上 下
2 / 14

百叩きの刑

しおりを挟む
 南蛮船から積み荷の一部を盗んだ疑いで甚吉(じんきち)なる男が長崎奉行所の拷問部屋に放り込まれる。

 遠山景晋「さっさと盗んだ物の隠し場所を吐かないか!これ以上は庇い立て出来ないぞ!」と南蛮人から要求された甚吉引き渡し期日が迫っています。

 甚吉「お奉行様!盗んでもいない物をどうやって返せばいいのか、オラに教えてくださいよ。お奉行様は賢い人だから分かるでしょう」と景晋に甚吉が盗んだ物を肩代わりさせようとします。

 遠山景晋「お主、儂に盗んだ物の代わりを用意しろと言っているのか!えぇい!鬼頭を呼べ!この狡賢い小悪党を拷問してやれ!」と外の役人に急いで鬼頭を連れて来るように指示した。

 甚吉は拷問という言葉に反応したが、盗んだ物を売り払えば、大金が手に入る。そう思えば、骨の一本や二本折られるのも、肉が裂かれるのも耐え切る覚悟があった。

 遠山景晋「儂に隠し場所を吐かなかった事を後悔しろ!」と拷問部屋を出て行ってしまいました。

 しばらくすると『スゥ~!』と拷問部屋の扉がゆっくりと開いていきます。

 鬼頭仁之助は甚吉なる人物の両肩に手を置いて、肩を揉み始めました。甚吉は黙って肩を揉まれ続けました。

 鬼頭「準備はいいな?早速、始めるぞ!」と甚吉の前の椅子に座ると鬼の形相で甚吉を睨みつけました。

 甚吉は恐怖で『ひぃ~ぃ!』と短い悲鳴を上げると股下から生温かいものが流れます。

 鬼頭は甚吉のションベンの臭いに顔をしかめます。鬼頭はゆっくりと拷問を開始しました。

 鬼頭「『ピィピィ、ピィピィ、ピィ、チィチィ!』今日も木の上でスズメのスちゃんとズちゃんとメちゃんは3人仲良くおしゃべりをしています。ズちゃん『なんだか最近、とっても身体が重いんだ!飛ぶのも一苦労だよ!』となんだか顔色も良くありません。メちゃん『ミミズの食べ過ぎだよ!この前も蛇みたいに大きなミミズを食べようとしてたんだから!』と食いしん坊のズちゃんをからかいます」とスズメの鳴き真似から始まり、ゆっくりと丁寧に甚吉に伝わるように話します。

 甚吉はスズメが喋るわけないだろうが!さっさと拷問を始めろよ!と思っていました。

 鬼頭「ズちゃん『僕もうだめだ!』と木の上からズちゃんは真っ逆さまに落ちて死んでしまいました。スちゃん『大変だ、大変だ!ズちゃんが死んじゃった!メちゃんどうしよう?』と大慌てです。メちゃんは落ち着いて答えます『お葬式あげよう!今日はズちゃんのお葬式だよ!』と『ピィピィ!』と悲しそうな鳴き声です」と話し続けます。

 甚吉はどうして、ズちゃん死ぬんだよ!ずっと3人一緒だって約束したじゃないか!と話しを聞き続けています。

 鬼頭「スちゃんとメちゃんは日の当たる場所を探して、ズちゃんを嘴で運びます。スちゃん『ズちゃん、重過ぎだよ!』とスちゃんとメちゃんは大笑いです。2人は街道までズちゃんを運ぶと、メちゃん『ここが良いわ!通る人も多いし、明るくてミミズもいるはずよ!』スちゃん『じゃあ、お墓を作ろう!この辺の土が柔らかそうだ!』と街道の地面を嘴で『コッコッ!』叩きます。メちゃんも『コッコッ!』と地面を嘴で叩きます。スちゃんとメちゃんは『コッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッコッ!』と時間も忘れて穴を掘り続けます」と話し続けます。

 甚吉はスちゃんとメちゃんの小さな嘴で穴を掘り続ける姿を想像して、目を潤ませながら、話しを聞き続けます。

 鬼頭「スちゃん『やった完成だぁ!』と大喜びです。メちゃん『今度のお友達はもうちょっと痩せている子にしましょう!』とスちゃんとメちゃんは大笑いです。ちょうどその時、街道を歩いていたお侍さんがスちゃんとメちゃんが掘った穴につまづいてしまいました。お侍さん『誰だ!こんな所に穴を掘った不届き者は?』とカンカンに怒っています。メちゃんは慌てて飛んで行くと『ごめんなさい、お侍さん!私が掘りました!』と謝ります。お侍さんは刀を抜くと『この無礼者が!』とメちゃんを叩き斬ってしまいました。スちゃん『お侍さんの馬鹿!お侍さんの馬鹿!』と泣きながら飛び立ってしまいました」と話し続けます。

 甚吉は問答無用で無礼討ちした、お侍さんにカンカンです。1人残されたスちゃんのことが気になり、話しを聞き続けます。

 鬼頭「お侍さんはカンカンになって、刀を振り回して、スちゃんを追いかけて行きました。一部始終を見ていた百姓の与作(よさく)が」と話していると、遠山景晋「甚吉!南蛮人がお前を引き渡せと門の前まで来ているぞ!盗んだ物の隠し場所は知らないんだな?」と最後の確認をします。

 甚吉「お奉行様、もうちょっとだけ待ってくれ!今いいところなんだ!」と必死にお願いします。

 遠山景晋「ならぬ!盗まれた物の隠し場所が分からぬ、お主を置いておく理由は此処にはない!」と甚吉の袖を引っ張って行きます。

 甚吉「川の近くの桜の木の下に埋めた!続きを聞かせてくれ!」と隠し場所を自白します。

 遠山景晋「ならぬ!隠し場所まで案内いたせ!盗品が見つかれば、話しの続きは聞かせてやろう!」と甚吉に案内させます。

 甚吉は川の近くの桜の木の下を必死に素手で掘り起こします「ありました、お奉行様!早く拷問部屋に連れて行ってください!」と布に包まれた盗品を高々と持ち上げます。

 遠山景晋《落ちた》と心の中で思うと、甚吉を南蛮人の目の前で百叩きにしてから解放して上げました。

 甚吉は長崎奉行所の前で何時間も「鬼頭を呼んでください!与作はどうしたんですか?」と訊き続けたが、話しの続きを聞くことは生涯出来なかった。

 《めでたし、めでたし》


 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

小童、宮本武蔵

雨川 海(旧 つくね)
歴史・時代
兵法家の子供として生まれた弁助は、野山を活発に走る小童だった。ある日、庄屋の家へ客人として旅の武芸者、有馬喜兵衛が逗留している事を知り、見学に行く。庄屋の娘のお通と共に神社へ出向いた弁助は、境内で村人に稽古をつける喜兵衛に反感を覚える。実は、弁助の父の新免無二も武芸者なのだが、人気はさっぱりだった。つまり、弁助は喜兵衛に無意識の内に嫉妬していた。弁助が初仕合する顚末。 備考 井上雄彦氏の「バガボンド」や司馬遼太郎氏の「真説 宮本武蔵」では、武蔵の父を無二斎としていますが、無二の説もあるため、本作では無二としています。また、通説では、武蔵の父は幼少時に他界している事になっていますが、関ヶ原の合戦の時、黒田如水の元で九州での戦に親子で参戦した。との説もあります。また、佐々木小次郎との決闘の時にも記述があるそうです。 その他、諸説あり、作品をフィクションとして楽しんでいただけたら幸いです。物語を鵜呑みにしてはいけません。 宮本武蔵が弁助と呼ばれ、野山を駆け回る小僧だった頃、有馬喜兵衛と言う旅の武芸者を見物する。新当流の達人である喜兵衛は、派手な格好で神社の境内に現れ、門弟や村人に稽古をつけていた。弁助の父、新免無二も武芸者だった為、その盛況ぶりを比較し、弁助は嫉妬していた。とは言え、まだ子供の身、大人の武芸者に太刀打ちできる筈もなく、お通との掛け合いで憂さを晴らす。 だが、運命は弁助を有馬喜兵衛との対決へ導く。とある事情から仕合を受ける事になり、弁助は有馬喜兵衛を観察する。当然だが、心技体、全てに於いて喜兵衛が優っている。圧倒的に不利な中、弁助は幼馴染みのお通や又八に励まされながら仕合の準備を進めていた。果たして、弁助は勝利する事ができるのか? 宮本武蔵の初死闘を描く! 備考 宮本武蔵(幼名 弁助、弁之助) 父 新免無二(斎)、武蔵が幼い頃に他界説、親子で関ヶ原に参戦した説、巌流島の決闘まで存命説、など、諸説あり。 本作は歴史の検証を目的としたものではなく、脚色されたフィクションです。

韓劇♡三百字シアター

鶏林書笈
歴史・時代
韓国(朝鮮)史上のエピソードを300字程度で紹介する短編集です。神話時代から近代にいたるまでランダムに掲載していきます。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ウイグル雲景

ひとしずくの鯨
歴史・時代
 行ったところのない地への旅行というものは、ワクワクするものです。歴史というのも、似たところがあり、やはり知らない歴史には、同様の興趣があると想います。ここでは、ウイグルの経て来た様々な景を描きーーときにコントであったりしますがーー必要なら、解説を加えたいと想います。

御庭番のくノ一ちゃん ~華のお江戸で花より団子~

裏耕記
歴史・時代
御庭番衆には有能なくノ一がいた。 彼女は気ままに江戸を探索。 なぜか甘味巡りをすると事件に巡り合う? 将軍を狙った陰謀を防ぎ、夫婦喧嘩を仲裁する。 忍術の無駄遣いで興味を満たすうちに事件が解決してしまう。 いつの間にやら江戸の闇を暴く捕物帳?が開幕する。 ※※ 将軍となった徳川吉宗と共に江戸へと出てきた御庭番衆の宮地家。 その長女 日向は女の子ながらに忍びの技術を修めていた。 日向は家事をそっちのけで江戸の街を探索する日々。 面白そうなことを見つけると本来の目的であるお団子屋さん巡りすら忘れて事件に首を突っ込んでしまう。 天真爛漫な彼女が首を突っ込むことで、事件はより複雑に? 周囲が思わず手を貸してしまいたくなる愛嬌を武器に事件を解決? 次第に吉宗の失脚を狙う陰謀に巻き込まれていく日向。 くノ一ちゃんは、恩人の吉宗を守る事が出来るのでしょうか。 そんなお話です。 一つ目のエピソード「風邪と豆腐」は12話で完結します。27,000字くらいです。 エピソードが終わるとネタバレ含む登場人物紹介を挟む予定です。 ミステリー成分は薄めにしております。   作品は、第9回歴史・時代小説大賞の参加作です。 投票やお気に入り追加をして頂けますと幸いです。

処理中です...