘘だろ!」
観客の誰かが勝手に試合終了しようとしてた。
悪いけど、そのつもりはない。地面に両手をつけて再び立ち上がった。
こんなの殴られの準備運動にもならない。
「見かけよりタフだね。でも、もうやめときな。これ以上やると怪我じゃ済まなくなるよ」
「ごほぉ、ごほぉ……ご心配なく。まだ怪我一つしてないですから」
「ハァッ。だったらさせてやろうじゃないか!」
どうやら本気になったみたいだ。
石突ではなく、槍の矛先を向けてきた。
僕は最初から本気だったけどね。
「あだだだだだだ!」
凄まじい槍の乱れ突きが、僕の身体を殺しにやってきた。
倒れる暇もなく、立ったまま後退りながら槍の狂撃に耐え続ける。
この技術力、間違いなく玄人だ。昨日、今日、槍を握った素人じゃない。
そんな相手を倒す方法は一つしか思いつかない。
木剣を捨てると槍の一撃を腹に喰らって、止まった槍の矛先を両手で掴んだ。
「——ッ‼︎」
「ハァハァ、つ、捕まえた……」
槍の人が驚いているけど、驚くのはこれからだ。
槍を掴んだまま、その柄に向かって全力の膝蹴りをぶち込んだ。
「ハァッ!」
渾身の一撃が槍を破壊した。
木片が飛び散り、槍の人が悔しそうに舌打ちした。
「お返しだ!」
反撃開始だ。掴んだままの折れた槍の一部を投げ捨てると、《剛氣・剛拳》と右拳に最大の氣を溜め込んだ。
チャンスは一度。この一撃に全てを懸ける。槍の人の腹に向かって、僕の全力を叩きつけた。
「ぐぅっ……!」
叩き込んだ。叩き込んだのに一歩も動かずに耐えきられて、
「うがぁあああ‼︎」
「——ゴベェ!」
すぐさま反撃の裏拳が僕の顔面を強打した。
槍の一撃とは段違いだ。姉弟子の拳の1・5倍は痛い。
手加減なしの一撃に、僕は殴り飛ばされて地面を派手に転がされた。
そりゃーそうだ。さっきの人は昨日、僕は今日来たばかりだ。
顔見知りなんていない。まあ、顔はもう今日覚えられると思うけどね。
いい意味でも悪い意味でもね。
「あの身長と身体つきなら、9歳ぐらいか。スキルはまだ持ってないだろうな」
「でも、見て。あの修行着。あんなにボロボロになるなんて相当鍛えてないと無理よ」
「つまり、かなりの実力者ってわけか。この試合、面白くなるかもな」
借りた木剣と一緒に道場の中央まで行くと、今度は僕を品定めする声が聞こえてきた。
残念だけど、9歳じゃなく5歳だ。服がボロボロなのは洗濯が得意な人も裁縫が得意な人もいないからだ。
「悪いけど、手加減するつもりないから」
「お手柔らかにお願いします」
丸坊主に近い、青黒い短髪。凛々しい顔立ちはまさに捕食者だ。
これで一昨日、道場に来たばかりの人なら、僕でも良い勝負が見せられるかもしれない。
もちろんそんなことはありえない。
「構え——」
前の試合を二つ見たから流れは分かっている。木剣をグッと両手で握って構えた。
この審判の人が勝者と敗者を決めて、試合の始まりも決めている。
この次の、
「始め!」
これで試合が始まる。まずは無理に突っ込まずに様子見だ。
槍の人は槍の長い柄を右手で前、左手で後ろの方を持って構えている。
殴り合いは百回以上も経験しているけど、武器は未経験だ。
「フゥッ!」
「‼︎」
先に動いたのは槍の人だった。
息を短く吐き出し素早く踏み込むと、槍を真っ直ぐ突き出してきた。
「ががぁう……!」
槍の石突が僕の左胸の少し下に激突した。まったく反応できなかった。
これが反対側の矛先だったら、突き刺さって死んでいたかも。
「ぐはぁ……!」
それでも突きの威力で吹き飛ばされて、床に倒されてしまった。
「フンッ。口ほどにもない。これで勘弁してあげるから、腰抜けの友達の所に行きな」
「…………」
立ち上がらない僕を見て、槍の人が背中を向けて壁に歩き出した。
えっ? この僕をたったの一撃で倒せると思ったの。
一日何回死にかけていると思っているの。
「ぐぐっ、トイレならそっちじゃないよ」
「「「おおっ!」」」
剣先を床に突き立て立ち上がると、槍の人の背中に切っ先を向けた。
観客達が湧き上がり、槍の人が僕の方に振り向いた。
「……あっちと違って根性はあるみたいだね。だけど、それだけで勝てるほど甘くはないよ」
そんなのは知っている。
でも、さっきの一撃は、僕を日常的に暴行している姉弟子達の五分の一程度だ。
手加減されていたとしても、あの程度の攻撃を喰らって逃げ帰れるわけにはいかない。
こっちは火炙りの刑をサボって来ているんだ。何でもいいから強くなるヒントが欲しい。
「行きます」
「言わなくてもいいよ。どこからでも来な」
「じゃあ遠慮なく!」
痛いのは我慢する。木剣をしっかり両手で握って突撃した。
百発喰らっても、一発ぶち込んでやる。
まずは上段からの振り下ろしだ。
クソ素人にこれしか教えられてない。
そして当然、軽々躱されてしまった。
くっ、と悔しさを顔に滲ませてしまうけど、まだまだこれからだ。
短剣の人の試合を見て知っている。剣は縦にも横にも振っていい。
「ていゃあー!」
回避直後の槍の人に向かって、真横に振り回した。
だけど、縦に構えられた槍の柄に受け止められてしまった。
「……遊びはもう充分でしょ?」
「‼︎」
槍の人の気配が変わった。悪い意味で。
弧を描くように槍を数回振り回して、木剣を振り払った。
そして、そのまま槍の両端が次々と僕に襲いかかった。
「あぐっ、げろぇ、はぷぅ!」
右足の脛打ち、右こめかみ打ち、下からの顎打ち上げ——
「終わりだよ。脳天砕き!」
「ごべん!」
一秒にも満たない三連撃の最後に、頭上高くから重い一撃が降ってきた。
その一撃によって僕は再び地面に倒された。
「終わりだな。あれ喰らって立てる子供なんて……」
「ぐぐぐっ……」
「おい、嘘だろ!」
観客の誰かが勝手に試合終了しようとしてた。
悪いけど、そのつもりはない。地面に両手をつけて再び立ち上がった。
こんなの殴られの準備運動にもならない。
「見かけよりタフだね。でも、もうやめときな。これ以上やると怪我じゃ済まなくなるよ」
「ごほぉ、ごほぉ……ご心配なく。まだ怪我一つしてないですから」
「ハァッ。だったらさせてやろうじゃないか!」
どうやら本気になったみたいだ。
石突ではなく、槍の矛先を向けてきた。
僕は最初から本気だったけどね。
「あだだだだだだ!」
凄まじい槍の乱れ突きが、僕の身体を殺しにやってきた。
倒れる暇もなく、立ったまま後退りながら槍の狂撃に耐え続ける。
この技術力、間違いなく玄人だ。昨日、今日、槍を握った素人じゃない。
そんな相手を倒す方法は一つしか思いつかない。
木剣を捨てると槍の一撃を腹に喰らって、止まった槍の矛先を両手で掴んだ。
「——ッ‼︎」
「ハァハァ、つ、捕まえた……」
槍の人が驚いているけど、驚くのはこれからだ。
槍を掴んだまま、その柄に向かって全力の膝蹴りをぶち込んだ。
「ハァッ!」
渾身の一撃が槍を破壊した。
木片が飛び散り、槍の人が悔しそうに舌打ちした。
「お返しだ!」
反撃開始だ。掴んだままの折れた槍の一部を投げ捨てると、《剛氣・剛拳》と右拳に最大の氣を溜め込んだ。
チャンスは一度。この一撃に全てを懸ける。槍の人の腹に向かって、僕の全力を叩きつけた。
「ぐぅっ……!」
叩き込んだ。叩き込んだのに一歩も動かずに耐えきられて、
「うがぁあああ‼︎」
「——ゴベェ!」
すぐさま反撃の裏拳が僕の顔面を強打した。
槍の一撃とは段違いだ。姉弟子の拳の1・5倍は痛い。
手加減なしの一撃に、僕は殴り飛ばされて地面を派手に転がされた。
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