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第4話

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「へぇー、うわぁー」

 尖塔の作業通路から地面に瞬間移動マジックで降りると、さっそく町を歩いてみた。
 知らない町、というよりは外国だ。自然と海外旅行気分になって浮かれてしまう。
 町には高層ビルはなく、電柱の三倍ぐらいの長さの尖塔が一番高い。
 石造りの白壁、丸い楕円屋根の一階建て、二階建ての建物が統一されたように並んでいる。

 地面はオシャレな灰色の石畳で、黒や白のタイルを部分的に使って、幾何学模様まで描いている。
 広い道には馬車や車は走ってなく、完全に歩行者道路といった感じがする。
 道の両側にある大きなショーウィンドウのガラス窓が張られたお店には、家具や衣服、ホームセンターや手芸店で売られているような材料が数多く置かれている。
 この品揃えの多さは夜中か早朝に馬車なんかで商品を運んできて、アルバイトの人達が並べているのだろうか。

 まあ、それは知らなくても全然問題ないと思う。見た感じ住むには問題なさそうだ。
 町の人も私を見ても何の反応もない。普通に溶け込めているみたいだ。
 確かに私の服装は普通だし、背中まで伸ばした長めの黒髪を頭頂部で結んで、左側に釣り竿みたいに垂れ下げている程度のオシャレだ。

 じゃあ、町にも私にも問題はないとして、一つ何か問題があるとしたら、これしかない思い浮かばない。
 それは世界共通の問題だ。無名マジシャン・ルーイン小早川を日々苦しめるのもコイツだ。
 つまりお金がないのだ。

「うーん、働くよりは……」

 ちょっと考えれば分かる。今からこの町で仕事を探すよりも直にお金を手に入れる方が手っ取り早い。
 今の私は凄腕マジシャンで、ある程度のことはマジックで実現出来てしまう。
「それ……マジックじゃないですよ」と観客には指摘されるだろうけど、それは私が「マジックします」と言った場合のみだ。
 マジックで食べ物を出して、食べ物を売るだけなら普通の屋台と同じだ。
 マジックの大道芸人として観客に課金して貰うよりは確実にお金が手に入るはずだ。

「よし、ハンバーガーを売ろう!」

 マクド——いや、『マジックナルド』だ! 『マジックナルド1号店』だ!
 マジックナルドバーガーにポテトとコーラを付けて、マジックナルドセットで荒稼ぎしてやる。

 ☆早着替えマジック発動☆

「いえぃっ♪」

 キラッと星の輝くような効果音はなかったけど、私の服がステージ衣装に早変わりした。それも赤と黒と白の豪華で派手なゴスロリマジック衣装に変化した。
 こんな服は持ってないけど、そうそう、マクド……じゃなくてマジックナルドといえば赤だ。あと黄色だ。

「何だ、いきなり女の子の服が変わったぞ⁉︎」
「見たことない顔だな。他所者か?」

 突然町中に現れた、というよりは突然町中で早着替えした変人に住民達の視線が集まっている。
 さっそくのチャンス到来だ。興味の熱が冷めないうちに、次なる興味を即投入した。

「えぇ~、ハンバーガーにチーズバーガー、フィッシュバーガー、ご一緒にポテトはいかがですかぁ~?」
「「「何だ、何だ、何だ……⁇」」」

 商品名を大きな声で言いながら、頭から取った赤黒シルクハットから次々と紙や紙容器包まれ入れられた商品を取り出していく。
 住民達には興味というよりも困惑が広がっているみたいだけど、ここでやめたら変人扱いされて終了だ。そしたら、もう見向きもされなくなる。
 無料のティシュやチラシ配りだと思って、まずは食べてもらうしかない。近くのおじさんに近づくと笑顔で紙に包まれたハンバーガーを差し出した。

「ハンバーガーです。先着十名様まで無料で配布しています。ご試食どうですか?」
「あぁ、あぁ、貰おうか」

 全員無料だと私が困るので、先着十名でいかせてもらう。
 もちろんマジックナルドなので、スマイルは全員無料でいかせてもらいます。

「ほぉー、薄いパンとパンに焼いたひき肉を挟んでいるのか。焼きサンドイッチみたいなものか。これは美味いな」
「こっちは揚げた魚だ。それにしてもこのソースは絶品だな。砕いたゆで卵を入れているのか。手の込んだソースを使ってやがる」
「ママぁ! このチーズパーパー美味しいよぉ!」
「あら、本当! 美味しいわね!」

 おじさんから親子まで評判は上々だ。
 それに予想外にも無料配布バーガーが手で四等分に千切られ、さらに無料配布されていく。
 これなら売り上げは期待できそうだ。あと坊や、パーパーじゃなくて。バーガーね。
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