長崎奉行所拷問官・鬼頭仁之助

絞首刑

　鬼頭仁之助は牢屋に入れられた囚人の1人に手製のうどんを振舞った。

　20人以上の容疑者や囚人を収容出来る長崎奉行所の牢屋には4人の凶悪犯が閉じ込められていた。

　岩助(がんすけ)なる男は諍いの末に、同じ長屋の和平(わへい)とお清(おきよ)を包丁で刺し殺し、止めに入った文吉(ぶんきち)に重傷を負わせた罪で、厳しい訊問を受けていた。

　岩助は鬼頭の手製うどんを一口だけ食べると『ペッペェ！』と吐き出して「なんだこれ？クソ不味いもん食べさせるな！」と鬼頭に中身がほとんど残っているうどんの丼を返しました。

　鬼頭「済まなかったな。明日はもっと美味いうどんを用意するから、今日は饅頭で我慢してくれ！」と手のひら大の饅頭を2個、岩助に渡しました。

　岩助「あと酒も用意してくれないか！饅頭だけじゃあ、物足りないだろ？」とニヤニヤと要求してきます。鬼頭は酒は明日用意すると返答して、その日は帰りました。

　その日の夜、静まり返った牢屋に不気味な歌声が聞こえてくる。？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！こっちの肉は不味いぞ！こっちの肉は美味そうだ！ほーほーホ～タル来い！』と岩助の牢屋の前を通ると、手に持った血だらけの服を空の牢屋に投げ入れた。

　岩助は恐怖のあまり声も出さずに寝たフリを続けた！『ガァチャガァチャカァチャ！』と錠前が開けられる音が聞こえると、今度は『ズッーズッーズッー！』と何かが引き摺られる音が聞こえてきた。

　岩助は薄眼を開けて、引き摺られているものを確認すると『ズッーズッーズッー！』と死んだ様に動かない男がボロボロの服を着た何かに引き摺られていた。

　岩助は翌日、手製のうどんを持ってきた鬼頭に昨夜の出来事を話すと『はっはっはっ！』と笑われてしまった。岩助はうどんを食べると「美味い！」と一言だけ言って、うどんを全部平らげてしまった。

　その夜、岩助は鬼頭から渡された酒瓶の酒を『ちびちび』と呑んでいました。？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！』と例の不気味な歌声が聞こえてくると岩助は急いで通路側を向いて寝たフリをします。

　？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！あっちの肉は美味かった！こっちの肉は不味そうだ！ほーほーホ～タル来い！』と昨夜の男が着ていた服を手に持っていた！服には血がベットリと染み付いている。

　通路の曲がり角の牢屋から『ガァチャガァチャカァチァ！』と錠前が開けられる音が聞こえてくる。『ズッーズッーズッー！』と何かが引き摺られる音が聞こえてきた！岩助は恐る恐る確認すると昨夜の男とは別の男が引き摺られていた。

　岩助は翌日、酒瓶と手製のうどんを持って来た鬼頭に昨夜の出来事を話すと『はっはっはっ！』と笑われて「作り話も大概にしなさい！囚人が消えていたら、今頃奉行所は大慌てで探し回っているぞ！それも２人もだ！」と『はっはっはっ！』ともう一度笑うと鬼頭は帰って行った。

　その夜も岩助は酒瓶の中の酒を『ちびちび』と呑んでいました。？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！』と例の歌声が聞こえてきた。岩助はまた通路側を向いて寝たフリをする。今日は昨日と違い酔いが回るのが早い様だ。

　？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！あっちの肉は残された！こっちの肉は不味そうだ！ほーほーホ～タル来い！』と通路の曲がり角の空の牢屋に血だらけの服を投げ入れる。岩助の居る牢屋に手ぶらで戻ってくると、２つ隣の牢屋の錠前を『ガァチャガァチャガァチャ！』と弄っている。

　？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！あっちの肉は間違いだ！こっちの肉が食べたいなぁ！ほーほーホ～タル来い！」と岩助の牢屋の錠前を『ガァチャガァチャカァチァ！』と開けると意識の朦朧としている岩助を『ズッーズッーズッー！』と牢屋から引き摺って行く。

　？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！』と岩助は引き摺られて行く。

　岩助の２つ隣の囚人が翌日「本当なんだ！もう3人連れて行かれた！今日は俺の番だ！こんなところには居たくない！さっさと別の場所に連れて行ってくれ！」と酒瓶と手製のうどんを鬼頭から渡される。囚人は一口だけ食べると『ペッペェ！』と吐き出して「なんでこんなに不味いんだ！この前のやつはあんなに美味かったのに？」と鬼頭にうどんを突き返しました。

　？『ほーほーホ～タル来い！ほーほーホ～タル来い！こっちの肉は不味いぞ！最後の肉は分からない！ほーほーホ～タル来い！』

　《めでたし、めでたし》