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第2話
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☆☆☆
「ふぅ……行きますか」
涙を服の袖で拭き取ると立ち上がった。
ひと通り怒って泣いてちょっとスッキリした。
私も大変だけど、叔父はもっと大変だと思う。そう思えば許せそうだ。
私は自由な異世界生活。叔父は辛く過酷な刑務所生活が待っている。
「くるりんぱぁ、と」
とりあえず女神様から貰った力を試してみようと思う。
地面に叩きつけたミニシルクハットを拾うと、くるっと回して頭に乗せた。
今の私は叔父が用意したステージ衣装を着ている。それ以外は何も持っていない。
セクシーなステージ衣装は、胸部分が白色、それ以外は黒色、コスプレ風の袖長ミニワンピースだ。
足の方は膝上までの黒のセクシー綱タイツを履いて、白い太ももを見せている。
客の視線・ほぼ男性客は叔父のマジックではなく、私の太ももに集中してしまう。
二十五浪の無名マジシャンの叔父は、女子高生を使って何とか男性客を二十人集めるしか出来ない悲しい実力だった。
そんな悲しい叔父を多少は助けようと、私もちょっとだけマジックの練習をしたことがある。
そのお陰で簡単なカードマジックとコインマジックぐらいなら出来るようになった。
その結果、観客参加型マジックで男性客を喜ばせる前座を任せられるようになった。
だけど、その前座が最高潮で、コスプレ女子高生との触れ合いマジックショーが終わると、あとは叔父のマジックで観客のテンションは落ちるだけだった。
「うぅぅ……」
叔父の悲しいショーを思い出すと、再び涙が流れそうになった。
無観客マジックショーの後の叔父とのラーメン屋での出来事……
「あれ? 豚骨頼んだのに、塩の味がするな。あっははは、何でだろうな」
「叔父さん……」
隠し味の涙が全然隠せてないよ……とかじゃないよ! こんなの思い出している場合じゃない。
女神様には「マジックで出来ることは大抵できますよ」と言われた。
だったら最初に試すのは『出現マジック』か『召喚マジック』に決まっている。
代表的なのは帽子の中から白いハトを出したり、杖の先から花を出したりするものだ。
私が出したい物はもちろん鳩や花じゃない。食べ物と飲み物だ。
頭上の帽子を手に取ると、帽子の穴に右手を入れてみた。
「おぉ!」
スポーンと凄い。めっちゃ深い!
普通なら右手を拳にしても手首までしか入らない。それなのに肘まで楽々入ってしまった。底無し帽子だ。
そんな底無し帽子の中を『エナジードリンク、エナジードリンク……』と探してみた。
今はスポーツドリンクよりもこっちが欲しい。迷える私に翼を授けて欲しい。
☆召喚マジック発動☆
「いえぃっ♪」
細長いアルミ缶に入った、ちょっと高級なアレが一本取り出せた。
ステージ慣れしたせいか、可愛く一回転して、左目ウィンクピースしてしまった。
当然無観客なので男達の黄色い声援は飛んで来ない。
「くぅ~、生き返るぅ~!」
でも、そんなの気にせずに蓋を開けた。
この一本の為に頑張ってます、みたいにゴクゴク飲んでいく。
冷たい南国の味が喉と身体の疲れを癒やしてくれる。
☆メンタルマジック発動☆
(なんか美味そうな匂いピョン。こっちからするピョン)
「——っ誰⁉︎」
なんか頭の中に可愛い男の子の声が突然聞こえてきた。
しかも、なんか勝手にメンタルマジック発動した。
持っていた缶を帽子の中に素早く捨てると、樹木の陰に隠れて急いで周囲を警戒した。
木、木、茂み、木、木、茂み……と何も見えない。
でも、頭の中の声は止まらない。
(近いピョン。果物の匂いだピョン)
多分、私を目指して進んでいる。多分、ピョンが語尾だから、ウサギとかカエルだと思う。
そう思っていたのに……樹木の隙間に見えたソイツと目が合った瞬間、
「ウガァアアア‼︎」
「ぎゃああああ‼︎」
お互い大絶叫した。緑色の肌の『ビックフット・雪男』、いや、『森男』が現れた。
多分、あっちは恐怖の絶叫じゃなくて、喜びの大絶叫だ。だって、こっちに向かって走ってくる。
身長二百七十センチ、汚らしい髪はボサボサの黒髪。腰には黒い毛皮の腰みのしかない。
☆メンタルマジック発動☆
(人間食う、人間食う! 頭からバリバリ食う!)
ピョン何処行ったの⁉︎
メンタルマジックのお陰で絶対に友達になれないのが分かった。
大好物人間の野太い声に変わった森男が向かってくる。
ルーイン小早川に箱に閉じ込められて、鍵かけられて、ガソリン撒かれて燃やされた時と同じぐらいの命の危機だ。あっちでは死んだけど、こっちでは死にたくない。
マジックで何とかこの危機を脱出したい。今度こそは!
「えっと、えっと……」
でも、ゆっくり考えている時間がない。森男がめっちゃ速い。
あれから走って逃げるのは絶対に無理。倒すか、空を飛ばないと助からない。
☆浮遊マジック発動☆
「ウガァ⁉︎ ウガガガガガァ‼︎」
「えっ、えっ、ええっ⁇」
お前が飛ぶんかぁーい! 思わず心の中でツッコンでしまった。
私を食おうと腕を伸ばしていた森男の両足が宙に浮き上がった。
地上一メートルの高さで手足をジダバタ動かしている。
まるでひっくり返った亀だ。身動き出来ない状態で、風船みたいにフワフワ地上から離れていく。
十、二十メートルと離れていき、森男が豆粒ぐらいになった時に急に落ちてきた。
「ウガァン……!」
そのままドスンと森男が地面に大激突した。首を含めた全身の関節がヤバイ方向に曲がりまくっている。
『浮遊マジック大失敗森男バラバラ殺人事件』発生だ。
「……いえぃっ♪」
うえっ、と生死体の直視はグロ過ぎる。
何事もなかったように素早く半回転して、左目ウィンクWピースで明るく気分を切り替えた。
「ふぅ……行きますか」
涙を服の袖で拭き取ると立ち上がった。
ひと通り怒って泣いてちょっとスッキリした。
私も大変だけど、叔父はもっと大変だと思う。そう思えば許せそうだ。
私は自由な異世界生活。叔父は辛く過酷な刑務所生活が待っている。
「くるりんぱぁ、と」
とりあえず女神様から貰った力を試してみようと思う。
地面に叩きつけたミニシルクハットを拾うと、くるっと回して頭に乗せた。
今の私は叔父が用意したステージ衣装を着ている。それ以外は何も持っていない。
セクシーなステージ衣装は、胸部分が白色、それ以外は黒色、コスプレ風の袖長ミニワンピースだ。
足の方は膝上までの黒のセクシー綱タイツを履いて、白い太ももを見せている。
客の視線・ほぼ男性客は叔父のマジックではなく、私の太ももに集中してしまう。
二十五浪の無名マジシャンの叔父は、女子高生を使って何とか男性客を二十人集めるしか出来ない悲しい実力だった。
そんな悲しい叔父を多少は助けようと、私もちょっとだけマジックの練習をしたことがある。
そのお陰で簡単なカードマジックとコインマジックぐらいなら出来るようになった。
その結果、観客参加型マジックで男性客を喜ばせる前座を任せられるようになった。
だけど、その前座が最高潮で、コスプレ女子高生との触れ合いマジックショーが終わると、あとは叔父のマジックで観客のテンションは落ちるだけだった。
「うぅぅ……」
叔父の悲しいショーを思い出すと、再び涙が流れそうになった。
無観客マジックショーの後の叔父とのラーメン屋での出来事……
「あれ? 豚骨頼んだのに、塩の味がするな。あっははは、何でだろうな」
「叔父さん……」
隠し味の涙が全然隠せてないよ……とかじゃないよ! こんなの思い出している場合じゃない。
女神様には「マジックで出来ることは大抵できますよ」と言われた。
だったら最初に試すのは『出現マジック』か『召喚マジック』に決まっている。
代表的なのは帽子の中から白いハトを出したり、杖の先から花を出したりするものだ。
私が出したい物はもちろん鳩や花じゃない。食べ物と飲み物だ。
頭上の帽子を手に取ると、帽子の穴に右手を入れてみた。
「おぉ!」
スポーンと凄い。めっちゃ深い!
普通なら右手を拳にしても手首までしか入らない。それなのに肘まで楽々入ってしまった。底無し帽子だ。
そんな底無し帽子の中を『エナジードリンク、エナジードリンク……』と探してみた。
今はスポーツドリンクよりもこっちが欲しい。迷える私に翼を授けて欲しい。
☆召喚マジック発動☆
「いえぃっ♪」
細長いアルミ缶に入った、ちょっと高級なアレが一本取り出せた。
ステージ慣れしたせいか、可愛く一回転して、左目ウィンクピースしてしまった。
当然無観客なので男達の黄色い声援は飛んで来ない。
「くぅ~、生き返るぅ~!」
でも、そんなの気にせずに蓋を開けた。
この一本の為に頑張ってます、みたいにゴクゴク飲んでいく。
冷たい南国の味が喉と身体の疲れを癒やしてくれる。
☆メンタルマジック発動☆
(なんか美味そうな匂いピョン。こっちからするピョン)
「——っ誰⁉︎」
なんか頭の中に可愛い男の子の声が突然聞こえてきた。
しかも、なんか勝手にメンタルマジック発動した。
持っていた缶を帽子の中に素早く捨てると、樹木の陰に隠れて急いで周囲を警戒した。
木、木、茂み、木、木、茂み……と何も見えない。
でも、頭の中の声は止まらない。
(近いピョン。果物の匂いだピョン)
多分、私を目指して進んでいる。多分、ピョンが語尾だから、ウサギとかカエルだと思う。
そう思っていたのに……樹木の隙間に見えたソイツと目が合った瞬間、
「ウガァアアア‼︎」
「ぎゃああああ‼︎」
お互い大絶叫した。緑色の肌の『ビックフット・雪男』、いや、『森男』が現れた。
多分、あっちは恐怖の絶叫じゃなくて、喜びの大絶叫だ。だって、こっちに向かって走ってくる。
身長二百七十センチ、汚らしい髪はボサボサの黒髪。腰には黒い毛皮の腰みのしかない。
☆メンタルマジック発動☆
(人間食う、人間食う! 頭からバリバリ食う!)
ピョン何処行ったの⁉︎
メンタルマジックのお陰で絶対に友達になれないのが分かった。
大好物人間の野太い声に変わった森男が向かってくる。
ルーイン小早川に箱に閉じ込められて、鍵かけられて、ガソリン撒かれて燃やされた時と同じぐらいの命の危機だ。あっちでは死んだけど、こっちでは死にたくない。
マジックで何とかこの危機を脱出したい。今度こそは!
「えっと、えっと……」
でも、ゆっくり考えている時間がない。森男がめっちゃ速い。
あれから走って逃げるのは絶対に無理。倒すか、空を飛ばないと助からない。
☆浮遊マジック発動☆
「ウガァ⁉︎ ウガガガガガァ‼︎」
「えっ、えっ、ええっ⁇」
お前が飛ぶんかぁーい! 思わず心の中でツッコンでしまった。
私を食おうと腕を伸ばしていた森男の両足が宙に浮き上がった。
地上一メートルの高さで手足をジダバタ動かしている。
まるでひっくり返った亀だ。身動き出来ない状態で、風船みたいにフワフワ地上から離れていく。
十、二十メートルと離れていき、森男が豆粒ぐらいになった時に急に落ちてきた。
「ウガァン……!」
そのままドスンと森男が地面に大激突した。首を含めた全身の関節がヤバイ方向に曲がりまくっている。
『浮遊マジック大失敗森男バラバラ殺人事件』発生だ。
「……いえぃっ♪」
うえっ、と生死体の直視はグロ過ぎる。
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