上 下
14 / 23

第14話

しおりを挟む
 ☆☆☆

「ギ、ギブ……」

 でしょうね。最初から分かっていた。冷えたスプーンを帽子の中にポトリと手放した。
 ついでにまだ半分以上も残っているパフェを帽子の中にコッソリお持ち帰りした。
 冷たくなったお腹が「も、もう、い、いいです……」と悲痛な叫びを訴えている。
 これ以上食べても誰も喜ばない。

「ふぅ~、やっぱり甘いものは別腹だな。さてと……次は何食べる?」
「次は温かいのがいいわね。あっちの方にシチューとかなかったかしら?」
「へぇっ?」

 ……信じられない。二人が椅子から立ち上がって食べた食べたと満足している。
 ガラスの器には信じられないことに、まだ三分の二もアイスとフルーツが残っている。
 これを食べたとは言わない。つまみ食いだ。

「あ、あのぉ……まだ残ってますよ?」

 本来、お店の人が言うべき台詞を私が代わりに言った。

「全部食べられるわけだろ。食べたいなら食っていいぞ。パフェ好きなんだろ? 俺達は次の店に行くから、食べ終わったら家に帰ってろよ。帰らないと俺達が怒られるんだからな」
「なぁ‼︎」

 平然とした顔でセラさんが言うと、私の空の器を見てさらに言った。
 これは全部食べたから空になったわけじゃない。頑張って食べて、コッソリお持ち帰りしたからだ。
 ついでに私は辛党だ。甘いものより、しょっぱいのが好きだ。

「お姉さん、金はここに置いてくぞ」
「ありがとうございます! またのお越しをお待ちしております!」

 金を払うと本当に二人が行ってしまった。
 お店の人さえもつまみ食い犯にお礼を言っている。

「こ、こなくそぉー‼︎」

 怒り任せにテーブルに残された山盛りパフェ二つを器ごと帽子にブチ込んだ。
 そして、素早く召喚マジックで空の器を二つ取り出した。

「フゥーッ、フゥーッ……こ、これで良しぃ♪」

 冷たいパフェを食べたはずなのに、何故か冷や汗をかいてしまった。
 まったく食べ物を粗末にするとは許せない。
 帽子の中のパフェ達は私の胃に余裕がある時に処分してやる。

「さてと……」

 ゴッドマザーの言いつけを破って、見張り二人が遊びに行ってしまった。
 絶好の逃亡チャンス到来だ。私はサポート役だから逃げても問題ない。
 武闘会に参加するのはセラさんとお婆さんだけで十分だ。
 妖怪怪力ババアに変身すれば、優勝できる可能性も十分ある。

 晴れて自由の身になったので、早速自由を満喫させてもらう。
 二人が素通りした店々に引き返した。

 まずはチーズ肉焼き。次は炒飯、焼きそばと全て帽子の中に購入させてもらった。
 今は無理でも夜なら食べられる。その時までにお腹を空かせてやる。
 その為にも街を散策だ。他にもありそうな美味しそうな料理を探してやる。

 ☆☆☆

「月見ハンバーガー二個、チキンナゲット二個、ポテト四個ください」
「はい、少々お待ちください!」

 早くも月見、さらにチキンナゲットまで解禁してしまった。
 マジックナルドの衣装に早着替えして、ハンバーガー売りながら街を散策している。
 異世界料理を見るのはタダだが、買って食べるにはお金がいる。
 つまりこれが一番効率的な移動方法なのだ。

「まさかあんな欠点があったとは……」

 そして、何故こうなったかというと、召喚マジックに欠点があったからだ。
 召喚マジックを使えば、私の想像通り、記憶通りの料理を出すことが出来る。
 でも、食べたことのない知らない料理は出せないのだ。
 見た目が似た料理は出せても、実際に食べてみると味が別物だったのだ。
 塩だと思って舐めたら、砂糖だったみたいな感じだ。

 それに……これはこれでお金以外にも手に入れられるものがある。

「あの、おすすめのお祭り限定料理ってありますか?」
「それならコロコロ鳥の煮卵だろうな。それにしても、そろそろベリアス王子には結婚してもらいたいんだが、この調子では一生独り身だろうな」
「まあ、こっちは武闘会のお陰で毎回稼がせてもらっているんだから文句は言えんだろう」
「煮卵か……」

 ゴクリ、悪くない。そう、『情報』だ。
 ただハンバーガー売って、料理買い漁っているだけなのに、自然と情報が集まってくる。
 この国の王子の名前、武闘会の優勝賞品、参加資格なんかも手に入れた。

 優勝賞品で王子との結婚も可能らしいけど、今までの優勝者でそれを選んだ女性はいない。
 何故、女性なのかというと、武闘会の参加資格が若い女性限定だからだ。
 この時点でお婆さんは出場できない。セラさんが私の見張りを放棄した理由もおそらくこれだ。
 一人でもライバルになりそうな女を排除したいのだろう。

 何となく気持ちは分かるけど、優勝するつもりも王子様と結婚するつもりもない。
 もしも武闘会に出場して優勝したとしても、欲しいのは優勝賞金・金貨一万枚と叶えられる願い一つだけだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ひだまりを求めて

空野セピ
ファンタジー
惑星「フォルン」 星の誕生と共に精霊が宿り、精霊が世界を創り上げたと言い伝えられている。 精霊達は、世界中の万物に宿り、人間を見守っていると言われている。 しかし、その人間達が長年争い、精霊達は傷付いていき、世界は天変地異と異常気象に包まれていく──。 平凡で長閑な村でいつも通りの生活をするマッドとティミー。 ある日、謎の男「レン」により村が襲撃され、村は甚大な被害が出てしまう。 その男は、ティミーの持つ「あるもの」を狙っていた。 このままだと再びレンが村を襲ってくると考えたマッドとティミーは、レンを追う為に旅に出る決意をする。 世界が天変地異によって、崩壊していく事を知らずに───。

チルドレン

サマエル
ファンタジー
神聖バイエルン帝国ではモンスターの被害が絶えない。 モンスターたちは人を攻撃し、特に女性をさらう。 そんな義憤に駆られた少女が一人。彼女の那覇アイリス。正義感に厚い彼女は、モンスターを憎んで、正義と平和を果たすために、剣を取る。 アイリスが活躍したり、しなかったりする冒険活劇をご覧あれ。

異世界転移で無双したいっ!

朝食ダンゴ
ファンタジー
交通事故で命を落とした高校生・伊勢海人は、気が付くと一面が灰色の世界に立っていた。 目の前には絶世の美少女の女神。 異世界転生のテンプレ展開を喜ぶカイトであったが、転生時の特典・チートについて尋ねるカイトに対して、女神は「そんなものはない」と冷たく言い放つのだった。 気が付くと、人間と兵士と魔獣が入り乱れ、矢と魔法が飛び交う戦場のど真ん中にいた。 呆然と立ち尽くすカイトだったが、ひどい息苦しさを覚えてその場に倒れこんでしまう。 チート能力が無いのみならず、異世界の魔力の根源である「マナ」への耐性が全く持たないことから、空気すらカイトにとっては猛毒だったのだ。 かろうじて人間軍に助けられ、「マナ」を中和してくれる「耐魔のタリスマン」を渡されるカイトであったが、その素性の怪しさから投獄されてしまう。 当初は楽観的なカイトであったが、現実を知るにつれて徐々に絶望に染まっていくのだった。 果たしてカイトはこの世界を生き延び、そして何かを成し遂げることができるのだろうか。 異世界チート無双へのアンチテーゼ。 異世界に甘えるな。 自己を変革せよ。 チートなし。テンプレなし。 異世界転移の常識を覆す問題作。 ――この世界で生きる意味を、手に入れることができるか。 ※この作品は「ノベルアップ+」で先行配信しています。 ※あらすじは「かぴばーれ!」さまのレビューから拝借いたしました。

ホドワールの兄弟 

keima
ファンタジー
そこは竜や妖精達が暮らす世界「まほろば」 そのなかで小人種たちの暮らす里がある。  その里にくらすエドワード、カイン、ルカ、ライリーの四兄弟と里にすむ住人たちのものがたり。  短編「こびとの里のものがたり」の連載版です。  1話は短編を同じ内容になっています。 2022年6月1日 ジャンルを児童書・童話からファンタジーに変更しました。それにともないタイトルを変更しました。 タイトルのホドワールはホビットとドワーフを合わせた造語です。 

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

処理中です...