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第六章 記憶喪失の少年vs中華人民共和国

第67話 消える殺し屋との戦い

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 殺し屋ドラゴンの青龍刀は、乗った途端に勝手に暴れる原付バイクと一緒だ。
 制御不能の暴れ牛の前に立って戦うつもりはない。マシンガンで蜂の巣にしてやる。

「ふっ。お前ではないな。お前の腕で秀英シゥインの叔父貴は殺せない」

 男が軽く笑って言ったけど、こっちは記憶がない。否定も肯定も出来ない。
 あとで蒼桜さんに本当の事を聞くしかない。
 もしも僕がお父さんを殺したのなら、その償いをしたい。その為にはコイツを倒すしかない。
 賽銭箱に刀を戻して、マシンガンを二丁取り出して、両手に装備した。

「飛び道具か……」
『ドドドドッッ!』

 男が何か言おうとしたけど、二丁のマシンガンが火を噴いた。
 銃弾の雨が男に飛んでいく。けれども、男の姿が突然消えた。

「えっ……」
『前に走れ!』
「くっ!」

 賽銭箱さんの声が頭に聞こえて、反射的に前に跳んだ。
 跳んだ後に素早く後ろを振り返ると、男が青龍刀を振り抜いた状態で立っていた。

「何で……」
『瞬間移動だ。前ばかり見ていたらやられる。壁に背中を預けて撃てばいい』
「分かりました!」

 賽銭箱さんのお陰で助かった。
 壁に向かって走ると、すぐに賽銭箱さんの声が聞こえた。

『左だ』
「くっ!」

 右に跳ぶとマシンガンの引き金を引いた。
 けれども、男の姿が見えた途端に消えてしまった。
 そして、男が消えた瞬間に賽銭箱さんが喋ってくる。

『後ろだ、前だ、右だ』
「ああーッッ!」

 指示が早すぎて、頭がどうにかなりそうだ。その場で回転して、マシンガンを全方向に乱射した。
 これならどこに現れても弾は当たる。銃弾が空になるまで撃つと、新しいマシンガンを素早く出した。

『扉だ』
「くっ!」

 急いで二つの銃口を扉に向けた。蹴り飛ばされて扉は無くなっている。
 そこには無傷の青龍刀を持った男が立っていた。

「厄介な賽銭箱だ。日本語で喋るという事は、お前が千葉信一か?」

 ……千葉信一? 男が聞いてきた名前に心当たりはない。
 でも、神村遥は僕の本当の名前じゃないと賽銭箱さんが言っていた。
 もしかして、僕の本当の名前は千葉信一なのかもしれない。

「そうだと言ったらどうする?」

 何でもいいから、失った記憶の手掛かりが欲しい。
 今の時点では嘘か本当か分からないけど、千葉信一だと認めた。

「何も変わらない。チラッと名前を聞いただけだ。お前を始末する」
『左だ』
「くっ!」

 男が消えて、賽銭箱さんが教えてくれる。その場から跳んで距離を取る。
 さっきから何度も瞬間移動を繰り返しているのに、男が瞬間移動を使う動作が見えない。
 瞬間移動の品切れを待っているのに、それも起こらない。

「どうなっているんだ?」

 何度も消えては現れる男に苦戦する。
 すぐ近くに現れる時もあれば、遠くに現れる時もある。
 神出鬼没の相手の倒し方が分からない。

『あの刀が原因だ。距離は短いが、回数制限無しで瞬間移動が使えている』

 倒せないと困っていると賽銭箱さんが教えてくれた。
 思い通りの場所を瞬間移動で、デタラメに飛び回られたら手も足も出ない。

「だったら、どうやって倒せば……」
『刀を奪い取る以外にない。身体を掴めば逃げられる事はない。あとは至近距離で弾を撃ち込めば終わりだ』
「うん、やってみる」

 倒し方を教えてもらった。両手のマシンガンを賽銭箱に戻して、現れた男を掴む事にした。

(賽銭箱さんの声に集中だ)

『左後ろだ』
「フゥッ!」

 声が聞こえた瞬間に高速で振り返って、右手を伸ばした。
 だけど、男が右手に持った青龍刀を左から右に振り払っていた。

「ふがぁ……!」

 男の左肩を掴むとほぼ同時に左脇腹を撫で斬られた。
 肉を切られた感触は感じた。でも、痛みを感じるまで待てない。
 左拳を握り締めて、男の鼻に左拳の直拳を打ち込んだ。

「フゥッ!」
「ぐぅっ……!」

 殴られた男の頭が後方に激しく揺れた。このチャンスを逃したりしない。

「アァッーッ!」
「ぐぅ、ぐがぁ、ぐがぁ……!」

 男の顔面の前に左拳を構えて、連続で打ち込んでいく。
 男が殴られながら、右手の青龍刀を振り回して、僕の身体の左側を斬り刻み、突き刺してくる。
 太ももや腹が斬られて抉られていく。熱くて痛い。意識が飛びそうになる。

「ぐぅぅぅ! アァッーッ!」
「ふぁがあっ……!」

 でも、我慢比べで負けていられない。左拳を構わずに打ち込んでいく。
 蒼桜さんはいつもこの痛みに耐えている。この程度の痛みも耐え切れないで、一緒にいる資格はない。
 まだお父さんを殺したのかも聞いていない。償いを済ますまで死ねない。

『もういい。気を失っている』
「うあっっ……」

 賽銭箱さんの声を聞いて、全身から力が抜け落ちた。男と一緒に床に崩れ落ちた。

『まだ寝るには早い。刀を奪って、トドメを刺せ』
「う、うぅっ……ぐぅっ!」

 賽銭箱さんの言う通りだ。痛む身体を動かした。
 右手で男の左肩を掴んだまま、殴って傷ついた左手で青龍刀を奪い取った。
 そして、刃を男の首に押し当てると、一気に引いて斬り裂いた。

「グゥ! ふぅ……」

 男の血飛沫に安心して、男の身体の上に倒れ込んだ。
 顔にかかる血飛沫が心地良い。このまま寝ていたい。

『死ぬつもりか? 回復薬がある。寝るつもりなら、それを飲んで避難した後だ』
「う、うん……」

 賽銭箱さんの言う通りだ。
 頑張って身体を起こすと、床に落ちている缶ジュースを拾った。
 箒に乗った魔女が描かれている。

「ふぐぅ……!」

 フタを開けて飲んでみると、恐ろしく不味かった。
 汚れた川の川底に生えている、ヌルヌルの苔を濃縮したような味がする。
 それでもまだ死ぬわけにはいかない。
 全部飲み干すと、青龍刀を杖代わりに立ち上がった。

「はぁ、はぁ……!」

 こっちは終わったけど、蒼桜さんがまだ戦っているかもしれない。
 頑張って社長室から秘書室に向かった。壁に磔にされて、女の殺し屋が死んでいた。

「蒼桜さん、大丈夫?」

 机の上に座っている蒼桜さんに聞いた。怪我しているようには見えない。

「あんたよりは平気。毒付きの弾丸を右腕に一発食らったけど、解毒薬は飲んだから」
「良かった。こっちも終わったよ。これからどうしようか?」

 あとは張敏ヂャンミンの叔父貴を倒すだけだけど、マシンガンを撃ちまくって暴れたんだ。
 きっと誰かが連絡しているはずだ。叔父貴ではなく、新しい殺し屋がやって来そうだ。

「ここに居ても殺されるだけだから帰りましょう。あんたの怪我も治さないといけないから」
「うん、そうしよう。僕も聞きたい事があるから……」

 キャンピングカーに戻る事に決まった。
 治療も大事だけど、蒼桜さんのお父さんを僕が殺したのか聞きたい。
 そして、蒼桜さんのお父さんが何者で、蒼桜さんが何者かも知りたい。
 組織の下っ端というよりも、幹部のような対応だった。
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